祈りの先――
「雨が降らない?」
夏の盛り。ノイハイムを訪ねたミレイユは、そこで子供達からこんな事を聞かされた。
「うん、そうみたい」
「お父さんたちが、『いつもこのじきならてーきてきにふるのになぁ〜』て、言ってたよ」
そんなミレイユ達は、大人たちに混ざって二人一組で一緒に水やりをしていた。
ミレイユは木製のバケツを持ち、子供はそこから柄杓で汲んだ水を器用に円を描くように撒いていた。
「というわけで、困っているそうです」
シュトラール辺境伯屋敷寝所にて、寝台でミレイユは今日村であったことを、夫のライオネルに話した。
先に寝てしまわない限りは、こうして毎日ライオネルに、今日一日なにをしていたのかと話すのは、ミレイユにとって習慣となっていた。
「村長からも陳情が上がっていたよ。この先も雨が降らない日が続くなら、近くに兵士たちの寮がある。その者たちに水やりを手伝わせようと決めたところだ」
「他の村々も困っているようだしな」
雪解けで地下水は豊富にあるが、畑の水は、降雨に頼っているシュトラール辺境伯領。
「⋯⋯ライオネル様、明日もノイハイム村に伺ってもよろしいですか?」
「かまわないぞ。ミレイユが行きたいのなら、遠慮することはない」
ライオネルは、微笑みミレイユの額に口づけを落とした。
(もう、お休みになられるのかしら?)
額の口づけは寝る前にするのも習慣。
ミレイユは目をつぶり、眠りの海へと潜ろうとした――が
「⋯んっ」
ライオネルの手が布越しにミレイユの弱い部分を刺激した。
「⋯あ⋯ッ、の、おやすみに、ならないのですか⋯?」
声が勝手に上擦る。
「すまん。寝顔が可愛くて⋯つい。いやか⋯?」
ライオネルは、申し訳なさそうな表情でミレイユに伺いを立ててきた。
その表情が可愛くて、ミレイユは思わず吹き出してしまったが
「ちっとも。ライオネル様も、どうぞご遠慮なさらずに」
と、言うと二人でシーツの海に潜るのだった。
「「「空においのり?」」」
ノイハイム村の子供たちは、ミレイユの言葉を復唱した。
ミレイユは、子供たちの声ににっこりと微笑むと、
「そうよ。雨を降らしてもらうように、空の神様にお祈りするのよ」
「いのったら、雨がふるの?」
子供の質問にミレイユは、「分からないわ」と答えた。
「えーっ。分からないのに、いのるの?」
「それって、意味あるの?降らないかもしれないのに?」
「そうよ、空の神様は、気まぐれだもの。気まぐれだからもしかしたら、皆でお願いすると雨を降らせてくれるかもしれないわ」
ミレイユの言葉に、子供たちが首を傾げる。
「私のお父様が仰ってたの。空の神様も、大地の神様もみんなちゃんと見てるし、聞いてるって」
(――それで魔法は使えるんだって)
不思議がる子供たちを連れて、ミレイユは畑へと向かった。
「さあ、お祈りするわよ」
と、言うとミレイユは胸に手をやり、空を見上げたまま、目蓋を閉じると、
「――空の神様、雨が降らず私たちは、困っております。どうか、雨を降らせてこの大地をお救いください」
ミレイユの様子に子供たちも見様見真似で倣う。
「空の神様ぁー!」
「こまってますー!」
「おすくいくださいー!」
そんな子供たちの様子にミレイユは、くすり、と微笑む。
(気まぐれな神様も、可愛さで降らせてくれるかも)
その後は、子供たちと村中を歩いてニワトリに草を食べさせたり、未だにミレイユや子供たちを無視するロバのボッツィを呼んでみたり、と子供たちと遊んでいると、頬にぽつりと水滴が落ちた。
「――あ、あめだ」
子どもの一人が空を見上げてそう言った。
「あめだー!」
「本当にふった!」
「奥様、すごい!」
(どうやら、子供心を分かってくれる神様だったみたい)
ミレイユは、そう思いながら、
「私はすごくないわ。みんなでお祈りしたんだから。皆の声がきっと、届いたのよ。さあ、空に向かってお礼を言いましょう」
と、言うとみんなで空に向かってお礼を言うのだった。
それから、子供たちは雨の中、畑に走っていって大地の神様に
「野菜がたくさんなりますように!」
「大地の神様、おねがいします!」
と、お願いしていた。
ミレイユもお祈りに参加した。
「飢えない程度の実りがありますように」
その後も子供たちは、他の畑へと走って行き「麦がたくさんなりますように!」「神様、おねがいします!」とお祈りをしていた。
子供たちと村の動物や薬草探し以外に畑へのお祈りも加わった。
その後、畑の収穫時期に向けて、子供たちやミレイユの願いが届いたのか、例年よりも多くの収穫が出来そうだと、ライオネルに聞かされるのだった。




