白金の髪色の者たちの運命
ライオネルのように世継ぎ、世継ぎを、となぜこのように急かされるのかというと、ミレイユがライオネルの子を成すと、産まれてくる子はライオネルの能力を、そっくりそのまま受け継ぐからである。
産まれてくる子の性別も既に決まっている。男児である。
子は、どちらかの親の優れた能力を持って生まれてくる。
能力以外にも、選ばれた親の性別と同じとなる。
ノルデリアでは、それが当たり前となっており、誰も不思議に思うことはない。
他にもノルデリアでは、髪に能力の要素が現れると言われておりミレイユのように色のない白金の者は、能力なしとして選別される。
しかし、白金の者は利用価値がある。
魔法至上主義の国では、魔法が使えないものは、蔑まれる対象だが、子を成すのに適齢の男女となると話が、変わってくる。
魔力を持つ者同士だと素質がぶつかり合い、子が出来にくい。
その点、片方に魔力などの特殊な能力が無ければ、力が拮抗し合うこともない。
なので、跡継ぎを望む貴族からは白金の髪は人気があった。
魔法と縁がない平民たちは、この事を知らない者が多い。
この情報を知っている者は、それを武器に商売をした。
多産の家系に白金の髪を持つ女がいた場合、その女一人で家族を養うどころか、孫の代まで働かずとも食べていけるのだ。
輿入れをするのではない。金と引き換えに、子供を産む。
貴族の嫁をもらうことも出来ない貧乏貴族は、そういう女に
跡継ぎを産んでもらう。
子を産めばまた次の貴族の元へと行き、子を孕む。
そうして、若い内から使い潰され、やがて死ぬのだ。
それは、男も同じ。
男の場合は、見目を重視された。
見目の良い白金の男は、大変な人気だ。
男の場合、女ほど身体的負担がないとされ、相場は安く買い叩かれる。なので数をこなしていくしかない。
性の発露とともに両親から見せものにされ、そして、貴族の女に買われてゆくのだ。
人気な子は予約が絶えない。
なので、貴族はさらに金を積んで優先権を買う。
これは、女の白金でも同じだ。
そうして、白金持ちの親たちは、貴族相手に儲けていくのだ。
異様とも思える感覚だが、ノルデリアの貴族の間では、これは普通のことである。
白金の子が生まれた平民の親は、幼い子に言い聞かせる。
「家族のために、アンタが頑張るんだよ。アンタだけが頼りだからね」
子は、親が全て。親が世界の中心だ。
自分の身がどんな目にあおうとも。
家族のために良いことをしている。家族のために頑張っている。自分しかいない。家族を楽にさせてやるのは自分しかいない――と。
そうして、白金の少年少女たちは、自らを犠牲していった。
死んだら利用価値が無くなる。すると、また、希少性が上がる。
貴族たちは、なるべく情報が漏れないように務め、白金の髪色の者達を絶滅させないようにした。
貴族が少ない村ではどうだろうか?
魔力を有するものは、貴族や裕福な家庭に集中している。
村で魔力持ちなど生まれた日には、まずは不貞を疑われる。
では、白金が生まれた場合は?
