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真実を知る夜



『そろそろミレイユ様、気絶から気づかれた頃じゃないですか?』


 先に広間に戻っていた女性陣の一人がそう口にした。


 その声にナディーラも

『あら、そうね。ミレイユ様の事は、様子を看ている侍女には頼んでおいているけれども⋯、』

そう言かけ、なにかに気付いたナディーラが『ちょっと、席を外すわね』と、言い立ち上がると、宴席の広間から出ていくのだった。


 廊下では、宴席から抜けたライオネルが佇んでいた。

 中座したと思っていたミレイユが、広間に戻ってこなかったからだ。


 ミレイユを連れ立って中座した女性たちは既に戻ってきているというのに。


(⋯なにか、あったのか?)


 ライオネルは、廊下を歩く使用人に声を掛けようとしたが、


「もし、そこの御方」


 呼び掛けられたのが自分なのか定かではないが、声のする方へと振り向いた。


 見慣れぬサライア人の女性がいた。


 身につけている色と装飾品からして、王族の関係のものだと思うが。


 ライオネルは一礼をすると、女性が口を開く。


「初対面で申し訳ないですけど、(かしこ)まった挨拶は省かせていただくわ。私、サライア王国、第二王子ジャリールの第一夫人を務めるナディーラと申します。ノルデリア王国のシュトラール辺境伯様とお見受けしましたが、お間違いなくて?」


 ライオネルは、自分の名を名乗ると女性は頷き、「では、今後はライオネル様、と呼ばせていただくわ。急だけども、ミレイユ様を探していらっしゃるのなら、私に付いてきて下さらない?」

と、単刀直入に聞いてきた。

 

 なにかの罠だろうか⋯、という考えがライオネルの頭をよぎる。


 サライアに訪れてから(ろく)な目にあっていない。

 強大国の傲慢(ごうまん)さなのか、国賓(こくひん)だというのに寝所に刺客を送られたりと、関係のない扱いを受けている。


 しかし、罠だろうが、未だ戻って来ないミレイユに比べれば、我が身に何が起ころうが些末(さまつ)なことなので、ライオネルは付いていくことにした。


 なにかを仕掛けられて、命が狙われるようなことでも、鍛錬の一つだと思って対処すれば良いのだ。

 

 しかし、ライオネルの目の前を歩く女性は、隙だらけである。


(気配を消すのがうまいサライア人のことだから、護衛が潜んでいると思うが)


 たった数日で、肌身に感じた、なんとなくで気配を消すことに錬磨を積んでいるサライア人。


 周りの気配を探っている内に、目的の部屋に到着していた。


 ナディーラが扉を叩くと、侍女が部屋から出て来てナディーラの顔を見るなり、深くお辞儀をして扉を開け放つ。


 ナディーラは、ライオネルの入室を促しながら侍女に問う。

「ミレイユ様は、お目覚めになって?」


まだだと、侍女の返事に「あら、刺激が強すぎたかしら?」と言うナディーラの言葉にライオネルが反応する。


「ふふ、安心なさって。毒を盛った訳ではないわ」

と、ナディーラは、ライオネルの反応に可笑しそうに笑うと、手で示し、ライオネルに絨毯の上に座るようにすすめる。


 ライオネルが座るのを見届け、ナディーラも侍女が作ったクッションの山に身体を預けると、


「貴方、ミレイユ様が第四夫人になることを了承したの?」

と、聞いてきた。


「⋯了承は⋯、彼女が承諾するのなら、それで進めてくれ、とは言いました」

と、ライオネルは、正直に答えた。


「お止めになっては、いないの?」

「選択するのは、彼女なので」


「⋯そう。ミレイユ様は、ライオネル様が止めなかったことで、知らぬ間に滞在が延びて、第四夫人への道が敷かれてしまっていますのよ」


「知らぬ間⋯?」


「そうよ。当事者であるミレイユ様から、何も知らされていないと、本人から直接聞いているわ。あなた達、御夫婦なのに、なにも話し合っていないの?」


 眉をひそめて口にするナディーラ。


 痛いところを突かれた。


「⋯まあ、ミレイユ様も初日以降は、全く会えなかったと仰っていましたし、仕方のないことでは、あるのかもしれないのですけど⋯」


 ナディーラがため息をつく。


「しかし、妻は私ではなく第二王子を選びましたので⋯」

と、ライオネルの言い分に対して、


「まあ!あなた、ミレイユ様の何を見ていらしたの?そんな訳ないじゃない!」

と、声高にナディーラに断言された。


 ナディーラは、咳払いをすると、侍女からお茶をもらい、一口飲むとふう、と息を吐いて、ライオネルを見遣り、


「あの子、貴方の話する時は、嬉しそうに話をしていてよ。房事(ぼうじ)も全く知らないから、私たちで教えてあげましたし。そうしたら、貴方と致すことばかりを想定して、教えと指導を聞いていらしたわ。真っ赤な顔をしていらしてね。第四夫人になることもジャリールのことも頭からさっぱりですのよ」


(房事を⋯教えて⋯指導⋯?)


 ライオネル達が辺境伯領で慎重に進めていた事柄は、サライアの国であっさりとやり遂げられてしまったようだ。


「ミレイユ様とジャリールとの間には、なにもございませんわ。ミレイユ様の話を聞く限りでは、てすけども。唇を許してしまった事は、こちらでは挨拶みたいなものだから、許してやってちょうだい。ミレイユ様は、それは深刻に悩んでいらっしゃるようでしたし」


「それと、木剣と大剣の誤解も解いてあげましてよ。所用の件も殿方がなにをしているのか、私達でじっくり教えて差し上げましたわ。次は円滑(えんかつ)に事を進められるはずですから、私達に感謝していただいても結構よ」

と、いうとニッコリとナディーラは、笑んだ。


(⋯余計なことをっ)


ライオネルの顔から火が出るように、赤く染まる。


「まあ。そういう顔は可愛らしいのね」


 ふふふ、と笑うとナディーラは話を続ける。


「第四夫人の件は、確認の行き違いがあったことですし、大臣たちから事情を聞いてみますわね。それで取り下げられるかのお約束はできませんが」


そう言うと、ナディーラは、すくりと立ち上がる。


「ミレイユ様が目覚めるまで、どうぞ(くつろ)いでいらして。この部屋は、朝まで使ってしまっても構いませんわ。明朝、ノルデリアの侍女もここに遣わすので、支度は心配なさらないで。夫婦として最後の夜になるかも知れませんしね」


と、言うと侍女を連れて部屋から出ていくのだった。


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