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地獄すら燃やす、愛



「さて、お主ら、そんなに悠長に出来ぬぞ。そこのデカブツがまだ生きておるかもしれんからのう。まあ、随分とズタボロだがのう」


 王太子はそう言うと、スッと上空へと移動した。


 大猫も燃える温かそうな飛竜に付いていく。


 大猫の背に乗るライオネルは、ミレイユを支え、ミレイユは初めて動く大猫の背から、周りを見ることが出来た。


「まあ、近くで見るとすごく大きいわ⋯」


 自分で倒したにも関わらず、ミレイユは魔物を上空から見下ろすと呑気にそんなことを呟いた。



 じっ、と魔物を見下ろしていたミレイユがぽつりと呟いた。



「⋯⋯動いていますわ」


「は?動いて?」


 ライオネルは、ミレイユの言葉に反応し、眼下に倒れる巨体を見下ろす。


「ほら、あの背中やお腹の周りが⋯ポコポコと⋯」


 ミレイユが指し示す方向にライオネルは、目を凝らす。


 ポコポコ⋯、といっていたものはボコボコと巨体の皮膚を突き破る勢いでり出し、無数に波打つように動き出していた。


「⋯ッ!?⋯殿下!!」


 巨体の異変にライオネルは、王太子へ顔を向けた。


 王太子は、既に異変の物体に攻撃する体勢なのか、片手に真っ赤に燃える球体を浮かし、眼下に広がる様子を眺めていた。



「そおれ」


 王太子のほうる球体は、軽やかな手つきとは真逆に、まっすぐに巨体目掛けて速さを増して飛んでいく。


 ボコボコとしたものが、巨体の肉を裂き、飛び出す瞬間、王太子のおった球体がぶち当たり、ドオン!!と、凄まじい音ともに爆炎が炸裂した。


 燃える巨体に、散り散りになった黒い肉片が散らばる。


 その巨体から無数の黒い物体が這い出てきた。


「⋯なんだ、あれは」



 四つ足歩行で逃げる物体。丸い頭に細長い体。尾は長く、クネクネと動いて皆同じ方向を向き、一斉にその方向を目指している。


 大地は黒く塗られたように、その黒い生き物に覆われる。

 

(⋯あれは、聖女に化けていた魔物ではないか⋯?森にいた時は二足歩行だったが、走る時は四足しそくなのか⋯?)


 考えあぐねているライオネルの耳に

 

「娘」


 王太子が、ミレイユを呼ぶ声がした。


「あれを取り逃がせば、ライオネルは野宿じゃ。排除できねば、ライオネルは屋敷に帰すことは許さぬ」


 ただでさえ肌寒いというのに、空が曇りだす。


 ライオネルは、空を仰いだ。


 王太子は、尚も続ける。


「お主、ライオネルの力になりたい、とぬかした割にはそれほどの働きではあらぬのう?」


 地面も黒けりゃ空も黒い。ビュービューと冷たい風まで吹いてきた。


 ライオネルは、前に座るミレイユのつむじを見る。

 白金色の髪が、風に吹かれて乱れていた。


 そのままライオネルは、地面へと視線を移す。


 つむじ風が枯れ草を舞い上がらせ、それがあちこちでいくつも出来ている。

 

「あれは、厄災の黒よ。我は逃すことを許さぬからな。ライオネル、其方、一匹たりとももれなく打ち倒せよ、良いな」


「嫁御が働かぬのなら、そちが働け。これは命令ぞ」


 王太子は、ライオネルを指差し、睥睨すると、そう命ずる。


 真っ黒の雷雲が空を覆った。


 咄嗟にライオネルは、ミレイユの腰に回す手に力を込める。


「⋯させません!!!」



 ミレイユの大声と共に空から雷が降り注ぎ、つむじ風は竜巻へと変わった。


(案の定⋯!)


 弾け飛ぶ黒い“黒い厄災”。

 竜巻に飲まれる“黒い厄災”。



「雨は降らすでないぞ、小娘」



 王太子がいくつもの炎の塊を放つと、それは竜巻に飲まれ、消えること無く、炎の竜巻へと姿を変えた。



「ふうむ、数は減らしておるが、殲滅までとはいかぬのう。目指す方向は、魔物の森か?あやつは、我の無二に化けておったのと同じ種族であろう?生かしておいても人の味を知る魔物なんぞさいしか生まぬぞ。隣国の防壁ぐらいにはなるやもしれぬがな」


 ドカーン!ガラガラピシャーン!と鳴っている上空で、王太子がなにを言ってるのか、ライオネルはさっぱり聞き取れなかった。


 王太子は、ライオネルとミレイユを見遣ると


「我は、聖女に会いたい。はよう、終わらせて帰るぞ。いざ魔物の森に向かうのじゃ!」


 前半、欲の塊のような言葉が聞こえた気がしたが、雷の音で空耳ということで、ライオネルは己を納得させ、王太子が向かう方向、いざ魔物の森へと猫が暖を取るため、竜の後ろを付いていくのに任せて進む。



「そんなに、近寄ると顔が焼けるし、我々も火傷するのだが」


 猫に言うが、どこ吹く風。


 ライオネルは、片腕に支えるミレイユを見下ろすと


「⋯させないわ⋯ライオネル様に野宿なんて⋯」


と、ブツブツ聞こえてきた。



 ミレイユの想いに応えるように、雷も炎の竜巻もまるで生きているかのように、“黒い厄災”だけを追い回すように、仕留めていく。


 地獄絵図のような様子だが、まるで妻の愛の激しさのようにも感じるライオネルは⋯


(非常事態というのに、⋯何故だろう。少しうれしく思うのは)


と、場違いに面映ゆく感じるのだった。



 無数の数で地を覆っていた“黒い厄災”は、ミレイユと王太子の魔法のお陰で、その数は激減し、まばらとなっていた。



「あと、ほんの少しなんじゃがのう、残念じゃがここまでかのう」

 


 もう目前に魔物の森。突如の王太子の声――


「娘!あの森に魔物が入れば、ライオネルは野宿じゃよ!」


「ダメです!!」


 ミレイユの能力をしぼかすまで搾り尽くさんとする王太子。


 ライオネルのめいで部下が繰り出した地の魔法により、ボコボコに隆起した地面から森の地へと穿つようにいかずちが降り注ぐ。


 森の中に入ろうと這う“黒い厄災”たちは、容赦なく雷鳴と共に打たれた。


 数体を逃し、魔物の森周辺へとたどり着いた三人。


 さて降りよう、と竜や大猫に乗って下降している最中だった――。


 王太子、ミレイユ、ライオネルに向かって、黒い魔物――赤い舌に歯だけが異様に目立つ王太子が“汚物”呼ばわりした魔物が襲いかかってきた。


 相当な飛距離である。


 王太子は、空飛ぶ炎竜を巧みに操り、するりと下に避けると、黒い魔物の顎のあたりに手をやり、爆散。


 ライオネルは、ミレイユを片手で抱くと、もう片方の手は剣を操り素早く斬り伏せてゆく。


 

「なんじゃ、あんなに逃げ回っていたというのに、森に帰り着いた途端、強気になったのかえ?」


 黒い魔物の死骸を見遣るとそう言葉にする。


「忘れてはおるまいが、此奴こやつ弱点に化けおるからして、あまり心に想い人をえがくでないぞ」


と、口を開けば「聖女」という王太子がそう二人に注意をする。


「まあ、其方そなたら二人が出おうものなら、我が灰にしてやるがな」

と、言うとハッハッハッと笑うのだった。

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