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すれ違う想い 3 ※【注意】暴力的・性的描写有り



 ライオネルを追うためとはいいつつ、全速力で互いの愛馬を走らせてしまった部下二人は、その後の馬の体調を考えつつ、ほぼのんびりカッポカッポとまるで愛馬と散歩をするように、馬の調子に合わせながら、元・領主屋敷へとたどり着いた。


 厩舎きゅうしゃに馬を繋いで、水を飲ませてあげる。

 ライオネルの愛馬は、疲れた様子もなく主を待っていた。


「どういう体力してんだよ、閣下かっかもこの馬も⋯」



「よぉ、邪魔するぜ〜」


 厩舎から近い屋敷の裏口のドアをガチャリ、と開けて二人は固まった。


 屋敷のどこをライオネルが歩いていったか、二人はすぐに分かった。


 人が倒れているのである。


 点々と。


 そこそこに鍛えてる男たちが、である。


「⋯⋯死んでないよな?」


 倒れている男たちの生死を確認しながら、部下二人は歩を進めた。



「なんつーか、やっぱ閣下もちゃんと人の子だったんだな」


「だな。好きな女でポンコツになるのは、俺らと変わんねーな」


「婚約者に逃げられても、淡々としてたのに」

「閣下の婚約連敗は、もはや日常茶飯事だったからなぁ」


 ライオネルの過去を話しながら、二人はライオネルの後を追う。


 二階からワーワーと人の声が聞こえたので、部下の二人は急いだ。


 二階へ上がると、ライオネルはいた。


「知らないっすー!俺ら奥方様のことなんて!」


 胸ぐらを捕まれ、ほぼ半泣きの男が、必死でライオネルに事実だけを言っていた。


「嘘をつくな、私の妻がここに来ているだろう。どこだ?どこの部屋にいる?」


 ポンコツ辺境伯ライオネル閣下は、周りの男どもに引き離すように掴まれながらも、尚も半泣きの男の胸ぐらを掴んで離さない。


「わぁ!閣下!待って!」

「奥様!奥様見つかりました!」


「なに!?」


 パッと手を離すライオネル。


 胸ぐらを掴まれていた男は、床へとへたり込む。


「閣下の勘違いです。奥様はノイハイム村にいます」


「ノイハイム⋯そうか」そう言うと、ライオネルはしゃがみ込み、へたり込んだ男に「すまなかった。私の勘違いだ」と擦れて赤くなった首筋に触れた。


「あ⋯あったけぇ⋯」


 半泣きだった男は、郷愁きょうしゅうにも似た想いを感じ、うっとりと目蓋まぶたを閉じた。


 その後もライオネルは、倒れた男たちを回復させ、ノイハイム村へと戻るのだった。



「え⋯ライオネル様が?」


 村長が小屋に訪ねてくると、ライオネルが来て一瞬で去ったことを告げられた。


「はあ、奥方様がいらっしゃるか、て来たんですけどね。またどこかへ行ってしまわれました」


「⋯私、行先を告げずに来てしまったの。きっとご心配を掛けているのだわ」


 村長が小屋から出ていったのを確認すると、ミレイユは子供たちに向き直り


「赤い実をヤギにあげるのは、また今度で良い?それまで勇気のお守りとして、大切に持っておくわ」


 ミレイユの言葉に子供たちは頷くと「でも、ないしょにしててね」と念を押された。


 小屋を出てライオネルを待つ。

 また、訪ねてくるのか分からないが、ミレイユは待った。


 程なくして、緑が広がる景色から馬が走るひづめの音が聞こえてきた。


「ライオネル様だわ」

 ミレイユの表情に喜色が浮かぶ。


 先頭を走るは、ライオネル。

 ミレイユの姿を確認したのか、一層、速度を増してこちらへと駆けてくる。


