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手に添える祈り



 村に到着すると、笑顔の村長が出迎えてくれた。


「領主様におかれましては!本日はご多忙の中!お越しいただき誠にありがとうございます!」

 その声は、ミレイユやライオネル、付き添いのセラを軽々と飛び越えて、ミレイユの背中のむこう側の丘でこだましていた。


「奥方様はうちの村には初めてでしたね!村長を務めさせていただいております、ダ、リ、ウ、ス!と申します!」

己に手を添え、にこやかに胸を張る村長のダリウスは、間髪(かん、はつ)を入れずに元気よく続ける。


「あ!ご結婚おめでとうございます!」

一段と張りのある声に、ミレイユは思わず()()ると、そっとライオネルが支えてくれた。


「さあ!村を案内致しますので、どうぞ!」

腕を広げて道を示しながら、「ぬかるみなどございますので、お足元にはお気をつけくださいね!!」と、念を押す。


 近くにいるのに、なぜこんなに大きな声なのだろう。

 ミレイユは不思議に思ったが、すぐに気付いた。


 村長は、そのままの声量で、遠くにいる村民にも声をかけていたのだ。


(なるほど⋯。私たちが来たと周りに分かるように、必要な声量だったのね)

ミレイユは、妙に納得して小さく頷いた。



 今の季節は、収穫と冬越しの準備で村中が繁忙期(はんぼうき)らしい。

 村長の説明を聞きながら、ミレイユはふと周囲に目をやる。

 村民たちに笑顔はなく、ただ黙々と作業に打ち込んでいた。


(なんだか⋯タイミングの悪い時に来てしまったんじゃ……)


 村人たちの機嫌が気になって、ミレイユの胸がざわめく。


(忙しい時ほど邪魔だ、役立たずだとよく怒られたわ⋯。)


 忙しなく働く人と過去の自分の不器用さと要領の悪さが、周囲を苛立たせていた記憶がよみがえり、心が沈みかけたその時――


「……あたたた⋯」


 小さな(うめ)き声が、思考を遮った。

 見ると、一人の老爺(ろうや)が腰を押さえて膝をついている。

 足元には収穫物が散らばっていた。


 ミレイユは慌てて駆け寄り、セラと2人で老爺の身体を支え声をかける。

「大丈夫ですか? おじい様」


「あぁ、すまないねぇ、お嬢ちゃん方。」

老爺は困ったように笑いながら言った。

「年寄りにはこれからの季節が厳しくてなぁ。あっちこっち痛くなるわい」

そ の手は、アカギレでひび割れ、節々(ふしぶし)も赤く()れていた。

 立ち上がろうとする老爺の腰に、そっと手を添えて支えてあげるミレイユの気遣いに、

「ああ、良いところのお嬢ちゃんの服が汚れちまうなぁ。すまんなぁ。」

と、困ったように老爺が呟いた。ミレイユはかぶりを振り

「気にしないでください。“困った時はお互い様”と聞いたことがあります。」

と、持っていたハンカチで、老爺の衣服についた土を払っていく。


 遠くで、ミレイユたちの様子を伺うライオネルの姿を、白内障気味の霞む目で認めた老爺は『あぁ、領主殿の奥方でしたか。お手を煩わせてすまんかったなぁ。』と、恐縮した。


 ミレイユは、老爺のアカギレだらけの両手をそっと握りしめ、

「過酷な環境の中、働いてくださってありがとうございます。

おかげ様で健やかに暮らさせていただいております。」

と、感謝を述べるのだった。


「おじい様を困らす痛みが、取れますように。」


と、ミレイユは老爺の肩や膝に手をやり祈っている間、侍女のセラは、そんなミレイユを邪魔しないよう老爺が落とした収穫物を静かに拾い手渡し、ライオネルの元へと2人は急いで戻るのだった。


 軽やかに駆けていく少女の後ろ姿を眺めながら、領主殿の奥方は、不思議な子だな、と思っていたが、ふと気付くと腰が痛くて、曲げることしか出来なかった膝がまっすぐと伸びている事に気づいた。


 腰や背中の痛みがない。


 恐る恐る少女が握った両手を見ると、ところどころ裂けて血が(にじ)んでいたアカギレが綺麗さっぱりと無くなっていた。

「なんと⋯、これは。」


 老爺は、信じられない光景を目の当たりにし、震える手で帽子を取ると、領主と2人並んで歩くミレイユの後ろ姿に、深々と頭を下げるのだった。


 村の視察もつつがなく終わり、最後に特産品を村長からいただいた。

 恐縮するミレイユは、帰りの馬車の中で侍女のセラに、村民たちにアカギレに効く軟膏(なんこう)などをプレゼントしたいと相談した。

 あの老爺の赤く腫れて裂けた痛々しい手が、印象的だったからだ。


 翌日の報告会でその事を聞いたライオネルは、領民に対するミレイユの心遣いを嬉しく思いながら

「あの子がしたいようにしてやってくれ。」

と、侍女のセラに一任するのだった。


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