火竜と降臨、王太子
「魔物の森って愛を育む場所だったんですね〜。どんだけ繁殖場になってんだか⋯。疲れた」
倒しても倒しても、ゾロゾロ出てくる魔物に、さすがに疲労困憊の部下たち。
簡易で立てた壁のないテント型の休憩所では、皆が休憩する中、ライオネルは、ゴソゴソと荷物をあさくっていた。
「⋯⋯あった」
お目当てのものを見つけたライオネル。
小箱から、数本取り出すと、休憩している部下たちに「ほら、飲め」と渡したのは、ミレイユが作った煎じ薬。
「ただし、効能は強力な上、一口だけ飲んで様子をみるように。特に気力向上薬は、特に気をつけるように」
“特に”を繰り返すライオネルに、『気力向上の薬』と書かれた小瓶を渡された部下の一人は、それを訝しげに眺めた後、一口飲んでみた。
嚥下した瞬間、立ち上がる部下。
「うぉおおお⋯、なんだこりゃ、すげえ。あんなに見たくもなかった魔物が倒したくて仕方ねぇ⋯」
(⋯⋯)
ライオネルは、椅子から立ち上がった部下の股間に注視していた。
どうやら、ヤギの乳のようにはならなかったようで安心する。
「張り切るのは結構だが、それ以上は飲むなよ。気力が減退した時だけ、また一 口飲むように。皆の者も、効き目を感じたらそれ以上は口に含まないようにな」
と、再度注意した。
交代の休憩も終わり、休憩所に置いたミレイユの煎じ薬が入った小箱には
【強力剤!】服用する際は、一口飲んで様子を見ること。
【注意】効き目がある場合は、それ以上服用せず、時間を空けて一口のみ服用すること
と、書き記したので、部下が守ってくれることを祈って、ライオネルも討伐へと戻るのだった。
自分の作った煎じ薬が、劇薬扱いされているとも知らないミレイユは、村人たちと休憩をしていた。
いくら避難といっても、人の足では避難先まで相当な距離である。
しかも、子供に妊婦が同行。⋯年配者が、ほぼいないことだけが不幸中の幸いだった。
休憩が終わると、ミレイユと奥方付きの侍女セラは歩き出す。
休憩中は、肌寒いと思っていたがしばらく歩き続けると、身体が温かくなってくる。
寒風も涼しいとさえ思ってしまうほどだ。
年長の子供たちと代わる代わる交代で馬車を利用していた。
「あとどのくらいで着くのかしらね」
つい、ポロっとそんなことを聞いてしまった。
「随分歩きましたので、もうそろそろだと願わなくはいられませんが⋯。それよりもミレイユ様、次は必ず馬車にお乗りくださいませね」
と、セラから念を押された。
「セラ、貴女も⋯ッ、乗るのよ」
と、ミレイユは軽く息切れしながらそう言うと、顔を上げた。
眼前には、だだっ広い草原だけが広がっていた。
「⋯⋯」
ミレイユは、スッと俯いた。
建物すら見えてこない風景に、顔なんか上げるんじゃなかったと後悔する。
(ううう⋯。ライオネル様にお渡しする予定だった、煎じ薬、次の休憩で、開けようかしら⋯)
ミレイユは、疲労回復の煎じ薬とライオネルの顔を交互に思い浮かべながら、なんとか歩を進めるのだった。
「もういい加減、魔物は飽きた」と、休憩テントの簡易の椅子にドカリと座った途端、自然と言葉が出てきた。
「閣下、それ上司が言うちゃダメなやつです」
つい、ライオネルの口から漏れた独り言を、部下は目敏く拾う。
拾った独り言に、部下は相槌を打ちながら、
「しかし、まあ、閣下が愚痴りたいのも分かりますよ。結界張り直した時、こんなに低級の魔物いたっけかなぁ〜、て思いながら、俺も倒してますもん」
そう言うと「中級も、たまに出ますけど、比じゃないっすね」ともう一人の部下。
「⋯まあ、王太子に報告するには、良い材料かもしれんな。低級魔物の驚異の繁殖力」
ライオネルは、口に出してうんざりする。
そもそもの発端は、あの若い王太子夫妻だった。
「しかし、隣国は、まだ森に攻撃を続けてるのだろうか。魔物が切れることがほとんど無いが。見えないのが口惜しいな」
と、話題を変えてライオネルが言うと、
「そう!それ!閣下〜、俺らも森にぶち込みましょうよ〜。攻撃魔法」
「ならん」
部下のお願いを即却下の閣下。
「え〜!?」
「なんでですか、ボッカンボッカン森に打ち込んで、負けじと隣国に魔物を押し返してやりましょうよ」
ねー!ねー!とおねだりする部下たちにウンザリするライオネルは、仕方なく理由を言った。
「⋯⋯王太子が許さん」
その一言で辺りは静まり返った。
「争いの混乱に乗じてどちらも条約なんか破ってみろ。王太子から笑顔で火炙りにされるぞ。混乱が生じている時こそ、条約をきっちりと守らねば。隣国に貸しを作れる機会を、あの王太子が見逃すはずがない」
ライオネルの言葉に、そこにいた部下たちは、「たしかに王太子ならやりかねん⋯」と口々に独りごちる。
その時一人の部下が、
「⋯⋯なぁ、なんか暑くないか?」
その言葉に応えるようにもう一人の部下が
「⋯暑いな」
寒風が吹き抜ける休憩所だが、なぜだが寒さを感じない。
ライオネルは、嫌な予感がした。
その予感は、すぐに的中した。
「なにを言うか、ライオネル。我は慈悲深い。この世に未練も残す暇もないほど、一瞬で消し炭じゃ」
ライオネルと部下たちは声を聞いた瞬間、お互いの顔を見合わせ、急いで休憩所から飛び出し、声のする上空を仰ぎ見た。
上空には小型の燃える竜。
その背に跨る、赤胴色の髪。
外界のライオネルを眺めながら
「聖女に付き添うはずが、産婆のおばばに部屋から追い出されてしもうての。“男子禁制”なんじゃと。こんな時、男は無力じゃな」
赤胴色の君は尚も続ける。
「喜べ、ライオネル。暇な我が憂さ晴らしに来てやったぞ」
ライオネルは、その言葉を聞き、一気に疲労を感じるのであった。




