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目覚めて情報収集

 「……何、これ……?」


 呆然としながら思わず呟いた【編手】は、直ぐに座っている場合では無いと判断して立ち上がる。直前まで苛んでいた頭痛や机が打ち付けられた痛みは、とっくに吹き飛んでいる。


 「投票……?葬送ルール……?ッ!!スマホ!!」


 【編手】は、無意識とは云え目視していた黒板に書かれていた文章を今度は意識的に見て、その中にあった馴染みのある単語に気付いて反射的にポケットからスマホを取り出す。


 起動させたスマホの画面に幾つかの見覚えのあるアプリのアイコンが並ぶ中に、一つだけ記憶に無い白地に銀色の投票箱らしいマークが描かれた物があった。


 タップして開いてみれば投票箱とそれが乗る台の様な絵があり、その上には残り時間らしきカウントダウンするデジタル時計の様な表示がある。


 投票箱の絵の下には、このクラスにいる41名の縦書きに名前が書かれた投票札の様な(ボタン)が横8縦5+担任1の様に並んであった。


 一先ず、それ等を押す前に電波状況を確認する。


 (私の名前もある。そして圏外か……)


 《明確な異常の中で、半ば予想していたとは云え、圏外になっている事が分かると、外部に連絡して助けを求める事が出来無い事を嫌でも突き付けられる感じがして少し精神が削られる》。自身の知識の範囲外の事を調べる手段として使えない事も不安を増幅させているのだろう。


 それでも行動しなければならない。


 【編手】は先ず、万が一消されて見返す事が出来無くなると困るので、黒板をスマホで撮影する。


 もしかしたら、撮影に失敗するのでは?と突如として襲い掛かってきた異常の波にそんな不安が湧いたが、結果としてちゃんと撮影出来ていた。これで、黒板に書かれていた物が最悪消されても自分は問題無いだろう。


 再び、見覚えの無いアプリ――【仮称:投票アプリ】について調べる。


 「?他のページがある?」


 左から右にスワイプすると、メニューの様な物が現れて、【投票】、【役職】、【メール】、【メモ】の四つの項目があった。


 【役職】を押すと、

――――――――――――――――――――――――――――――――

 『貴女は【被害者】です』


 ・貴方は、元々持っている票とは別に、【被害者】以外に有効な票を一つ所持している。

 ・貴方は、【処刑】以外の方法で他の役職に危害を加えても【制裁】対象にはならない。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 とあった。


 (【制裁】、か。黒板のルール説明には書いてなかったな)


 つまり、公開されていない裏ルールの様な物もどうやら存在するらしいと、【編手】は判断する。場合によっては、それに引っ掛かって【処刑】となるかも知れないから、気を付けなければならない。勿論、実際にそんな事が実行されるならだが。


 次にメールを確認してみると、受信した物が一件あり、見て見ると、

――――――――――――――――――――――――――――――――

『見極める者よ。己の記憶を過信する勿れ。自ら調べ、導き出した物こそが真相への導故に』


 追伸:ちゃんと調べてから選択した方が良いよ 【死者】より

――――――――――――――――――――――――――――――――

 とあった。何かのヒントだろうか?


 (送り主は【死者】か……。そして、……【メモ】には何も無い、か)


 最後に【メモ】を確認したが、白紙で何も書いてなかった。恐らく、本当に自分自身で記録する為のメモに使うのだろう。


 (【役職】は、黒板にある3つ目からルール説明迄の間の奴がそれぞれの【役職】を示していると仮定して、存在する【役職】は恐らく7つ。


 黒塗りの【役職】は何だ?)


 この巫山戯た人狼紛いの投票ゲームに参加するしか無いと思われる状況で、【役職】の把握はかなり大事だろう。可能ならば、他の【役職】の人数や情報が欲しい所ではあるが……恐らくは難しいだろう。


 「皆、一旦落ち着こう!!」


 手を叩いて、【上縁】は教室全体に聞こえる様な大声で落ち着く様に言って視線を自身へと集める。


 気に食わない相手ではあるが、混乱と不安が蔓延した渾沌とした状況を一旦纏めるには必要だろうと、【編手】は何も言わない。


 一応は耳を傾けながらカーテンを捲り、窓の向こうを確認すると、何故か夕暮れの様な藍に移ろい始めている赤い空になっており、元々ある高台になった運動場と、その先に学園の外周を囲う背の高い木々と金網らしき影があった。


