表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/98

火竜と降臨、王太子



「魔物の森って愛を育む場所だったんですね〜。どんだけ繁殖場になってんだか⋯。疲れた」


 倒しても倒しても、ゾロゾロ出てくる魔物に、さすがに疲労困憊ひろうこんぱいの部下たち。


 簡易で立てた壁のないテント型の休憩所では、皆が休憩する中、ライオネルは、ゴソゴソと荷物をあさくっていた。


「⋯⋯あった」


 お目当てのものを見つけたライオネル。


 小箱から、数本取り出すと、休憩している部下たちに「ほら、飲め」と渡したのは、ミレイユが作った煎じ薬。


「ただし、効能は強力な上、一口だけ飲んで様子をみるように。特に気力向上薬は、特に気をつけるように」


 “特に”を繰り返すライオネルに、『気力向上の薬』と書かれた小瓶を渡された部下の一人は、それをいぶかしげに眺めた後、一口飲んでみた。


 嚥下えんげした瞬間、立ち上がる部下。


 「うぉおおお⋯、なんだこりゃ、すげえ。あんなに見たくもなかった魔物が倒したくて仕方ねぇ⋯」


(⋯⋯)


 ライオネルは、椅子から立ち上がった部下の股間に注視していた。


 どうやら、ヤギの乳のようにはならなかったようで安心する。

 

「張り切るのは結構だが、それ以上は飲むなよ。気力が減退した時だけ、また一 口飲むように。皆の者も、効き目を感じたらそれ以上は口に含まないようにな」


と、再度注意した。

 

 交代の休憩も終わり、休憩所に置いたミレイユの煎じ薬が入った小箱には


【強力剤!】服用する際は、一口飲んで様子を見ること。


【注意】効き目がある場合は、それ以上服用せず、時間を空けて一口のみ服用すること


と、書き記したので、部下が守ってくれることを祈って、ライオネルも討伐へと戻るのだった。



 

 自分の作った煎じ薬が、劇薬扱いされているとも知らないミレイユは、村人たちと休憩をしていた。


 いくら避難といっても、人の足では避難先まで相当な距離である。


 しかも、子供に妊婦が同行。⋯年配者が、ほぼいないことだけが不幸中の幸いだった。


 休憩が終わると、ミレイユと奥方付きの侍女セラは歩き出す。


 休憩中は、肌寒いと思っていたがしばらく歩き続けると、身体が温かくなってくる。


 寒風も涼しいとさえ思ってしまうほどだ。



 年長の子供たちと代わる代わる交代で馬車を利用していた。


「あとどのくらいで着くのかしらね」


つい、ポロっとそんなことを聞いてしまった。


「随分歩きましたので、もうそろそろだと願わなくはいられませんが⋯。それよりもミレイユ様、次は必ず馬車にお乗りくださいませね」


と、セラから念を押された。


「セラ、貴女も⋯ッ、乗るのよ」


 と、ミレイユは軽く息切れしながらそう言うと、顔を上げた。


 眼前には、だだっ広い草原だけが広がっていた。


「⋯⋯」


 ミレイユは、スッとうつむいた。


 建物すら見えてこない風景に、顔なんか上げるんじゃなかったと後悔する。

 

(ううう⋯。ライオネル様にお渡しする予定だった、煎じ薬、次の休憩で、開けようかしら⋯) 


 ミレイユは、疲労回復の煎じ薬とライオネルの顔を交互に思い浮かべながら、なんとか歩を進めるのだった。

 



「もういい加減、魔物は飽きた」と、休憩テントの簡易の椅子にドカリと座った途端、自然と言葉が出てきた。


「閣下、それ上司が言うちゃダメなやつです」


 つい、ライオネルの口から漏れた独り言を、部下は目敏く拾う。


 拾った独り言に、部下は相槌を打ちながら、


「しかし、まあ、閣下が愚痴りたいのも分かりますよ。結界張り直した時、こんなに低級の魔物いたっけかなぁ〜、て思いながら、俺も倒してますもん」


 そう言うと「中級も、たまに出ますけど、比じゃないっすね」ともう一人の部下。


「⋯まあ、王太子に報告するには、良い材料かもしれんな。低級魔物の驚異の繁殖力」


 ライオネルは、口に出してうんざりする。


 そもそもの発端は、あの若い王太子夫妻だった。



「しかし、隣国は、まだ森に攻撃を続けてるのだろうか。魔物が切れることがほとんど無いが。見えないのが口惜しいな」


と、話題を変えてライオネルが言うと、


「そう!それ!閣下〜、俺らも森にぶち込みましょうよ〜。攻撃魔法」


「ならん」


 部下のお願いを即却下の閣下。


「え〜!?」

「なんでですか、ボッカンボッカン森に打ち込んで、負けじと隣国に魔物を押し返してやりましょうよ」


 ねー!ねー!とおねだりする部下たちにウンザリするライオネルは、仕方なく理由を言った。


「⋯⋯王太子が許さん」


 その一言で辺りは静まり返った。


「争いの混乱に乗じてどちらも条約なんか破ってみろ。王太子から笑顔で火炙ひあぶりにされるぞ。混乱が生じている時こそ、条約をきっちりと守らねば。隣国に貸しを作れる機会を、あの王太子が見逃すはずがない」


 ライオネルの言葉に、そこにいた部下たちは、「たしかに王太子ならやりかねん⋯」と口々に独りごちる。


 その時一人の部下が、


「⋯⋯なぁ、なんか暑くないか?」


 その言葉に応えるようにもう一人の部下が


「⋯暑いな」


 寒風が吹き抜ける休憩所だが、なぜだが寒さを感じない。


 ライオネルは、嫌な予感がした。


 その予感は、すぐに的中した。




「なにを言うか、ライオネル。我は慈悲深い。この世に未練も残す暇もないほど、一瞬で消し炭じゃ」


 ライオネルと部下たちは声を聞いた瞬間、お互いの顔を見合わせ、急いで休憩所から飛び出し、声のする上空を仰ぎ見た。


 上空には小型の燃える竜。

 

 その背に跨る、赤胴色しゃくどういろの髪。


 外界のライオネルを眺めながら



「聖女に付き添うはずが、産婆のおばばに部屋から追い出されてしもうての。“男子禁制”なんじゃと。こんな時、男は無力じゃな」


 赤胴色の君は尚も続ける。


「喜べ、ライオネル。暇な我が憂さ晴らしに来てやったぞ」



 ライオネルは、その言葉を聞き、一気に疲労を感じるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