表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/97

覚醒



 ライオネルは、その後ろ姿を見送ると、すぐに消化班に燃える木々を鎮火させた。


 念の為、広範囲に水を降らせておく。


 その時だった。


「メアリー!」


 部下の一人が叫んだ。


 見ると森にたたずむ女性に声を掛けている部下の姿が。


「いや、違うよな⋯、森から出てきてるんだし⋯、でも、メアリーに――⋯そっくりだ」


 フラフラと近付く部下に、ライオネルは、目を座らせて、走り駆け寄ると、容赦ようしゃなく森に佇む女を斬った。


 やはり、ほとばしる血と共に、次に聞こえたのは、鋭い咆哮ほうこう


「さっきの今だぞ!油断するな!」

 

 森の中で姿を現す、全身真っ黒の二足歩行、口だけの魔物。


 その魔物が、大きく口を開くと、先程、王太子が飛行する火の竜が出したものと同じ――炎線が放出された。


「――なっ!?」


 ライオネルは、部下を突き飛ばし、寸前で避ける。


 炎線は、地を駆け、明後日方向に飛んでいくと見えなくなった。


 ライオネルは、素早く、剣を握り直すと森の中の魔物を見る。


 しかし、すでに姿はない。


「土使い!!森の中、見える範囲で良い!地面を極限まで隆起りゅうきさせてくれ!!」


 呼ばれた土使いは、言われたまま素早く詠唱。


 地面が急激に隆起すると共に、むき出しになった木々の根は、重みに耐えきれず、倒れだす。


「元の地面の高さに戻せ!平らにするんだ!」


 無茶なライオネルの要求も、「えぇ!?」と言いつつ素早く唱える土魔法。


 元に戻る地面。

 

 倒れた木々の間に現れた黒い二足歩行の魔物。


「現れたぞ!魔物の足元!土を穿うがて!深くだ!!」


 土魔法使いは、ライオネルの言われるがままに詠唱。


 地面に突然、穴が開くと、二足歩行の魔物はドスン!と尻もちをつくように落ちた。


「土を寄せて固めろ!圧殺する気でやれ!!」


 ライオネルは、そう命令すると、風魔法使いに首を巡らし、声を上げる。


「風使い!見えてる部分は胴体から首のみ!後は固定した!!切り刻め!!」


 ライオネルの声に反応した風魔法使いが、言われたとおりに瞬時に切り刻んだ。



 土の上でバラバラになっている魔物の焼却処分を、延焼しないように指示を出しているライオネルの所に、王立騎士団の一人が駆け寄ってくると



「シュトラール卿、先程の魔物が放った攻撃の方向、こちらに向かっている際に見掛けたのですが、避難移動していた貴殿の領民らの方向かと思われます。いかが致すかは貴殿に任せよ、と王太子様より――指示が⋯」


 言い終わらぬ内に、騎士は、たじろいだ。


「――承知した」


と、一言そう言うとライオネルは、きびすを返して部下の一人を呼んだ。



 その頃、寒空の下。

 

 散乱した荷物、逃げ惑い怪我を負ってうめく領民達。


 その中に一人の少女が、血だらけの人物を抱き寄せ必死に名を呼びかけていた。


「だめよ、いかないで、お願い⋯。目を開けて――セラ⋯っ」


 必死で押さえる傷口が熱い。


 セラの血の熱さが、まだ生きていることをミレイユに教えてくれるが、その熱が、どんどんミレイユの手からこぼれ落ちてゆく。



(⋯私が足が遅いから。私なんかを庇うから⋯)



 これ以上、血液がセラの身体から零れ落ちないよう、必死でミレイユは両手で押さえた。


 視界が涙で揺らめいては、はたはたと落ちて、視界を明瞭めいりょうにしたかと思えば、またかすむ。


 落ちた涙が、セラを濡らす。


 視界をにじませ傷口を――状況を見えなくさせる自分の涙さえ苛立たしく思った。


 ミレイユは、必死で祈った。願った。

 

(おねがい、おねがい――!血、止まって!傷なんて消えて!元のセラに返して!)


 脳裏にセラの笑顔が浮かぶ。


 失いたくなかった。


 これ以上、大切な人の前で無力な自分が嫌だった――。



 その時だった。


 ミレイユの中でなにかが湧き上がった――。



「おくさま⋯」


 目の前で、聞きたかった声が、ミレイユの耳を震わせた。


 開いてほしかった瞳が、まっすぐに自分を見つめていた。



「――セラ!」


 思わず、ミレイユは力の限り目の前の女性を抱きしめた。



 血だらけの身体。



 命を零していたその傷口は、跡形もなく消えていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