手のひらに届いた星
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セラから「奥様は、まだこの辺境での星空はご覧になっていませんよね?」と問うてきた。
セラの問いにミレイユは首を傾げて、毎日の夜ことを思い出す。
寝所でのライオネルの姿しか出てこなかった。
「星空はまだ見ていないわ。どうして?」
ミレイユは聞き返すと、
「私たちには見慣れたものですけど、先日ふと、空を見上げて感動致しましたので。ミレイユ様にもぜひ拝見していただきたいな、と」
と言い、セラはニッコリと微笑んだ。
その夜、ミレイユは寝台から抜け出し、窓の外を見てみた。
部屋の燈が窓に反射して、星空ではなく、部屋の中で自分の姿と、不思議そうにこちらを伺っている寝衣姿のライオネルが見えるぐらいだ。
「どうした、ミレイユ。窓の外が気になるのか?」
ライオネルの質問に、ミレイユは『うーん、』と応えるだけだった。
ショールを手に持ったライオネルが近付き、そっとミレイユの肩に羽織らせる。
「窓辺は寒いぞ。なにかあったのか?」
「ありがとうございます。いえ、その、星を見てみたいと思いまして」
ライオネルが掛けてくれたショールの合わせを掴んで、今朝、支度中にセラと話したことをライオネルに伝えた。
「なるほど」
合点のいったライオネルは、ミレイユの手を引くと、ライオネルの私室へと入り、ミレイユに自分の外套を羽織らせる。
ライオネルの外套を着たミレイユは、子供のように足の先までスッポリと覆われた。
ミレイユの肩に掛けていたショールを頭から巻いて、目だけ出してあげる。
ショールの端を外套の下に入れ、ボタンをとじた。
「ふふ。まるで、目だけがキラキラ光る、可愛いオバケだな」
と、ミレイユをからかいながらライオネル自身も長外套を羽織ると、ミレイユを抱き上げ部屋を出た。
ベランダのある部屋に入ると、ミレイユを抱いたまま、ベランダへと出る。
「ほら、ミレイユ、上を見てみろ」
眼下の高さが気になって、下ばかり見ていたミレイユに、ライオネルが声を掛ける。
ライオネルの言葉に反応したミレイユは、空を見上げた。
「わあ」
眼前いっぱいに星、星、星。
ライオネルに抱きかかえられているおかげか、自分と星空しか存在を感じない。
夜空がすぐそこにあるようだった。
「手を伸ばせば、届きそう」
ミレイユは、手を伸ばしてみた。
長い袖が、手の先でぶらぶらと、揺れるだけだった。
手を戻し、ぶらぶらと揺れる袖を見て「ダメでした」と、同じ目の高さのライオネルに言った。
ライオネルがそんな様子のミレイユを見、クスリ、と笑うとライオネルも手を伸ばす。
何かを掴んだように握りしめ、ミレイユの眼前で手を開いた。
手の中には一粒の宝石があった。
「え」
まるでミレイユの瞳の色のような宝石だった。
「偶然手に入ったのでな。どういう加工にしようかと迷っていたんだ。セラはきっと、私がどうやってミレイユに渡そうかと、悩んでいるように見えたんだろうな」
「どのような加工にするか、セラと相談すると良い」と言うと、ミレイユに握らせた。
「ありがとうございます⋯」
いつポケットに忍ばせていたんだろう⋯、不思議に思いながらも、ミレイユはライオネルの気遣いに目が潤んだ。
ライオネルがミレイユの目蓋に唇を落とす。
ライオネルの唇はヒヤリと、冷たかった。
「つめたいな」
と、ミレイユは、いつかの雪と戯れた日のライオネルの言葉を真似して、ライオネルの唇に唇を重ねた。
「ライオネル様のお心が嬉しいです。大切にしますね」
と、言ってライオネルの首に腕を回して抱きしめた。
寝台に戻ると冷えた身体を、ライオネルが抱きしめてくれた。
寝衣から感じるライオネルの体温も、いつもに比べると随分と冷たくなっていたが、ミレイユの心はいつまでもポカポカと温かった。
※次回のエピソードより、一部センシティブな表現を含むため「R15区分」に設定いたします。
(設定により、作品冒頭に注意書きが表示されます)
ご理解のほど、よろしくお願いいたします。




