熱で溶かせば、よい
王太子の言葉を聞いたライオネルは、すぐに水魔法使いと、土魔法使いの消化班を呼んだ。
近くにいた風魔法使いと火魔法使いも呼び寄せ、
「王太子の様子を逐一観察して、炎で暴れ苦しむ魔物がいれば、即、水魔法か土魔法で鎮火を。その後は水でも風でもどちらでもかまわんから切り刻め。逃げ惑って火事にされると敵わんからな。火使いは、その後、焼却処理をよろしく頼む。風魔法に余力があれば、水気を切ってもらえ」
と、やや早口で指示して、馬を呼び寄せた。
そうこうしている間にも王太子は、どんどん魔物を塵へと化す。
楽しそうに魔物を指先ひとつで燃やしていく王太子を尻目に、ライオネルは馬に跨ると、巡回へと駆け出した。
(まあ、なんだかんだと王太子はお強いからな。あの場は消化班さえいれば、任せても問題ないだろう)
ライオネルは、変わった様子がないか見回った。
先ほどの異形から、通常の外見の魔物たち。
強さも弱小から中級へと変わりつつあった。
(これで、中級型の異形の魔物が出れば確定だな)
保護という名の結界で閉ざされた森は、数年の時を経て、魔物たちが縄張り争いや、狩り獲られないよう生き抜くための、異種間の繁殖場へと化していった、とライオネルは結論づけた。
その頃、ミレイユ達は、避難経路の途中に点在する村々の人達と合流し、一緒に避難所を目指していた。
足腰の強い村人たちとは違い、軽い運動ぐらいでしか動いて来なかったミレイユの足は、悲鳴をあげていた。
ライオネルに差し上げる箱から、たまらず拝借してしまった、痛みを和らげる煎じ薬と疲労回復の煎じ薬を一口ずつ飲んだ。
たちまち痛みと疲労が、消えてゆく。
ミレイユは、セラにも一口ずつ飲ますと、セラは驚きで目を見張った。
(置いていかれないように、つい飲んでしまったけど、村人たちに差し上げられないことが心苦しいわ)
と、せめてもの償いに、村人たちの疲労回復を願いながらミレイユは歩くのだった。
歩く途中に村人たちがざわめき出したので、ミレイユはざわめく方を見た。皆次々に指を差し口々になにかを言っている。
指の指す方向を見ると、きらびやかな団体が、馬に跨り走っていた。向かう方向はミレイユや村人たちが避難してきた方向だった。
きらびやかな団体が掲げている旗の印を確認したセラが、「王立の騎士団です」と教えてくれた。
ライオネル達を加勢に行っているのだろうか、ミレイユは安心する。
(ライオネル様も兵士の皆様もお強いと思うけど、王立の騎士団の方達が加われば、ライオネル様達もきっとお楽になるわ)
鍛錬場で剣技を振るう姿を思い出し、戦うライオネルの姿を連想し、胸がときめく。
(私も頑張らなくちゃ)
ミレイユは、元気よく歩き出すのだった。
その頃、ライオネルの結論づけたとおりに、中級と思わしき異種間交配で出来た魔物を皆で、討ち取っていた。
数は減ったが、強さが格段に上がった。
特にこの魔物は、打たれ強さに特化してるのか、やたらと身体が堅い。
攻撃魔法での攻めに切り替えて、一体倒すと、ライオネルは、魔法で縦に真っ二つにしてもらった。
検分。
内臓には、攻撃に特化したものは、備えてなかった。
(こいつの親は、生き抜くために食べられないようにと、身を固くしたのだろうか)
ライオネルは、つい、親を予想してしまう。
そうするとまた一体同じのが出てきた。
向かおうとするライオネルに、暇を持て余した王太子が、スイーと、音もなくやってきた。
音はなくとも、熱さで分かる。
「なにをちんたらとやっておるのじゃ、ライオネルよ」
「あの魔物なら、このように倒せ」と手をかざすと、魔物は一瞬で溶けた。
「固いのなら、熱で溶かせば良い。それだけじゃ」
と、事もなげに王太子は言った。
(いや、元々誰のせいで⋯)
目の前の原因とその妻が脳裏に浮かぶ。
その時だった。
わっ!と、声のする方にライオネルは、顔を向けた。
熱で溶かした王太子の早業に歓声が上がったのかと、ライオネルはそう思ったが、違った。
目線の先には、眩いばかりの金色の髪を肩まで切り揃えた、線の細い少女がいた。
金の瞳を縁取る睫毛も眩い金。
真っ白の肌に金色と頬と唇を彩る紅だけが、その子の色だった。
「おい!聖女様だぞ!!」
「なんで、聖女様が」
何故か、魔物の森から城で産気づいているはずの、王太子妃である聖女が出てきた。




