表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/68

交錯する想い



「あ、ライオネル様の⋯」

 

 ライオネルの襯衣(シャツ)をジャリールが羽織(はお)ってしまった事に気づいたミレイユは、ジャリールを追いかけようとしたが、侍女の入室で襯衣を返してもらうことは、仕方なく断念するのだった。


 部屋から出たジャリールは、ミレイユの言動を反芻(はんすう)する。


(こっちの国じゃあ、ノルデリアの人間は身持ちが固い、で有名だが、あんだけ男に触られても警戒心が無いようじゃな。しっかも木剣(ぼっけん)って。気付きもしないって。ありゃ房事(ぼうじ)すら習ってねぇよな)


 フッと鼻で笑うと、ジャリールは、その足でライオネルの部屋へと向かった。


 部屋の扉を開けたライオネルの目は充血していた。


 無表情でジャリールを見ると「なにか御用ですか?」と、聞いてきた。


 ジャリールはライオネルの様子なんて気にせず、語りかける。


「おはよーさん。今日の視察でのミレーユの服に関してなんだけどよ。うちの国の服が着たいんだってさ。他国に対して友好を示すためだってよ」

えらいよな、とジャリールはそう言うと、一旦言葉を切り、ライオネルに近づくと、


「でもよぉ、旦那のお(うかが)いを立てないと、着たい服すらまともに選べねぇようだからよ。俺が代わりに来ちまったってわけ」

ジャリールは、続ける。


「ついでに、嫁が着たい服もまともに着させない旦那の顔も拝みに、さ」

ジャリールは、挑発するようにライオネルにそう言うと、ニッと笑った。


 ライオネルは、ジャリールの挑発に表情ひとつ変えない。


「⋯彼女が望むのなら、それで構いません」


 ライオネルの答えにジャリールは「ふーん」と反応すると、


「夫婦関係のない男女って淡白なのな」と、ボソリと呟いた。


 ライオネルは、ジャリールを見る。


「ミレーユが身体で教えてくれたぜぇ〜?ついでに俺が“初めて”だって、荒い息を吐きつつな」


 言い終わると同時に、ジャリールの羽織っている襯衣をライオネルが強く引く。


「これは、私の妻に着せたものであって、貴殿に貸したつもりはございません。返していただけますか?」

という、ライオネルは無表情のままだ。


「⋯そりゃ、悪かった」

ジャリールはそう言うと、襯衣を脱ぐため手を掛けるが、ライオネルの手が離れることもなく、襯衣を握りしめたまま、「それと」と付け加える。


「彼女に無体な真似はしないでいただきたい。彼女が拒否した時は事を進めず止めてください。彼女を泣かせるようなことも」


「誰を選ぶかは彼女の自由だが、今はまだあの子は、私の妻だ。あの子を泣かせるようなことは、許さない」


 ライオネルの目に、整った顔立ちだが軽薄そうな男が映る。

 本当は、目の前の男をこの世から消したかった。

 

 だが、昨夜見たミレイユは、擦り寄るようにこの男と共寝をしていた。

 

 ミレイユを奪ったこの男を亡き者にしたら、ライオネルの気は晴れるが、ミレイユを悲しませたくはなかった。

 

 ライオネルが、酒に酔って寝ていたあの時間、二人が何をしていたのかは、考えたくもない。


「お慕いしております」と、顔を真っ赤にして目を潤ませ、そう言ってくれたミレイユが、今は遠い。



「なんつー顔してんだよ」ジャリールが覗き込むようにライオネルを見ると苦笑した。


「そういう顔されると、慰めたくなるな?」

ジャリールはそう言うと、ライオネルの肩に手をやった。


 ライオネルは、その手を静かに下ろすと、

「用件はそれだけでしたら、失礼いたします」

と、ジャリールの眼前で扉を閉めるのだった。



「おーい、襯衣は〜?」

ジャリールは、扉の向こうのライオネルに呼びかけるが、扉が開く気配はない。


 ジャリールは、その場で襯衣を脱ぐと、ポイっと放る。


 シャツは、くしゃりと頼りなく、床へと落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