すれ違う想い 2
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村では、普段着のまま飛び出してきた、いつもと違うミレイユの装いに、綺麗なお召し物が汚れてはいけない!と村の者たちは、ミレイユを小屋の中へと連れて行き、自分たちの服で急いで埃を払った椅子に座らせると、ミレイユが所望する女性たちを連れてきた。
村の女性の言葉を一言一句とて漏らすまいと、ミレイユはペンを走らせようと気合に漲っていた。
ミレイユから突然、ライオネル様の役に立つ薬草を教えてほしいと、お願いされ、村の女性らは困惑気味。
「⋯奥様、そんなに熱心にならなくても、お医者様にご相談すれば良いのじゃございませんか?」
「そうでございますよ。あたしらのはあくまで、民間療法なんですから。ご領主様のお役に立ちたいってんなら、町や都で評判のお医者さんを、お抱えするのが早いんじゃございません?」
村の女性が言う言葉は、ご尤もだと思うのだが、ミレイユの心に引っかかりが出来る。
(もし、お医者様がお治しできるのなら、もうとっくに手を打っているはずだわ。王太子様が直々にサライアまで迎えに来る御仁だもの。きっとお城のお抱えのお医者様にだって、診てもらっているはずだわ)
ミレイユは、親しく話す王太子とライオネルの姿を回想する。
だというのに、家令のあの切羽詰まった物言い。
きっとお城のお医者様でも治せない大変なご病気に違いない、とミレイユはそう確信した。
「⋯なにか、飲んだら全ての問題が解決するような、そんなお薬があれば良いのに」
ミレイユは、ため息混じりに呟いた。
「そーんな夢物語な。万能薬でもあるまいし」
アハハ、と村の女性たちは“万能薬”という言葉に笑った。
「“ばんのうやく?”そんな薬がありますの?」
聞いたこともない単語にミレイユは、首を傾げた。
「ええ、ええ。寝物語の中でしか登場しませんがね。どんな病気もどんな状態も治すという⋯」
「⋯⋯どんな病気も、どんな状態も!?」
指に力が篭ったせいで、ペン先が開いて紙にインクが滲む。
「まぁ、でも夢物語ですから」
「そうですよ、幻の薬です」
「⋯まぼろし」
ミレイユは、“まぼろしのくすり”、“ばんのうやく”と書き記すのだった。
シュトラール辺境伯屋敷にて―――
「なぁ、なんで俺ら集められたわけ?」
「さあ?使用人曰く、奥様が屋敷の中で行方不明になったとか?」
「なにそれ?かくれんぼでもやってたんか?」
「⋯かくれんぼだったけか?隠れてるとは言ってたような?屋敷の中にはいないらしいから、門の外からは俺らで捜索だってよ」
「なあ、おい。聞いたか?奥方様の行方不明の原因。なんでも閣下の色ボケのせいで、怒らせて出ていかれたらしいぞ」
「え?あの奥様が?」
「そんなわけないだろ、あの奥様だぜ」
「閣下が色ボケようが奥様は怒らんだろ」
「いや、でも待て。あの奥様が怒って出ていったのが事実なら、相当閣下は、⋯⋯色ボケてたかもしれん」
「「「なるほど」」」
「たしかに、ここ最近の閣下は別人のようだった」
「たしかに」
「良いなぁ〜幼妻。俺も怒られるほど色ボケて〜」
部下の会話全て、ライオネルの耳に入っていたが、ライオネルの中では全て事実なので、なにも言えずにいた。
ただし、“幼妻”と発言した者は、後日鍛錬場にて、ライオネルは直々に指導することを心に決める。
お喋りが多い、と家令の判断のもと、二〜三人一組で点在する村々や領主屋敷にそれぞれ向かうこととなった。
屋敷にいる兵士を約半分ほど割いて捜索にあたらせた。
ライオネルの向かう先は、ノイハイム村―――の近くに建つ元・領主屋敷。
(魔物の森の近くだからと、荒くれどもを入れたのが間違いだった⋯)
馭者しかお供がいないミレイユを、村長が気を利かせて、兵士のいる元・領主屋敷に送り届けたかもしれない。
村長にとっては、兵士は皆兵士に変わりないのだ。
そう判断したライオネルは、元・領主屋敷へ向かうことを決めた。
気合を漲らせ馬に跨り――いざ!参らん!
