ぬいぐるみの持ち主~男性主人公~(各小説それぞれ別々にお読みいただけます)
幼馴染の性格が悪い。その幼馴染が俺の大切なものを蹴った結果、美少女先輩が幼馴染にキレた。
俺の幼馴染は、かなり可愛い。
だけど、可愛いからいいよ的な扱いを狙っているのか、わがままな行動が多い。
そして最近はさらに、乱暴にもなってきている。
だから俺は…幼馴染とはあまり関わらないことにした。一緒の高校だけどね。
だけど、ある日、下校しようとしていた俺は幼馴染と下駄箱で出会って、そこで話しかけられた。
「ねえ、最近私が強すぎて、陰キャのあんたは話しかけられなくなってきてるでしょ」
「は、はあ。まあそういうことでいいよ」
「ダサいなあ。あはは。ダサすぎ幼馴染だわ。まあ私がどんどんカーストが上の世界に行くってことかなあ」
「はいはい。じゃあ、頑張ってくれな。俺は今から用事あるから、急ぐんで」
俺は靴を履いて、そして走り出そうとしたけど、その時、滑ってカバンを落としてしまった。
そしてそれを見た幼馴染は…カバンを蹴った。あまりに乱暴すぎるだろ。
カバンを蹴った拍子に、カバンについていたぬいぐるみのキーホルダーが外れた。
まずい。あれは、俺が先輩からもらったものだ。ものすごい大切。
だけど…。
幼馴染はそれも蹴った。
なんでも蹴りすぎ。
俺は流石に幼馴染の前に立ちはだかり、
「調子に乗りすぎな」
と言った。
「ふうん。まあ、これくらいいいでしょ。私は私なりにスクールカーストの上の方で苦難があるの。ストレス発散ね」
うん。これはダメかもしれない。取り返しのつかないくらい性格が悪いってことね。
諦めた俺はカバンとぬいぐるみを拾った。
そして振り返ると…。ぬいぐるみを俺に贈ってくれた、先輩がいた。
俺と同じくらいの身長なのに、童顔で可愛い。だから後輩に見える、と思っていたのだが…。
キレた先輩の顔は迫力がありすぎた。
この人ほんとに、いつも部室で一緒にいる、囲碁部の美少女先輩…?
信じられないぞ。
「せ、先輩…」
「私があいつを改心させてくる」
幼馴染を追う先輩。
先輩は幼馴染を捕まえて、空き教室に引き込んで、そして…一分のうちに幼馴染が泣いて教室から出てきて逃げていった。
え、先輩強い…。人間ってみんな高校三年生になったら強くなれるのかな?
「お待たせ」
「あ、ありがとうございます!」
「ふん。君は囲碁も私になかなか勝てないけど、あれだね。まあ、もっと強くなるべきかな。いや、そんなことはないか」
「そ、そんなことないんすかね」
「私の都合的にはね」
「先輩がくれたぬいぐるみ、これは先輩に囲碁で一回だけ勝ったからもらったから、これからも大事にします」
「さっき蹴られて少し汚れたかな…」
「いえ、大丈夫だと思います」
俺はぬいぐるみを撫でた。
そう。もともと綺麗なぬいぐるみだったら蹴られたことでついたわずかな汚れも目立つかもしれないが…。このぬいぐるみはもともと少し古めなのだ。
「このぬいぐるみって、僕の前の持ち主は先輩ですよね?」
「そうだよ」
「その前の持ち主って、いるんでしょうか」
「私のおばあちゃんなんだ」
「おばあちゃんでしたか」
「私、おばあちゃんっ子で、おばあちゃんが一番好きみたいな感じで、でも亡くなったんだ」
「…」
「…その時おばあちゃんがそのぬいぐるみをくれたんだ。おばあちゃんの手作りなんだよ。でね、こう言ってくれたの。好きな人ができたら渡しなさいって」
「なんと優しいおばあちゃん! そしてロマンチック! ん? でもそしたら俺のことが好きって…あっ。先輩逃げた!」
先輩は走り出していた。
ダメだ。俺は告白されたのかもしれないけど、ダメだ。
先輩は囲碁が強いけど、囲碁の大会で入賞して表彰されるのも恥ずかしがる。
恥ずかしがり屋な先輩は、めちゃくちゃ今頑張ったんだ。
で、先輩は足が速いんで追うの無理っすね。
なので俺は、先輩に返事をすぐに伝えられなさそうだ。
せっかく返事を即答できるっていうのにね。
☆ 〇 ☆
5月。
小学校の運動会の季節である。
「ねえ、ママって足速かったの?」
かけっこを頑張るという娘は、そう聞いた。
俺は答えた。
「ママはね、足速いんだよ。パパよりも速いんだ」
「ええっ。すごいね!」
娘に褒められているというのに、何を思い出したのか、顔が赤すぎるママがいる。
「じゃ、かけっこ頑張るね! 集合場所に行かなきゃ!」
リュックを背負った娘は元気に歩き出した。
そんな娘のリュックには、娘より年上…つまり
先輩のぬいぐるみがついている。
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