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異形



「討伐の最中さいちゅうじゃ。挨拶は結構。我はここで高みの見物をしておるからの、しかと励めよ」


 そう言うと、赤胴色しゃくどういろきみこと王太子は、空飛ぶ炎の竜と共に、上空へと上がってゆく。


 ライオネルは、その様子を眺め、ある程度上昇したのを見ると


「水使いを呼んで来てくれ。天幕てんまくがいつ燃えるか分からんのでな。来たら順に、天幕に水をかけておくように、と伝えてくれ」


と、ライオネルは休憩用のテントを指し示し、そう部下に命じた。


 指示を受けた部下は、着込んだ甲冑かっちゅうのせいか、ガッチャガッチャと音を立てて、水魔法使いが休憩している別のテントへと駆けて行く。


 ライオネルは、懐からミレイユの薬を取り出して、一口、口に含んだ。今はミレイユの薬が、効能の他にライオネルの励みになっていた。


 馬を呼び、またがると駆ける。


 もう何回目かになるかわからない、巡回を行う。


 その時、ライオネルに、一人の部下が遠くから呼びかけた。



閣下かっかー!見たこともない魔物が出てきましたー!」


(“見たこともない魔物”⋯?)


 ライオネルは、急ぎその部下の元へと駆けて行く。


 辿り着き、馬から降りて解放する。


 部下が指し示した方を見ると、たしかに見たこともない小型の生き物がウゾウゾと動きながら、森から出てきていた。


 動物と違って体毛が無く、そのくせ、歯だけはシッカリと鋭い。


 基本の魔物の特徴部位は、しっかりと揃っている。

 

 しかし、ライオネルも初めて見る外見だった。


異種間交配いしゅかんこうはいか⋯?」


(もしくは、突然変異の可能性も⋯)


 近付いてくる魔物をじっと観察をする。


 斬れる間合いに入ったところで、一刀両断。


「ギッ!」と声を上げ、魔物は絶命した。


 刃先で、魔物の死骸しがい検分けんぶんする。


「⋯⋯内臓、骨の作りや位置は、他の魔物と変わりないな。⋯毒袋もなし⋯」


(そうなると、今度は攻撃方法が知りたくなるな⋯)


 部下にもう一度出たら、呼ぶように、と伝え、他にも異形の魔物が出ていないか、見て回ることにした。


 馬にまたがり走らせる。そこかしこで異形いぎょうの魔物は出てきていた。


(もしかすると、先程やたらと出てきていた弱小魔物らの異種間交配で出来た子供とかではあるまいな⋯)


 子を巣穴に隠して、巣に入れない親は逃げ回り、森から出てきた。


 子は、戻って来ない親のにおいを辿って、魔物の森から這い出てきた。


と、ライオネルは、仮定した。


(人間からしたら広がる森でも、魔物からしたら狭い森だ。行動範囲が被れば⋯)


 弱小がいるなら中級もいるわけで、その上も⋯。


 二国聖和条約施行にこくせいわじょうやくせこうの際、狩ることを生業なりわいにしている組合に、生け捕りにした魔物の強さに応じて、王太子と隣国の王子が、私財から報奨金を出していた出来事を思い出す。


(この魔物の森には、どのくらいの強さの魔物が生き残ってるんだ⋯?)


 いや〜な予感に、ライオネルは、


(頼むから気の所為せいであってほしい⋯)


と、願った。



⋯⋯ちりちりと、願う頭と背中が熱い。

 

 その熱さの発生源のあるじ――やんごとなき人物からライオネルに声がかかる。


 

「なにをほうけておるのじゃ、ライオネル。戦いの最中ではないのかえ?」


 呆けてる訳ではないのだが⋯と、心の中で反論しつつ、ライオネルは、走る馬の速度を緩め、声を掛けた王太子を仰ぎ見る。


「⋯⋯少々問題が発生しまして」


「ふふ、そうかえ?先ほど上空から見ておったがの。隣国の彼奴きゃつらめ、どんどん攻撃の範囲を広げておるぞえ?」


 炎の竜に乗り、ライオネルと一定の距離を保ったまま、王太子は愉悦を含んだ声音こわねで言う。


「少々の問題で済めば良いのじゃがのぉ?どうする、ライオネル、森を傷つけずに勝機はあるか?ん?」


 暇潰にし来たと言うだけあって、この状況をものともしない、王太子。


 そんな王太子にライオネルは、


「私は、命に従い、剣を振るうのみにございます」


と言うと、馬から降り、剣を手に持ち異形の魔物に向かう。


「ふーん、つまらぬの」


 王太子は、片手を振ると異形の形をした魔物の身体が次々と燃え上がる。


「殿下!燃やすと臭いで寄ってきます!」


と、声を上げるライオネルを王太子は一瞥いちべつすると、虚空こくうにスッと人差し指で軽く、横一閃よこいっせん


 その瞬間、炎に包まれた魔物は炭と化した。


「魔物にとっての馳走も、焦げていれば不味かろうて」



 魔物を保護しろ、と命じたり、一瞬にして保護した魔物を炭にする王太子。



「今はなぶり殺したところで、悲しむ愛し子もぬのでな。どれ、我も参戦、といたそうかのぅ」


 そう言うと王太子は、燃える炎の竜の上で、ゆっくりと身体を伸ばした。


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