 ライオネルが到着すると、ミレイユの後ろで控えていた馭者が急いでライオネルの元へと行く。


 ライオネルは馬を任せると、急ぎ足でミレイユのもとへと駆け出した。


 ミレイユも自然と足が前に出る。

 ライオネルの脚は速く、そのままの勢いでミレイユを抱きしめた。


 だが、抱きしめられる衝撃は最初だけ。

 先日、家令から抱き殺しの(いさ)めにあったせいか、潰されることも無く、その腕は優しくミレイユを掻き抱く。


 ミレイユは、ライオネルの背中には届かない腕で懸命にライオネルを抱きしめた。


 ぎゅうと、抱きつくと、ライオネルの鼓動を感じる。

 ミレイユは、ただそれが嬉しく――そして、切なかった。


「ライオネル様⋯。ごめんなさい、ご心配をお掛けして⋯」


 ミレイユの声に、ライオネルは、首筋に顔を埋めるようにして抱くと、


「謝ることはない。私が悪かった⋯」


 と、静かに言った。

 首筋に感じるライオネルの吐息がくすぐったい。

 

「私が君を怒らせるようなことをしなければ⋯」


 ライオネルの吐息に身をよじっていたミレイユは(怒らせる⋯?)と、身に覚えのない言葉に小首を傾げて、


「ライオネル様は、私に良くしていただいていますよ?いつもお優しくて⋯。ライオネル様に対して、私が怒ることなんてことはありませんよ?」


 その言葉に、ライオネルは、ミレイユを見る。


 ライオネルの目には、優しく微笑むミレイユがいた。



 ミレイユの言葉を聞いても、ライオネルは己が許せなかった。


「⋯ミレイユ、それでも私はひどいことをしたのだ。君は私のせいで倒れたのだから」


(倒れた⋯?)


 ミレイユは、記憶を辿たどる。


(倒れたと言われれば、倒れたかもしれないわ⋯。なにかしら?もやがかかっているみたいに、ちゃんと思い出さないわ⋯)


 ミレイユは、時間の経過とともに記憶の一部が思い出せないでいた。


「ライオネル様⋯わたし、倒れたのですか?⋯ごめんなさい。その辺の記憶がとても、曖昧あいまいなんです⋯」


 ミレイユの言葉に、ライオネルは、目を(みは)る。


「⋯なにも、覚えていないのか?」


 ライオネルの問いにそれがいけないことのように覚え、ミレイユは咄嗟(とっさ)に謝った。

 

「いや、良いんだ。謝ることではない。そうか、いや、良いんだ。忘れてくれ」


「あの、なにも⋯ではございませんが、夢から覚めたときのような、話そうと思うと思い出すのが難しいような⋯?感覚はなんとなく覚えているのですが⋯」


「感覚は⋯」


「はい、嫌な感覚だったことは、なんとなく」


 嫌な感覚⋯、とライオネルは呟くと、再度ミレイユの首筋に顔を埋めて、深い溜め息をついた。


 ミレイユは、首筋をくすぐる感覚に身を捩りたかったが、なんとか耐えた。


「⋯⋯すまない。ミレイユ、その感覚を呼び起こしたのが私なのだ。本当にすまなかった⋯」


 そう言うと、ライオネルはぎゅう、とミレイユを抱きしめた。


(ライオネル様⋯私以上に苦しそう⋯)


 ミレイユは、さすさすとライオネルを撫でた。

 腕が背中まで届かないのが、口惜くちおしい。


(ライオネル様を苦しめる出来事だったのなら、もうこれ以上は言わないでおきましょう)


 ミレイユは、心に誓う。


 しかし、ライオネルは自分を許せないらしい。


「あの、⋯ライオネル様は、私に(ゆる)してほしいのですか⋯?」


 なんとなく聞いてみた。


 答えあぐねているのか、ライオネルはなにも言わない。


「別に怒ってるわけでもありませんし、赦せないことなんてないのですが⋯」


(それでも、私の言葉で、ライオネル様の心が軽くなるのなら――)


