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タイトル未定2025/05/25 16:27

この物語は人によって、きっと気持ち悪い話です。

そして人によって、もしかしたら地雷になりえる物語です。


読み終わった後の誹謗中傷、批判は止めていただけると幸いです。





 困った。

 

 それは幼いころに手に入らなかったものが、手に入るかもしれないという喜びの真横で、今更手に入ったところで意味がないと、そもそもそれは嘘だと怒りが暴れている。この二つを包む“気持ち悪さ”にわたしは困っていた。


 ■


 死にたかった。

 いや、今も死にたいと脳みそは叫び続けている。

学生の頃に左手首を切った。死にたかったし、生きていたかったから切った。最初は浅くて血がつぷり。と出て、すぐ止まってしまった。慣れてくると、深いところでドクドクと脈を打ち、多量の血が出た。血がたくさん出ているはずなのに、痛みなんて感じなくて、ぼんやりと溢れ出る血を眺めた。

 惰性で続けていたら、手首はなんとも言ええない肌触りになって、刃が通らなくなった。――――――だから、切るのは止めた。



 切るのを止めたわたしは、どうして死にたいのか考えた。自己理解ってやつは、きっと大切なことだと思う。

 最初は上辺の理由がポコポコ出てきた。

 ――勉強ができない。

 ――クラスでの孤独感。

 ――運動ができない。

 こんなものは、きっと思春期特有のものだと目を瞑った。



■■



 昔ニュースで見た。

 両親が人生で子どもと一緒に過ごせる時間は母親で約7年、父親が3年らしい。

 けど、これは普通の家庭の話だろう。

 わたしには、母も、父もいた。いたけど、こんなにも一緒にいなかった。別に死んじゃいない。幼いころに離婚しただけだ。親権は母親に渡った。一緒に住んでないだけで、年に1回か2回ぐらいは父とあった。そういう約束だった。

 小学生になったころ、母は帰ってこなくなった。

 理由なんて、当時のわたしにはわからなかった。

 電気が止まる。

 水道が止まる。

 ガスが止まる。

 一番困ったのは水道が止まることだった。

 冬だって水さえ出れば、どんなに凍えそうになっても体が洗える。洗濯物だって、なんとか洗える。――――なによりも、トイレを流すことができる。



 あぁ、正直羨ましかった。妬ましかった。

 学校にだけ集中できる同級生が、殺してしまいたいほど憎かった。

 だって、こいつらは温かいお風呂に入れて、何も考えなくても美味しい料理が並んで、洗濯物だって親にやってもらえて、トイレの水が流せなくなることなんて考えたことだってないんだろう。

 給食の白衣だって、苦労せずに洗えるんだ。




 ある日母親が帰ってきた。

 なんか、友達ができたらしかった。夏休みや、冬休みにはその人の家に連れてかれた。そこには年の近い姉妹がいて、深く考えてないわたしは友達ができたことが嬉しかった。すこし遠くに住んでる友達に会う時は、帰るのが大変だから毎回泊まることになっていた。

 ある日、そのこと喧嘩したわたしは親に泣きつきたかった。いつも同じ布団で寝ている友達と喧嘩したから、一緒に寝るなんてできなかった。向こうもわたしと寝るつもりはなかった。

 喧嘩発端なんて覚えていない。ただお互いの親についてだった気がする。


 誰かに慰めてほしかった。

 仲直りする方法を、教えてもらいたかった。

 この時のわたしは、まだ母を信じていた。


 親が寝ている部屋に行けば、布団が生き物のように蠢いていた。

 薄暗い電気に照らされた隙間から見えたものに、強烈な吐き気を覚えた。そして、さらに涙が溢れて止まらなかった。

 わたしの泣き声に気がついたそれは、動きを止めて「はやく寝なさい」と、部屋から声だけ追い出した。


 その日は、眠れなかったのをよく覚えている。




■■■



 中学生になって母は再婚した。

 もともと家にいなかった人だ、好きにすればいいと思った。戸籍から外れたその人に、思うことなんてなにもなかった。戸籍も含めて、さよならだ。



 いろいろあったが、社会人になった。

 社会は学生と違って“自由”だった。

 自分で金を稼いで、お金を払う。

 もう電気、ガス、水道が止まることに怯えなくてもいいのは天にも昇る気持ちだった。やっと、やっとわたしも、普通の人間のように暮らすことができるのだと嬉しくなった。



 なったんだけどなぁ。




 お金を稼いで、貯金して。

 そもそも趣味とか、したいとことが思いつかないわたしには貯金ぐらいしかしたいことがなかった。通帳に貯まっていくお金を見て、わくわくした。

 自分で頑張って稼いだお金なのだから、今まで死にたいけど死なずに生きてきた自分にご褒美があってはいいのでは? なにに使うか、想像するだけで楽しくなった。人生こんなに楽しくていいのかと不安に思うほどに。

 けれども、その不安は現実になって襲ってきた。



「お金貸してくれない?」




 わたしの生涯で、親に言われた言葉ナンバーワンはこの言葉だ。 

 最初は、そう最初は育ててもらった覚えはなくても、産んでもらった恩があると、なにより——自分が必要とされている事実が嬉しくて、お金を貸した。

 けど、だけど、一度貸してしまえば相手はどんどん要求してきた。どんどん吊り上がる額に比例するように、お金を無心してくるスピードも上がる。


 どんどん心が腐っていくのがわかった。



 腐っていくのと同時に、嫌でも理解した。



 幼いわたしが見向きもされなかったわけを、

 今になってこんなにも連絡してきてご機嫌伺うわけを、



 幼いわたしになくて、今のわたしにあるものを考えればすぐに答えが出た。



 お金を渡せば、わたしを見てくれる、必要としてくれることに嬉しくなる。

 返す気もなければ、昔も、今もわたしを見ていない事実に怒りが湧く。

 そして、あの人にとってのわたしの価値に気持ち悪くなる。



 この事実に、気持ち悪くなって、眠れなくなって、仕事にだって集中できなくなってミスをする。



 あぁ、本当に困ってしまう。





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