と、出発しようとする寸前、家令に呼び止められた。
家令は、ライオネルの馬に近寄ると、体を傾けるライオネルにこう進言する。
「やはり、先に向かうならば、ノイハイム村がよろしいかと。村長に奥様の所在を聞いてから、屋敷に向かうのが二度手間もないかと存じ上げます」
家令の進言にライオネルは、
「う⋯む。分かった」
と、仕方なく了承するのだった。
門を出るライオネルの背中を家令とセラは見送りながら
「さっきまでのしおしおの旦那様とは大違いだな。はて、奥様はどんなお薬をご用意していたのやら」
と、家令が呟くと、セラから
「それにしては、随分な即効性にございましたね」
と、応えた。
「まあ、病も気からと言うし、よっぽど奥様の薬が嬉しかったのでしょうな」
と、言うのだった。
ミレイユが来たことを知って、ノイハイム村の子供たちが次々とミレイユのいる小屋の中へと入ってきた。
そして、ミレイユの話を聞いた子供たちは次々に、女性たちに「汗が出る薬草は教えたの?」「おなかがいたくならない薬草は?」と、せがみ、女性達が口にするまま、ミレイユは書きすすめていった。
「もう、出ない。これで全部でございますよ」と観念した女性達は、ミレイユからお礼の菓子の袋を頂戴すると、小屋を出て、自分たちの仕事へと戻っていった。
子供たちは、大人たちがいなくなるのを見計うと、お互いに目配せをして、ある者は出入り口のドアに立ち、ある者は窓の前へと立った。
「――?」
ミレイユは子供たちの意図がわからず、たたその様子を見ていた。
一人の少年がミレイユの「おくさま、ないしょにできる?」と、尋ねてきた。
「ないしょにできる⋯?」
ミレイユが小首を傾げると、少年はこくり、と頷き
「そう。ないしょにできる?」
と、また同じ質問をしてきた。「ないしょ⋯」ミレイユはその言葉を繰り返し、周りの子どもたちを見た。
子供たちは“ないしょ”という言葉に大きく何度も頷いている。
子供たちがなにを“ないしょ”にしてほしいのか分からないが、ミレイユに「ないしょにできる」と言わせたいようだ。
「おねがい、おくさま。ないしょにできるっていって」
一人の女の子が、進言してきた。
「⋯わかったわ。内緒にできるわ」
ミレイユがそう言うと、わぁ、と子供たちが嬉しそうな顔になると、窓辺と出入り口に立つ子供以外の子供たちがミレイユに近付いてきた。
そして、一斉に手をミレイユの前に出してきた。
「⋯⋯?」
ミレイユは、差し出された子供たちの手の上に乗せているものをそれぞれ見た。
差し出されたのは、子供の手のひらほどの真っ赤な実だった。
「これは⋯?」
子供たちから赤い実を受け取りながら、ミレイユが尋ねると子供たちが口々に、だが声を潜めて、
「まもののみだよ」
と、言ってきた。
「近所のお兄ちゃんが大人の儀式をしたんだよ。たくさん取ってくるほど良いんだって。自分が取ってきたのを見せてお嫁さんに結婚の申し込みをするんだよ」
「勇気の証なんだよ」
「たくさんあるほど、ゆうきがあるの」
という。
どうやら、以前子供たちが言っていた大人の男になる証とは、結婚を申し込みする際に必要だったようだ。
「でも内緒だよ。大人たちはみんな怒るもん。不吉だって」
「そうなの」
赤い実はライオネルの瞳のように真っ赤だった。
ミレイユは、ふと、疑問に湧く。
「じゃあ、この季節じゃないと結婚の申込みは出来ないのね」
と、言うと「ううん、いつでもできるよ」と答えられた。