「ライオネル・ヴァルト・シュトラール。貴方を赦します」


 ミレイユの言葉に、ライオネルがそっ、と顔を上げる。


 ライオネルの瞳に明らかに光が見えた。


 ミレイユは、安堵する。


「私も、ライオネル様に謝らなければいけない事があります⋯」


「馭者殿をしらせに走ることをさせず、行き先も告げずに出て行ったことをお詫びします」


 そう言い、ミレイユはうつむくと、


「⋯私のせいで馭者殿一人が怒られるなんてさせたくなかったの⋯」とポツリと呟いた。


 ミレイユのその言葉を聞き、ライオネルはクスリ、と笑うと


「そうだな、馭者一人なら私は、相当に相当なほど怒っていただろうな」

 

と、言うのだった。


 村人たちと別れを告げ、屋敷に戻ると怒られることもなく、何故だが屋敷の者たちから温かく迎えられた。


「セラ⋯勝手に出ていってごめんなさい」


と、私室で奥方付きの侍女、セラに謝ると、



「とんでもございません。お部屋での奥様のご様子から元気に出ていったと推察いたしましたので。それに旦那様が必ずお連れ帰りされるだろうと信じておりました」


と、言われた。


「ノイハイム村は楽しかったですか?」


 セラに聞かれて頷く。


「それは良うございました」


 それ以上は、なにも聞かれなかった。


 子供たちから預かった赤い実は、筆記用具を入れて持ち出した鞄の中だ。


 整理しようとした侍女を制して「これは子供たちとないしょのものが入ってるから」と、言い訳が見つからず、そう言ってしまったが、侍女はふふ、と笑うと「さようでございましたか」と、鞄を開けることはなかった。


 

 夜。寝台の上に上がるライオネルは、ぎこちなかった。


(一体、私はなにをして倒れたのかしら⋯?)


 ライオネルの様子を見ると心苦しい。


「ライオネル様⋯お寂しいので抱きしめてくれますか?」

と、聞くといつもよりぎこちなく、でも優しさは変わらず抱きしめてくれた。


 ライオネルに抱きしめてもらい、ミレイユは安心して眠りについた。




 ――久しぶりに夢を見た。嫌な夢だ。


 場所は、引取先の男爵の屋敷。


 男爵であるその男は、金属の道具を持っていた。


 ミレイユはそれを知っている。道具の名前は知らないが、いつもそれでミレイユの足の爪を器用に摘むと、ゆっくりと楽しむように引っ張り、爪を皮膚から引きちぎっていた。


 あまりにも繰り返すので、いつしか、爪は小さく歪な形へと変貌していった。


 

 ミレイユは華やかなドレスを着ていた。


(知っているわ――このドレス。これはライオネル様が初めて私にくださったもの――。どこかに無くしたのかと思っていたけど、こんなところにあったのね。――また着れて嬉しい)


 ライオネルが生地から選んでくれたというアイスラベンダーのドレス。サラサラの着心地に、胸が弾む。


 もう一度ライオネルが選んだ生地をよく見ようと、ドレスの裾を摘んで持ち上げてみた。


 ――持ち上げたドレスは何故だが、ビリビリに破れていた。



(――え⋯)



 ――ひさしぶりだのう、ミレイユ⋯。


 聞きたくもない声が聞こえた。


 いつの間にかミレイユの身体に、男が乗り上げていた。


 男は、金属のいつもの道具を握っている。


(――やめて、やめて、やめて)


 男がミレイユの足を持ち上げる。


(――やめて!爪を剥がさないで!痛いのはもうイヤなの!)

(――また動けなくなっちゃう!村の子供たちと遊べなくなっちゃう!)

(――やめて!おねがい!わたし今幸せなの!わたしの幸せを奪わないで!)


(――おねがい⋯!離して!おねがい、お願いします⋯!旦那さま⋯――!)



 ミレイユの眼前に夜の王城の庭園が広がった。


(――舞踏会だ。ライオネル様と踊るのを楽しみにしていたの、嬉しい⋯。――なのに、どうして私のドレスは破れているの――?)



 裾を摘むと、アイスラベンダーのドレスはビリビリに裂けていた。


(髪もセラが結ってくれたのに、こんな頭だったっけ⋯)


 鏡を見ると、器用なセラが結ってくれたとは到底思えないボロボロの髪型だった。


(セラが挿してくれた飾りも、どこにいったの⋯?)


