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紅に染まる羞恥



「⋯っ」

 明らかに意思を持ったライオネルの手の動きに、ミレイユの身体は、反応した。

 しかし、深く口づけをしたミレイユの声は、言葉にならず、

ライオネルに飲み込まれる。


 衝動に突き動かされて、ミレイユの身体をまさぐっていたライオネルだったが、はたと我に返り、まさぐる手を止め冷静になる。


 ずいぶん乱してしまったが、ミレイユは、自国の衣装を身に(まと)っていた。


 今朝見たのとは形は同じようだが、宴用に召し替えたのか色の違いぐらいしかライオネルには区別がつかない。


(⋯⋯服の構造が、わからん)

 

 

 過去は、お膳立(ぜんだ)てと()え膳でしか経験がない無骨男のライオネル。この時ばかりは、寝衣の簡素な作りとサライアの衣装の利便性を惜しく思った。


 あーでもないこーでもない、とミレイユの衣装をイジイジいじっていると、

「あの、ライオネル様⋯」と、ミレイユから声がかかる。


 ハッとしてライオネルは、慌ててミレイユから退くと居住まいを正し、

「すまぬ。そうだな、嫌だったな」と、寝台から降りようとしたのをミレイユは慌ててライオネルの腕を掴み、止めた。


 ミレイユは、湯気が出るほど赤面しながら、

「あ、いえ、あの、その、嫌ではなく⋯」

と、しどろもどろに答えた。


「あの、サライアの女性たちに教わりました⋯。ね、やのことを⋯。今までごめんなさい⋯。あと、寝惚けていてごめんなさい⋯、正気に戻りました⋯」

と、ライオネルに告げた。


「⋯あの、脱衣は出来ますので、その⋯」


 ライオネルの裾を掴みながら、モゴモゴと言いづらそうにするミレイユに

「分かった。手伝えば良いのだな」

と、ライオネルが前のめりで言うと、「違います!」と慌ててミレイユは否定した。


「違います⋯っ!恥ずかしいので見ないでほしいのです⋯っ!」

と、ミレイユは半ば叫ぶように答えた。


 ライオネルは、そんなミレイユの今の状態を見る。


(鏡で自身の姿を確認したらば、卒倒しそうなほどの格好にしてしまっているのだが、⋯そうか、見られるのは恥ずかしいのか)


 その目に映るミレイユの姿は――唇は、ライオネルに貪り食われたせいで、紅はすっかりと落ちてはいるが、血色よくぽってりと腫れ、結わえた髪は乱れ、胸元と太ももが露わとなってしまっていた。


(今宵のみ、と焦った自分が我ながら恥ずかしい⋯)


 ライオネルは、ミレイユに指示されるまま、ゴソゴソと掛布を頭までしっかりと被ると、目をつぶって衣擦れの音に耳を(そばだ)てるのだった。




 第二王子宮、ジャリールの部屋には、ナディーラが訪れていた。


「お前から俺の部屋に来るなんて珍しい事もあるもんだな」

 

 ジャリールはそう言うと、指の背で自身の妻のナディーラのうなじを撫であげた。


「⋯およしになってくださらない?」


 ナディーラが身を(かわ)すと、逃さないとばかりにジャリールに腰を抱かれる。


「本日は、ミレイユ様の件で訪ねたまで、ですのよ」


 ジャリールをチラリと睨めつけると、ツンと横を向いた。


「ふぅん、嫉妬か?」

と、ジャリールが、からかうような声音で問いかけてきた。


 そんな訳はない、とナディーラは口に出そうになったが、はたと思い直す。


 ここでもし、そうだ、と頷けばどうなるのだろうーーと。


 サライア人のほとんどは、獲物を落とす以外は、そこまで執着を見せない。


 手に入ればより一層、無関心となる。


 他所の国は知らないが、サライアの王族は国や一族にとって害をなす者は、容赦なく切り捨てる教育を施されている。


 そのため、たとえ妻だろうが除外の対象となれば、斬り捨てる時は、斬り捨てるのだ。比喩(ひゆ)でもなく。


 そこに感情を持ち合わせれば、それが弱点となる。

 


 情愛の面で見ると、ノルデリアは依存に近い愛情に対して、サライアは軽薄なぐらいか。


(⋯⋯嫉妬?まさか、そんなものに興味を抱いておられますの?この方は)


 ナディーラは、理解が出来ない。


 ミレイユは、ジャリールの好みそのままだ。

 元々、珍しいものや面白いものが好きな質だ。


 ミレイユの白い肌に白金の髪色、瞳の色は、サライアの国を探しても見つからないほどに見たこともない色合いだ。


 ほっそりとした手足に、付くべきところには、肉がついている。


 顔も良い。気の強そうな顔立ちなのに、自信なさげで頼りない。

 夫のライオネルのこととなると、勝ち気そうな瞳をふるりと震わせていた。


(まぁ、啼かせてみよう、とは思いますわよね)


 しかし、それだけだ。

 そこまで執着を見せるほどではない。


(愛というほどでも恋というほどでもないし⋯)


 ナディーラの脳裏に『知らない間に身売りなんて、ミレイユ様があんまりだわ』と、口々にいうサライア人の女性達の姿が浮かぶ。


(⋯ああ、見繕っていた私の側仕えたちが⋯)



 ナディーラは、嘆息する。


 嫉妬に興味を抱いている素振りを見せた、この好き勝手自由気ままな夫が汚した尻拭いのため、第一夫人として一肌脱ぐことにした。

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