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討伐、開始



 ミレイユがシュトラール辺境伯領に輿入れしてから一年とそろそろ三ヶ月目を迎えるはずだった。


 秋晴れの中、ノイハイム村近くでの謎の炸裂音。


 その音を聞いた直後、思い思いの喋っていた声が止み、辺りは驚くほど静かになったが、すぐにライオネルの声が響いた。


「村長、すぐにでも村民全員、避難の準備をするように。兵士をつけます。準備が終わったら直ちに避難先へと出発すること」


「ミレイユ、君の馬車に幼い子と妊婦を優先して同乗させてくれ。セラ、誘導を頼む」


「一人、屋敷まで報せを頼む。残りは私と共に急ぎ森へ」


 そう、指示を出して解散させると、ミレイユを向き直り、


「君は、避難先へ一緒に行き、村民を降ろしたら、屋敷に戻ってくれ。モーリスから路銀が渡される。そうしたら、すぐに王都へ発つんだ。宿の手配は、全てセラがしてくれる。君は、自分の安全だけを考えるように」



 そう言うと、ミレイユの額に口づけをし、軽く抱き寄せると、「愛してる」と囁き、ライオネルは、踵を返すと兵士たちの元へと行ってしまった。


「ライオネルさま⋯」去っていくライオネルの後ろ姿。


 ミレイユは、一声も掛けられなかった。


「さ、奥様」とセラに声かけられ馬車に乗り込む。


 セラは馭者と一緒に座るという。

 ミレイユもそっちに座ろうとしたが、身体が冷えるからダメだと言われ、仕方なく膝に幼子を抱えた。


 明朝に出発予定だったからか、準備は、早かった。すぐに馬車が動き出す。


 ミレイユは、馬車の窓から外を見た。

 既にライオネル達の姿はない。

 森へ向かったのだ。


「どうか、ご無事で⋯」ミレイユは、祈ることしか出来なかった。




 ライオネル達は、魔物の森近くの監視塔へと向かった。

 炸裂音は、仲間からの合図だった。


 魔物が出たら合図をするように、と決めていた。

 

 王太子妃の聖女の出産まで、まだ数週間あったはずだ。


「出産が早まったか⋯」


 森は、刺激しない限りは、魔物は出てこないはず。


 しかし、隣国が派手に刺激していたら分からない。

 

 ライオネルは、馬の腹を蹴り、急がせた。


 森近くの監視塔とはそう離れていない場所で、魔物はいたが、既に兵士達が討伐した後だった。


「よくやった。一体だけか?」


 ライオネルは、馬から下りると、馬の尻を軽く叩いて遠くへと避難させた。合図さへ送れば、耳が聞こえる範囲であれば戻ってくる。


「はい、この一体だけです。結界の揺らぎなのかなんなのか、分からなかったのですが、一応合図を送りました。すみません」


「謝ることはない。揺らぎならそれに越したことはないのだ。よくやった」


 監視塔へと入り、高みから森を観察する。


 結界は見えないし、綻んだところで音もないので、それも分からない。


 結局、魔物の数が基準なのだ。


 どれくらい時間が経っただろう。


 倒した魔物の臭いに釣られたのか、森からまた魔物が一頭出てきた。


「ふむ。破れたな」


 魔物がいとも容易く出てくる様子に、ライオネルは確信した。


 元・領主屋敷からの兵士も既に到着していた。


 ライオネル達は、監視塔から下りると、


「結界は崩壊したと見て間違いない。直ちに討伐体勢に入る。

倒した魔物は必ず分断し、完全に焼却すること。森の中までは追うな。以上、健闘を祈る」



 そう号令をかけると、魔物のいる場所へと向かった。


 森は広い。ライオネルは、先程森から出てきた魔物を素早く一刀両断し、風使いと火使いに後始末を頼んだ。


 馬を呼び寄せ、跨ると駆け出した。


 魔物がまた一頭。馬の速度を利用し、薙ぎ払うように剣を振るう。これも両断。


 ライオネルは森の端まで馬を走らせながら剣を振るった。


 往復して戻る最中、先程、ライオネルが倒した魔物を風の魔法で切り刻む兵士と遭遇。


 向こうでも斬り捨てたことを伝えると、


「多いすっね〜。隣国が刺激したんかな?」


「そうかもな。森に向かって撃ち込んでるのかもしれん。臭いに釣られるから、油断はしないように」


と、伝えた去り際、「へいへ〜い」と真剣に受け止めたのか分からない返事をされたので、ライオネルは、頭の中の『直接指導』の名簿に、先程の部下の名前をきっちりと書き込んだ。



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