 あたりを見回すが落ちている形跡もない。


 このままでは、ダンスは踊れない。

 第一肝心のライオネルがいないのだ。


(――そうだったわ、ライオネル様は王太子様に呼ばれたのだったわ)


 一人でダンスの練習をする。


(――楽しみだわ。屋敷で練習した時も楽しかったけど、あんなに格好の良いライオネル様と踊れるなんて。フフ、まるで子供の頃読んだ、絵本の王子様とお姫様みたい)


 裾の破れたドレスが目に入る。


(――あら、どうしたのかしら?どうしてライオネル様が選んでくれたドレスがこんなに破れているのかしら⋯?) 


(これじゃあ、ライオネル様に恥をかかせてしまうわ)



 ドレスの裾を持ち上げて、破れた部分を見ていたミレイユの腕を誰かが掴んだ。


 ――ひさしぶりだのう、ミレイユ。


(――だんな⋯さま?)


 体が動かない。動かないミレイユの体を、芋虫のような太い指がい回る。


 男は、金属の道具を取り出した。


(――い、や)


 男は、ミレイユの手の指を剥がそうと、金属の道具で器用に摘む――


(――だんなさま、手の爪も剥がすのですか?セラが綺麗にしてくれたの。セラを悲しませたくないの⋯おねがい、やめて)


 ――ワシは恐怖に震えるおなごをいたぶるのが好きでのう。


(――やめ、て)


 ミレイユの爪を、男は金属の道具でゆっくり、と引っ張る。


 ミレイユの身体は動かない。


(――やめて。やめて。――セラが綺麗にしてくれたの⋯。だれか、たすけて、たすけて。――ライオネル様)


 突然、男がどこかに、消えた。


 ミレイユは、誰かに後ろから抱きしめられていた。


 ミレイユのうなじに、なにかが触れる。


 抱きしめてくる腕が、あたたかい。


(――わたし、知ってるわ。この人。だって今朝も⋯)


 辺境伯領屋敷。眼前に広がるは、土を落とすのに洗って干した薬草。


 遠くで洗濯をしている侍女がいる。


(そうだわ、わたし、倒れる前にここにいたの。どうして忘れてしまっていたのかしら?)


 ――ミレイユ。


 後ろから抱きしめられた。うなじになにかが触れる。


(――恥ずかしい。だって私、汗をかいていたんだもの)


 ――なぜ?良い匂いだ。


(――ほんとうに?くさくない?私、汗をかいていたの。でも、嫌じゃないなら、嬉しい⋯)


 抱き締めるたくましい腕に、触れた。――なぜだかブヨブヨしていた。


(――え?)


 うなじを、ベロベロと舐められる。


 ――身籠ごもれる身体か、試せば良かったのぅ。


 笑いを含んだ男の声が聞こえる。


(――みごもれる?⋯爪を剥がすんじゃないの?旦那様は、わたしと⋯赤ちゃんを作りたかったの⋯?)


 いつの間に身体が四つん這いになっていた。


 ドレスを持ち上げられ、下着がおろされる。


 男が覆いかぶさってくる。


(――おしりを、叩くんじゃないの?)


(――そうだわ、私。朝間違えちゃったの。ライオネル様と旦那様を――)


(――爪を剥がさないなら、怖くないわ。だって、赤ちゃんはライオネル様と作るんだもの)


(――サライアの女性たちが教えてくれたわ。赤ちゃんは、やってくるものじゃなくて作るものだって)


(――わたし、赤ちゃんは、ライオネル様と作るって心に決めているの)


(――だから、爪を剥がさないあなたなんて、ちっとも怖くないわ)

 

 ミレイユの眼前に濃色こきいろのズボンが広がる。


 髪を後ろにかきあげたライオネルの姿があった。


 

(――ライオネル様)


 後ろを振り返ると、ブヨブヨの身体をした男の姿はなかった。


(ごめんなさい――ライオネル様。私、旦那様とライオネル様を間違えてしまったの⋯)


