秘密の赤い実
体調も回復したので、約束どおりノイハイム村へと訪れたミレイユ。
大人たちの目を盗んで、子供たちと柵の中にいるヤギのもとへとやってきた。
(どうやってあげるのだろう⋯?まるごと?)
鞄から取り出した魔物の実の鮮やかな紅玉色のせいだろうか、すぐにやってきたヤギと赤い実を、ミレイユは交互に見た。
「この子、それ好きなんだ〜」
「おいしいのかな?」
「でも、食べたら怒られるもん」
「にんげんが食べたらしぬってきいた」
「こわーい」
ワイワイと柵の前で子供たちが喋る。
ミレイユは、赤い実を持ったまま、その様子を見ていた。
ツンツンと背中を突かれ、振り向くと「かして」と年長の男の子に手を差し出されたので、赤い実を渡すと、男の子はナイフを取り出して、器用にヤギが食べやすい大きさへと薄く切っていった。
「まあ、とっても器用なのね」と、ミレイユが褒めると、ポッと頬染めて、「こんなの普通だよ」とぶっきらぼうに返事をされた。
(私とライオネル様の赤ちゃんも大きくなったら、こんな感じになっちゃうのかしら)
と、思うとぶっきらぼうに答えた男の子も、可愛く思えるミレイユだった。
男の子は子供たちに切った赤い実を、1枚ずつ取らせて、最後にミレイユに取らせた。
「こんなふうにやるんだよ」
と、子供たちがお手本を見せてくれる。
柵の手前で切った赤い実を差し出すと、ヤギは口を震わせ器用に咥えて食べた。
他の子供達も次々と同じようにしてヤギに実を食べさせた。
ミレイユも見様見真似で、赤い実の切れ端を持つとヤギとを隔てる柵にそ⋯っと、近付く。
「あまり指を奥にやると、食べられちゃうからね」
「え!?」
以前、ライオネルとの件でボーっとしていた時に、受けた注意をまた受けてしまった。
ニワトリといいヤギといい、動物は皆指を食べる生き物なのね⋯、とミレイユは恐る恐る赤い実を近づけた。
「くわえたらすぐに手をはなしてね」
子供達からの助言にミレイユは大人しく従う。
震える口がミレイユに近付いてくる。
(こ⋯こわい⋯)
はむ、と咥えたと同時にミレイユは手を離した。
あっという間に食べ終え、もっとくれ、とヤギはまだ貰う気まんまんだ。
ミレイユは鞄から赤い実を一個取り出すと、先ほど切ってくれた男の子に渡した。
男の子から、切った赤い実を貰い受け、覚悟を決める。
ミレイユは、子供たちが与える様子を見ながら、己に少しずつヤギを見慣れさせた。
最後にミレイユ番になる。
そっ⋯と、実の切れ端を差し出すと、はむっ、と食べてくれた。
⋯なんだかちょっと可愛い。
そう思ってヤギを見ていると、
「あ、出てきた」と子供のひとりが言った。
なにが?と思い、子供たちが指差す、先ほどのヤギはなにも変わりはない。
「こっちから見ると分かりやすいよ」
と、ミレイユの手を引っ張る子供たちに誘われるまま、移動して指差す赤い実を食べたヤギを見てみた。
「⋯⋯え、ええ!?」
子供たちが指差す先にいるヤギの乳は、パンパンに膨れ上がり、乳がぽたりぽたりと滴っていた。
「早く絞ってあげないと」
子供たちは洗った桶を持って柵の中へと入っていく。
(乳の出が良くなるとは聞いたけど、こんなに早く出るものなの?)
異様な光景にミレイユは目を剥く。
楽しそうに、交互に乳を絞る子供たち。
乳搾りを終えた子供たちに、この乳をどうするのか聞いてみた。
大人たちも皆飲むという。別に身体に異変はないそうだ。
ミレイユの中で興味が湧く。
(ヤギが食べても大丈夫なら、毒性はないってことよね?加熱したり干したりして、召し上がったらどうなるのかしら?ライオネル様のご病気も治るかしら?)
ミレイユは、う〜ん、と想像した。
ライオネルに食べさせる。
ライオネルの胸筋が急速に膨れ、逞しい胸から白い乳が噴水のように噴き出した。
ミレイユとの赤子に、乳をやるライオネルの姿まで想像してしまった。
(まあ、乳母いらず)
なにか、違う。病気を治して、医者要らずのはずが、乳母要らずになってしまった。
(まあ、でも、ライオネル様の前に、私の身体で試せば良いのよね?)
そうミレイユは思い直すと、子供たちに見て口を開いた。
「ねぇ、この魔物の実、貰っても良い?」
と、聞いてみた。
「いいよー。でもぜっっっったいにないしょにしててね」
「だれにもいわないでね」
「奥様がおこられちゃうから」
子供たちはミレイユが怒られないか、心配なようだ。
「そうね、絶対に秘密にするわ」
そう約束をして、ミレイユは村を後にした。




