愛は救い、けれど呪い
※前回、注意書きを入れ忘れておりました。ご不快な思いをされた方、申し訳ございません。
人は何かを成すために生まれてきた――。
そう言った父の言葉。
ただ、愛しい人の役に立ちたかった。
それが出来れば、自分の命は惜しくないと思う。
(――だって、私の命はライオネル様がくれたもの)
嫁いできて人として扱われて、幸せだった。
生きているという実感が湧いた。
(私に生きる希望を与えてくださった、ライオネル様の役に立ちたい――)
(死なずにこの歳まで過ごせたのは⋯きっと、私の人生が、ライオネル様のお役に立つためだったのだと思うの)
(だから、私、死ぬのはちっとも怖くないわ)
(――⋯でも、どうしてかしら?聞こえてくる私を呼ぶライオネル様の声が、泣いていらっしゃるのは⋯)
どうして泣いているのか、ミレイユにはさっぱり分からなかった。
ふと、セラの言葉が蘇る――。
『――奥様⋯っ、どうか、どうか、お母君様の墓前で旦那様と交わした約束を忘れないで頂きたく存じます⋯っ――』
(――⋯⋯約束⋯てなんだったかしら⋯?)
ふわりふわりと漂う意識の中で、ライオネルとの約束が鮮やかに蘇る。
『どうか、私のために生きてくれ、ミレイユ――』
『――お前が死にたいと願った時、私の顔を思い出してくれ』
『――お前無しじゃ生きられない男を、思い出してくれ』
(そうだったわ――、だから、ライオネル様は、泣いていらっしゃるのね⋯)
意識が浮上する。
ライオネルの声が鮮明に聞こえてくる。
「⋯ミレイユ、ミレイユ、頼む。⋯一口でも良いんだ。くすりを、薬を飲んでくれ」
(――⋯くす、り⋯?)
(――どうして、病気でもないのに、私に飲ませたいのかしら⋯?)
聞こえてくる言葉の内容を不思議に思う。
(――でも、ライオネル様がそれで満足をするのなら、私は飲むわ⋯。でも――その薬は、――どこにあるの?)
薬の存在を感じられなかった。
そう思う、ミレイユの唇に熱いものが覆う。
(あ⋯)
(⋯これは、分かるわ。ふふ、これはライオネル様の唇だわ)
(わたし、ライオネルさまの口づけが好きなの⋯。気持ちがフワフワとして⋯幸せを感じるの)
(それに、唇を離した時のライオネル様の顔が、すごく⋯すごく可愛いの――)
(お母様が仰ってたわ。口づけは心に決めた人とするものだって――)
(⋯私、こんなに心に決めた人との口づけが、幸せを運んでくれるって知らなかったわ)
(――私が死んだら、お母様に会えるかしら?お母様――)
亡き母を思うミレイユの心に、母の言葉が蘇る――。
『――お父様を、恨まないであげてね。あの人は、魔法が好きだったの。ただ、魔法に魅了されただけなのよ――⋯』
まるで、母が近くにいるように、ミレイユは感じた。
(お母様、⋯あの言葉は、結局よく分からなかったけど、私、お父様が好きな、その魔法が使えるようになったのよ。ライオネル様のお役に立ったかは、分からないけど⋯)
そういうミレイユの傍に、母の声が聞こえた。
(そう――。それは、良かったわね)
久しぶりの母の声に、嬉しく思う。
(ええ――。私でも、役に立つんだって、嬉しかった――)
そんな、ミレイユに母の優しい声音がミレイユを優しく包む。
(⋯もう良いの?)
母の確認に――
(ええ、もう十分、私、幸せだわ――)
ミレイユは、うっとりと答えた。
額に柔らかい感触が伝わる。
(――これは、分かるわ。いつもライオネル様がお眠りになる前にして下さる、おやすみの口づけなの)
ミレイユは闇に溶け込むように眠りにつくことにした。
(――おやすみなさい、ライオネルさま⋯)
眠りにつこうとするミレイユは、あることを思い出す。
(――あ、そうだ、王命⋯)
「ライオネル様との赤ちゃん、作らなくっちゃ」
そう言葉にしたミレイユの眼前に、見慣れた天蓋が目に入った――。