 ライオネルは微笑み、ミレイユの手を取ると、そのままステップを踏み始める。


(⋯――嬉しい。こうやってライオネル様と踊りたかったの)


(――夢の中だけでもライオネル様と踊れて⋯わたし、幸せです)


 夢を自覚した瞬間、ミレイユは目が覚めた。


 見慣れた寝台のシーツが目に入る。


 薄明かりの中、ミレイユは、ライオネルに後ろから抱きすくめられていた。


 そっと、ライオネルの腕に己の手を重ねた。


「ん⋯」


 ライオネルの声がしたかと思うと、瞬間、バッと腕を引き抜かれた。


 あまりの素早さにミレイユは驚いて、起き上がり、ライオネルを見ると、既にライオネルの姿は寝台になく、その向こうの壁に背中をべたりとつけていた。


「ミレイユ、すまない。後ろからしないと決めていたのに私は⋯」


(うしろから⋯?)


 夢の中のゼルバン男爵とライオネルの姿が重なる。


(ああ、なるほど⋯後ろから⋯)


 ミレイユは寝台をおりると、ゆっくりとライオネルに近付いた。


「⋯ライオネル様、私、思い出しました」


「――⋯え?」


「舞踏会の事、昨日の後ろからライオネル様に抱きしめられたこと」


 近付くミレイユ。

 早朝の薄明かりの中、ライオネルの身体にミレイユの影ができる。


 ライオネルからは、ミレイユの表情が見えないからだろう、ライオネルの表情は、こわばっている。



「⋯すまない。ミレイユ、私のせいで思い出させてしまった」


 苦しそうに、ライオネルは言う。


「ちっとも。それよりも男爵様とライオネル様を混同してしまって、ごめんなさい」


 ミレイユはそういうと、ライオネルの腰に腕を回し抱きついた。


「ゼルバン男爵様は、舞踏会の日、私と赤ちゃんを作りたかったのですね⋯?」


 尋ねた瞬間、ライオネルの身体がビクリと震えた。


 耳に伝わる、ライオネルの心臓が。鼓動が早い。


「大丈夫ですよ⋯。わたし、ちっとも怖くありません。だって、ライオネル様が助けてくださいました」


 そう言うと、ミレイユはライオネルに背中を向け、自分の髪を片手でかきあげると、もう片方の手で寝衣の背中を引っ張り、うなじをあらわにした。


「ライオネル様⋯、ここを舐めてくれませんか?」


「え?」


「男爵様にされたように、ライオネル様がなさってくれたら、嫌な記憶が上書きされると思うのです⋯」


 ライオネルの瞳に、ミレイユの白いうなじが映る。


 ライオネルは、ミレイユに言われるままうなじを舐め上げた。


 ゾクリ、と肌が粟立つ。


(――大丈夫。これはライオネル様よ。旦那様じゃない)


 ミレイユは、確かめるようにライオネルの名前を呼んだ。


「⋯ぁ⋯ライオネル様⋯ライオネル様⋯」


 何度もうなじを舐められた。


 ライオネルの指がミレイユの身体を這う。


 ライオネルは、自白剤で吐露したゼルバンの所業どおりにミレイユの身体に指を這わした。


(⋯ミレイユを救うためだと分かっている⋯それでも――)


 ライオネルの理性が、揺さぶられる。


(旦那様だとなにも感じなかったのに⋯。どうしてライオネル様だと――)


 熱に浮かされるようにライオネルの名を呼ぶ、ミレイユ。


 いつの間にか寝台に横たえさせられていた。


 ミレイユは、夢で見たまま、四つん這いになる。


 寝衣が()くられ――


 下着がおろされた。



「⋯⋯ライオネル様、私、怖くありません。だって、赤ちゃんはライオネル様と作るって心に決めておりますから⋯」


 夢で誓った決意を口にする。


 ライオネルの息が荒い。


 その息がミレイユの肌をくすぐる。


 ミレイユは、熱に浮かされるように、何度もライオネルの名を呼んだ――。



 家令のモーリスは、朝方セラから報告を受けた。


 それは、突然の報告だった。




 ――初夜の儀が完遂した報せだった。


 

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