白金が村にいた場合、そこを治める領主に届けが出され、養子縁組という形で、金と引き換えられるのだ。両親だけでなく、届けを出した村長にも謝礼が支払われ、届けは途切れないように維持される。
国が黙殺している分、人さらいなどの犯罪は、厳罰に処している。
希少でもある白金は、蔑みと保護という歪な存在なのだ。
では、ミレイユ・アーデンハイドの場合は、どうだろうか。
彼女は、代々続く魔導師の父を持つ。
ミレイユは一人娘だ。
ならば生まれてくるのは、男であり、父の能力を有しているはずだ。
しかし、彼女は白金の髪を持って生まれた。
母の髪の色とも違う。
生まれたばかりの頃は、分からない。
しかし、髪が生えそろってくると、歴然である事が突きつけられるほど、彼女の髪色は、完璧な白金だった。
こうなると、不貞を疑われてもしょうがない。
周りも同じ反応だった。誰も彼もがミレイユの母を責めた。
ミレイユの母は潔白を証明したかったが、全て言い訳として受け止められる。
心の傷は、身体を蝕んだ。
ミレイユの母の異変で、状況に気付いた魔導師の父は、皆にこう言う。
「我が家は、代々白金の髪を持つ者を迎え入れて、その血を守って今日まで来ました」
「魔法を使えない家庭に突然、魔力持ちが生まれてくる話は聞いたことがございませんか?遡ってみると、なんでも祖先に魔力持ちがいたとか」
「ミレイユも、そのようにして祖先の影響を受けた突然変異であり、妻の不貞で産まれた子ではありません」
皆それで納得したように見えた。
周りが静かになると、家族に平和が訪れた。
しかし、ミレイユの母の体調が良くなることはなかった。
医者をすすめられて、診せても原因がわからない。
高い薬だけが処方されたが、少し兆しが見えたかと思うとすぐに体調を崩し、回復する気配はない。
見込みがないと、次の医者へ、次の医者へ、治療費だけが嵩んだ。
周りの者は事情を知らない。ただ、金の工面だけに必死なっている魔導師の父しか見えていない。
その様子に、口さがないものは好き勝手に憶測をし、まるで本当のことだというように語りだす。
あの男は、妻に弱みでも握られているのではないか。
金遣いの荒い嫁だと言う。
不貞の言い訳も、夫にさせたとか。
子供は、娘で、白金だというぞ。
不貞で出来た娘が、白金を強みに高位貴族を狙っているとか。
王太子妃になるとか豪語しているらしいぞ。
まだ幼いだろうに、母親の影響力は凄まじいものだな。
今のうちに贅沢に慣れさせないと、と好き勝手にしているらしい。
こうして、ライオネルに嫁ぐ頃には、貴族の間では件の娘として定着していた。
幼いミレイユは、外を知らない。
優しく口の固い乳母が常に傍にいてくれた。
母も、必ず家の中にいてくれて、いつもミレイユを気にかけてくれた。
父もミレイユを愛してくれる。
両親は、白金の髪は蔑みの対象と、利用価値があることは、決してミレイユの耳に入れなかった。
ただ魔法が使えないことだけは、教えた。
勉強をするとなると、歴史も学ばねばならない。
そうなると、自国のノルデリアという国が魔法国家だという説明をせねばならない。
家庭教師は、雇わなかった。余計なことを吹き込まないために。
教師を担当したのは、幼い頃は、乳母が。
成長の段階で母や父に変わった。
それは、父が投獄されるまで続いた。
ミレイユが、蔑みの対象となったのは、ゼルバン男爵に引き取られてからだ。
ミレイユに利用価値があることは、ゼルバン男爵は告げなかった。自分の娘にも言い聞かせた。
万が一の逃亡防止である。
白金は蔑みの対象、これ常識。という国で、わざわざ対象者に親切心で教える者はいない。
なので、ミレイユはなにも知らないままライオネルのもとへと嫁いできた、ある意味、幸運な少女だった。
余談だが、王太子の場合は、特殊である。
世継ぎを待望される王太子こそ、白金の者が嫁ぐものであるが、王太子は、婚約者選びを頑なに拒否。
自分が選ぶと言って聞かなかった。
後に二国聖和条約を結ぶ隣国とは違う、別の隣国の姫君を、同盟を結ぶため王太子の正妃に、と迎え入れようと部下たちは画策していたが、それを察知した王太子は、衆人環視を証人に、馬車の中での聖女との破廉恥行動を決行した。
聖女を傷物にして、別の女を輿入れさせるのは、世論が黙っていないと判断した国は、聖女を正妃に、側室に白金の者を迎え入れようとしたが、これを王太子は、断固拒否。
進言した部下の髪は、燃やされた。
髪は、ノルデリアの者にとって、大切なものでもある。
髪が無くなれば魔法は使えない、などの迷信まである。
髪を燃やされてはたまらない、と誰も進言しなくなった。




