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夢よりも確かな夜



 広い部屋に取り残されたライオネルは、寝室へと続く扉を探した。

 

 第二王子宮と違い、本宮は建物自体が大きいだけあって、部屋の造りも広い。特別室だろうか、と思うほどだ。


 いくつかの扉を開けると、ようやくミレイユが休んでいる寝室への扉を開くことができた。



 ミレイユは、衣装を身に着けたまま寝台で横になっていた。


 久しぶりに間近で妻の顔を見た。

 初日の宴での出来事がずいぶん遠い過去のようだ。


 起こしてしまうかもしれないな、と思いつつも寝台の縁に腰を掛ける。

 

 じっと、ミレイユの表情を観察する。

 健やかな表情を見て安堵する。

(⋯どうやら怖い夢は、見ていないようだな)

 ほっ、とライオネルは息を吐く。


 ミレイユの前髪を撫で、そのまま頬をするりと撫でた。


 そのライオネルの手の感触にまつ毛を震わせ、ミレイユの目蓋(まぶた)がうっすらと開く。


「ライオネルさま⋯」

 そう言って、花がほころぶようにミレイユは微笑んだ。頬に触れるライオネルの手に自分の手を重ねると、ライオネルの手のひらに頬ずりをする。

 

 その様子を見て、ミレイユの心を知り、ライオネルの胸は痛む。


「すまない、ミレイユ。私があの時、ミレイユの寝室で二人に声を掛けていれば⋯。全ては、私に事実を確認する意気地が無かったからだ」


「⋯⋯まあ、ライオネル様ったら」


 そう言うと、寝台で横になるミレイユは、両手でライオネルの袖を引っ張った。


 ミレイユが、なにをしたいのかを察せないライオネルは、力を抜いてされるがままになってみた。


 ミレイユに引かれるまま、ゆっくりと体重を傾ける。

ふわりと、ミレイユの胸に抱かれた。


「まあ、夢にしては、本物みたい⋯」


 ⋯寝ぼけているのだろうか。「よし、よし」とミレイユに頭を撫でられる。


 撫でられる手の優しさに、どうしようもなく泣きたくなる。


「⋯そんなに悲しい顔をなさらないでくださいまし。私もライオネル様がサライアの方達と、仲良く戯れているのをお見かけして、嫉妬しましたわ。でも私もそれについてなにも言えませんでした」


 夢だと思っているミレイユは、饒舌(じょうぜつ)に語る。


「視察の時も一緒に回れませんでしたし、夜もお部屋にちっともいらして下さらないライオネル様に、腹が立ったりしましたわ。でも、ライオネル様は、私のお部屋を知らないのですから、来られなくて当然ですわね。私も訪ねに行けませんでしたし」


「⋯⋯いや、知っていた」


 ライオネルは、ポツリと答えた。

 撫でていたミレイユの手が止まる。


「⋯私は、サライアに訪れた初日に、ミレイユが滞在している部屋を無理矢理訪ねた。そこで、お前が第二王子に擦り寄るように抱き合って眠る姿を見て、てっきり⋯。お前は私以外の男を選んだとばかり、勘違いしてしまったんだ」


 ミレイユは、ゆっくりとライオネルを撫でる手を再開する。手は、頭から背中へと。


「それは、私が原因かと⋯。ライオネル様のお召し物を羽織ったジャリール様を、私、貴方様と勘違いしてしまいましたの⋯。そこを見てしまわれたのですね」


 しばしの沈黙の後、ミレイユがぽつりと呟いた。

「⋯ここにいられたら良いのに」


 ライオネルは、その言葉にギクリとし、思わず「⋯サライアに?」と聞き返した。


「ふふ、違いますわ。夢の中ですわ。そうしたら、ずっとライオネル様とご一緒でしょう?」


 きゅ、とミレイユは、ライオネルの頭を両腕で抱き込む。

「ふふふ、まるで現実の世界みたいにライオネル様を感じますもの。こんなに幸福なことはございませんわ」


 ライオネルは、甘く、柔らかい幸福にしばし包まれる。

 ミレイユの胸の上から頭をもたげると、ミレイユの両の肘上をゆっくりと掴み、甘い拘束を解いた。


 そのまま顔を寄せて唇を食む。それを何度も繰り返した。

 いつの間にか乗り上げるように、ミレイユの身体を覆っていた。

 ライオネルの首にはミレイユの腕が絡みつく。


 ミレイユからもお返しとばかりに(あご)を上げて、ライオネルの上唇(うわくちびる)を唇で挟んで、すぐに離れた。


 

 愛しい妻に目をやる。

 ミレイユの何色も織りなす瞳から、一筋の涙が零れていた。


 ミレイユは、微笑むとライオネルの頬を両手で挟み、己の唇を重ねた。

 唇を合わす度に愛おしいという気持ちが、誰にも渡したくない、という想いが洪水のようにライオネルの中で湧き上がる。


 情動のままに合わさった唇から口内へと舌を這わす。


 初め戸惑うミレイユだったが、次第にライオネルの動きを手本のように、懸命に応えようとするその姿が可愛らしく、愛おしい。そして、せつない。


 ミレイユがライオネルの動きに応えようとする度に、ライオネルの中でジャリールの影が湧く。


 明日には、ジャリールに対してもミレイユは、懸命に応えるのかと思うと、ちりり、とライオネルの胸を焦がす。


 ライオネルは、焼けつく衝動のままミレイユの身体に手を這わした。 


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