赤い実が無くても良いならわざわざ取りに行く必要もないのでは?と、思ったらそうではなかった。
「だって、ずっとなってるもん」
「いつでも、取りに行けるんだよ」
「ずっと⋯⋯。もしかして、寒い冬も?」
「うん、春も。秋も」
「ずっと⋯」ミレイユは、“ずっと”の意味を理解して唖然と口に出していた。
(それは⋯、大人たちが気味悪がるはずだわ⋯)
いつ、花が咲いて実になるのだろう⋯。ミレイユはそんなことを思いつつ、渡された赤い実をじっと見た。
大人たちにとって不気味な実でも、子供たちにとっては、そんな不気味な実を取ってくる勇気ある若者の証として、山羊の乳がよく出る実として無邪気に扱う。
「ねぇ、ヤギにやってみる?」
「奥様、食べさせてみる?」
「でも、今日ようふくちがうね」
「おしろのおひめさまみたいね」
ミレイユの普段着を見た子供たちは、口々にそう言うのだった。
その頃、ノイハイム村に到着していたライオネル一行を慌てて出迎えた村長は、軍馬に跨り、鬼気迫る顔の異様なライオネルの様子に
「どど、どうしたのですか?ついに魔物が⋯?」
と、森から魔物がついに出てきたのかと思わず村長は聞いてみた。
「いや、私の妻がこの村に訪ねてきていないのかと思ってね」
予想に反して、平和的な答えに村長は脱力し、
「ああ、奥様でしたか、でしたらあちらの建物に⋯」
と、村長は小屋を指し示したつもりだったが、指差す方向には、元・領主屋敷がある場所でもあった。
「やはりか!!!」
と、ライオネルは馬の手綱を引き、方向転換させると、馬の腹を蹴り猛然とした勢いで、領主屋敷の方向目がけて走り去ってしまった。
その様子に慌てて追いかける部下二人。
「え、えー⋯??」
指を指したまま村長は、土煙をあげ、小さくなってゆく我が領主の背中を見送るのだった。
辺境伯領随一の駿馬を扱うライオネル。
後を追う二人の部下たちは、そんなライオネルに必死で大声で呼びかけた。
「閣下ぁー!!」
「閣下ぁ!お戻りくださーい!!」
しかし、辺境伯随一の駿馬。どんどん二人は引き離される。
「馬車ぁー!!」
「馬車ありまぁーす!!」
ノイハイム村にライオネル一行が到着した際、部下二人は、離れた場所に、シュトラールの家紋が光る馬車を目にしていた。
しかし、元・領主屋敷にミレイユがいると思い込んでいるライオネルの目には入らない。
二人はそのことを知らず、てっきり閣下は村に入るだろうと、馬から降りたところで、突然のライオネルの爆走に出遅れることとなった。
遅れる二人は、必死で上司を呼び止めようとする。
しかし、風を切るライオネルの耳には入らない。
「あのバカ重い筋肉の塊の閣下を背負って、なんであの馬はあんなに早ぇんだよ〜⋯」
舌を噛まないように、声を出したせいか、余計な筋肉を使って若干疲れた部下の二人は速度を落として小さく消えゆくライオネルの姿を見送る。
「メアリー!お前もうちょっと頑張れよぉ」
ライオネルの部下の一人が馬の首を撫でながら言うと、
「お前⋯それ王都の飲み屋で出会った可愛い子ちゃんの名前だろ⋯?可愛い子と知り合う度に名前付け直すのやめろよ⋯。見ろよ、お前の愛馬、自分のことだって思ってねぇぞ。大体こいつオスだろ」
「うるせ!俺はメアリーに乗れない分、馬のメアリーに乗るんだよ!」
と、呑気に会話をしながらライオネルの後を追うのだった。
次回エピソードにて、一部に性的・暴力的表現が含まれます。ご留意の上、お進みください。




