愛ゆえの決意
王太子は、見えないミレイユに実況するかのように、一人で喋る。
「隣国が使いよる武器は、サライアの武器かのう。妙な飛び道具じゃが、あの魔物にはあまり効いておらぬようじゃな。はたき落とされ食われよるわ」
「このまま兵力が削がれてくれれば良いのう。魔物の森消滅は、隣国にとっては好機じゃからのう。あそこの倅は、未だに我が愛し子に懸想しとるみたいじゃからの、隙あらば奪おうとする。ほんに邪魔じゃ」
よく喋る王太子を見ながら、ミレイユは、
(すごいわ⋯。ライオネル様が三人いても、とてもじゃないけどこんなに喋らないと思うわ)
と、感心して聞いていた。
「ふふふ、巨人の一歩は、強烈じゃのう。すぐに追いつきよるわ。ライオネル達もあそこにいては、すぐに追いつかれるじゃろうて」
王太子の言葉にミレイユは、ライオネルを探そうと、王太子の向く方向に目線をやった。
少し見えにくかったが、かろうじて他の皆と一緒にいる姿が確認できた。
とくり、と胸が鳴る。
「時に娘」
王太子に呼ばれ、慌てて視線を戻した。
「お主の力は、ライオネルに関してばかり発動するのかえ?」
そう質問してきた王太子は、男女とも区別がつかない綺麗な顔立ちで、優しく微笑んでいた。
「そう、みたいです。私の力は他者のためのものだと、そう伺いました。なので私は、ならばライオネル様のために使いたいと、ライオネル様が守るものを、少しでもお支えする力になれたらと、そう願いました」
「ほう」
ミレイユの言葉に王太子の瞳が煌く。
「娘、ライオネルの守るものは強大ぞ。シュトラール領はもちろんのこと、領民や部下。それにライオネルは、我が忠臣。いわば我もその対象じゃ。国のために働く忠臣ぞ。娘、そなたそれでも、それを対象にして力が発動するというのかえ?」
王太子の言葉に、ミレイユは頭の中で噛み砕いて想像しながら、「⋯⋯たぶん」と自信無げに答えた。
「そうか、ふふ⋯、ならば娘、そのことだけを考えておれよ。このノルデリアの地で皆が危機に瀕する時は、ライオネルの危機と思うのじゃ、良いな?」
そう言うと王太子は、小首を傾げ、赤毛が艷やかに揺らした。
「時に、目下のライオネルの頭を悩ませておるのは、魔物の森の魔物たちじゃ。あれを殲滅せねば、ライオネルは眠ることも許されず、聖女が訪れるまで、魔物の森を監視せねばならぬことになるぞ。今は魔物の動きを静観している最中じゃがな」
「お主の位置から見えるか?あのデカブツを。あれが倒せるのは今のところ、其方だけじゃ。其方しかライオネルを救うことは出来ぬ。やってくれるか?ミレイユとやら」
王太子の言葉にミレイユは、うわ言のように呟く。
「⋯私にしか出来ない」
「そうじゃ。お主にしか出来ぬ。我とて無理じゃ。ライオネルを救うことが出来るのは、其方だけじゃ」
王太子のトドメの一言がミレイユを決意させる。
「ライオネル様が、それで楽になるのなら⋯」
「この戦いが終われば、すぐに帰れる。そうすれば夜は夫婦で共寝が出来るぞ。出来ねばライオネルは、この寒空の下、野宿じゃな」
王太子は、華やかな笑顔でそう言うのだった。
ミレイユは、上体を少し起こすと決意の眼差しを王太子に向ける。
「私、やります。ライオネル様のために!」
「よう言った。それでこそシュトラール辺境伯夫人!」
王太子は、晴れやかな笑顔でミレイユを褒めると
「そろそろ食事も終わりのようじゃ。皆食い荒らされてしまったようじゃな。あの魔物、餌を探して周りを見よるぞ。ライオネルたちを見つけるのもそう時間もかからんことじゃろう。ほうれ、動きだすぞ」
王太子の瞳の奥がきらきらと光る。
「まずは、我が奴を引きつける。お主はライオネルやあやつが守るもの、全てを考えて思い浮かべよ。安寧だけを願え。それが発動条件じゃ。ではの、ミレイユ、後悔の無いようお互い励もうぞ」
そういうと、王太子は、炎を残像のように、飛竜とともに降下した。




