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愛を踏み台に、絶望を【※注意】一部残酷描写あり



 魔物の森を前にする三人。


「ふうむ、どうするかのう。森に逃げおおせてしもうたし、人を食らうものがいるところに、むざむざ入る阿呆な真似はしたくない。ライオネル、其方そなたなら己の身体ぐらい回復できよう。ちいっと噛まれながら退治してこい」


 ライオネルに無茶を言う王太子。


 空には稲光が鳴り出す。


「おお、怖いのう。冗談じゃ」


 即、己の発言を撤回した王太子は、


「あの黒いもの、巨体から出てきたのう。はらに寄生する生き物なのかのう?しかし、他の魔物からはそんなもの出はせんかった。何が違うのじゃろう?大きさかや?」


 王太子は、ブツブツと森に向かいながら独り言。


 その後ろでライオネルは、懐から取り出した魔力回復薬をミレイユに与えていた。


(王太子の魔力は、無尽蔵と噂で聞いたが、⋯あながちまことかもしれん)


 疲れているどころか、むしろ、退屈しのぎが出来て、浮き浮きしている様にも見える。


 一方ミレイユはというと⋯ライオネルから与えられた魔力回復薬を持ったまま警戒心たっぷり、といった表情で王太子の後ろ姿を見ていた。


「ミレイユ、少しは服用したが良いのではないか?」


と、すすめてようやく一口。


(こちらももしや、無尽蔵ではあるまいな⋯?)


 だとしたら、規格外すぎる。


「ライオネルや」


 王太子に呼ばれそちらを見た。


「これから先、我が合図をするまで手を出すでないぞ。それとお主ら、もう少しばかり我から離れるのじゃ」


 王太子の言われるまま離れる二人。


 しばらくそのままの状態が続いた。


 気付けば森の薄暗い場所、木々に隠れるように佇み現れる、髪も顔もない。黒い魔物。


(――!?いつの間に――)


 それが数体。


 ゆっくりと、二足歩行で王太子へと近付いてゆく。


「で⋯」


 声が出そうになって慌ててライオネルは自分の口を抑えた。


(王太子は、気付いている。⋯⋯魔物を誘っているのか)


 なにをするつもりなのか、ライオネルは、その様子を見つめた。王太子からの合図を見逃さぬように。

 柄を持つ手がぎりり、と鳴る。


 王太子がなにも仕掛けてこない様子にまずは魔物が一体――。

 王太子へと対峙をした。



 ばかっと開く裂けた口から、大きな歯と赤い舌が覗く。


 ダラダラと、よだれを垂らした裂けた口が王太子の眼前まで迫っていた。


「いまじゃ、ライオネル」


 静かに王太子はライオネルに命じた。


 ライオネルはその言葉に、大きく一歩踏み込み、間合いに入ると同時に大剣を振り抜いた。


 その勢いに王太子の赤髪がフワリと浮く。


 ライオネルの振り上げた刃が、吸い込まれるように魔物の身体に入ってゆく。


 そのまま真っ二つに分かれると、魔物はどっ、と倒れた。


「ふむ。見事。残りも頼む」


 ライオネルは、その言葉に次々と魔物を斬ってゆく。


 王太子は、斬られた魔物をじっと見て


「小奴ら、四足ではなかったのう」

  

 しばらく思案したのち――


「⋯⋯ライオネル。逃げた魔物とそやつら、まったくの別物ぞ」


と、王太子はそう結論づけた。


 その言葉にライオネルは反応する。


「⋯!なんと」


「元は、同じ仲間であったのだろうが、肚の中で人の味を覚えたか、はてはたまたま、人を捕獲して味を覚えたか、そこまでは我も分からぬがな」



「排除するは、後者のかたじゃ」



「前者は、化けて標的に食らわせ肚の中で分裂し、餌を待ちわびる。宿主は大型の魔物じゃ。後者は、化けて標的を油断させて、ばくりと食ろう輩じゃ。そんなものが森の中だけで済めば良いが、村になんぞ現れてみよ。⋯⋯ふん、意外と村を壊滅させたのは小奴らかもしれぬな」


 ノイハイム村の過去を王太子は引き合いに出す。


「ミレイユ、お主、村の者たちと避難しておっただろう?あの村を壊滅させたのは、この魔物かもしれんぞ?ライオネルは、野宿。今殲滅せねば、村の者共も帰ったところで、この黒き魔物にがぶりと食べられるであろうのう?」


 ミレイユの瞳が、大きく揺れた。


「求める者に小奴らは体の一部を変化させる。小奴らにとってはそれが生きる道であるからじゃ。腹を空かした魔物は獲物のことしか考えぬからのう。村の者がある日突然いなくなる。そうなれば残された者は恋しく思う。そうなれば小奴らの好機じゃ」



 ミレイユの心に村人たちの笑い声が響く。


 子供たちの無邪気な声が――。


 薬草を教えてくれた女性たちの明るいおしゃべりも――。


「⋯だめよ」


「そんなの⋯だめ」


 ミレイユの声に反応するように、足元から地面が凍り始めた。


 そのまま地面も草も木々も全てを凍らせていく。



 ライオネルは、その様子に魔物が雪積もる時期は、結界が揺らごうが、森から出てこないことを思い出す。



 地面に伏した魔物の死骸も全てを凍らせた。



「ふん、氷漬けか。まあ、今なら安全かや?他のものも凍ったか見てくるかのう」



 王太子の何気ない一言にライオネルが動いた。


「それならば私が参ります。殿下はここで、我が妻とお待ちください」


「お主が行ったところで一体一体殴って砕くのかや?それなら我が行ったが早かろう。無詠唱で爆散よ」



 その一瞬の隙だった。



 突如として黒い魔物が飛び出してきた。


 ライオネルは殿下を守り、ミレイユは、ライオネルを守るため、飛び出してしまった。



「ミレ⋯――っ」


 標的は、ミレイユだった。


 黒い魔物は、ミレイユの左肩に噛みつくと、そのままの勢いで噛みちぎり、体の一部をライオネルへと変化させた。


 変化させたライオネルである魔物は、ミレイユを斬り裂いた。



 守るべきもの、その姿の者からの攻撃。



 ――能力は、使えなかった。

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