 クレセント錠だったか?兎に角、基本的に窓の施錠に用いられている縦に回す鍵は、やはりと云うかしっかりと閉まっており、《弄ってみても固定された様に動く気配すら無い》。


 「落ち着けって言われても、落ち着ける訳ねぇ〜だろ!?」

 「そうよ!?こんな意味分かんない事になったら無理だよ!?」

 「お前、まさか何か知ってんのか!?」


 喧々囂々、いや、阿鼻叫喚が恐らく正しいか。兎に角、【上縁】の言葉はこの混乱を落ち着けるには、まだ足りないらしい。


 「そうだ、そうだ!!【正義】の云う通り、一旦落ち着こう!!先ずは何が起きているのか把握するんだ!!」


 その時、【上縁】に追随する様に、如何にも陽キャな運動部らしい雰囲気の短髪の男子……《名前は何だったか?……まぁ、思い出せない》が恐らく【上縁】の友人だろう男子が声を上げた。


 「煩ぇ〜ぞ!!だったらテメェ〜等が勝手にやってろよ!!」


 男子の誰かが言ったその言葉に、【上縁】と友人らしき男子が一瞬苛立たし気に顔を歪めて、直ぐに元の表情に戻す。


 「……分かった。協力してくれる人は手伝ってくれ」


 どうやら、不毛な論争をするよりも、足手まといを早々に切り捨てて動ける者でどうにかする方向に舵をきったらしい。中々、賢明な判断と言える。


 「何か今、分かる事ある人はいるか?」


 【上縁】の問いに、【編手】は仮に情報を出すとして何処まで出すかを考える。


 【役職】なんて物がある以上は、敵味方の様な関係も当然あると推察出来る訳で。下手に出した情報が、後々こちらを絞め殺す事態になりかねない。


 故に、《編手》は沈黙し、周囲の観察を選んだ。


 「多分、皆気付いていると思うけど、スマホが圏外になっているね。


 Wi−Fiが無いのは兎も角、電波すら無いのは吃驚だよね」


 後ろ二列目、廊下側から横四列目の席に座る、軽薄な雰囲気の茶色い癖毛の男子が、自身のスマホを指で摘んでプラプラと揺らし、頬杖を突きながら言う。


 「スマホと云えば、【投票アプリ】?が勝手に入ってたよ」


 丁度教室の中央辺りにある机に座る運動部らしき快活そうな女子がスマホの画面を見せる様に周りに向けるが、《其の画面は電源が落ちているのか黒く、反射した景色しか映していない》。


 「おい、ちゃんと付けてから見せろよ」

 「え?ちゃんと付けているよ!」


 近くにいた男子からの文句に、彼女は一度スマホの画面を見てから反論する。《その表情や声音からはどうにも嘘を吐いている様には見えない》。


 (もしかして、自分以外にはスマホの画面が見えない様になっている?)


 「……窓は開かなかったよ」


 窓際の一番前の席にいた眼鏡を掛けた大人しい雰囲気の男子――《名前は確か【御影】だったか?》――がおずおずと小さく手を上げて言う。


 「ドアは普通に開くっぽいね」


 廊下に出入りする為のドアの側に立っていたギャルっぽい感じの、良く云えば明るく社交的な感じの女子が、ガラガラと音を立てて引き戸のドアを開き、廊下に頭を出して左右を見回す。


 「……普通に学校の廊下だね。教室とかも看板を見た感じ普通っぽい。


 いや、当たり前なんだけどね?」


 頭を戻して振り返った彼女のその言葉に、教室の生徒達の顔が幾らか明るくなる。


 それはそうだ。色々と異常ではあるが、普通に降りて玄関から帰れそうだし、それが無理でも窓を割ったりすれば良いし、人手が足りないなら他の教室の生徒等と合流して協力して貰えば良いのだから。


 そう思った所で、女子生徒が手を離したドアが独りでに閉じる。開けっ放しには出来ない様だ。


 「ねぇ〜、そう云えばぁ、先生動いてないけど、さっき迄の(あたし)達みたいにまだ寝ているのかなぁ〜?」


 教卓に一番近い最前列且つ、廊下から四列目に席がある、常に可愛子ぶって上縁や顔の良い男子に媚びている女子――《確か【姫乃】だったか?》――が無駄に間延びした甘ったるい声音で、無駄に濃い化粧をした頬に左拳を当てて周囲を見回しながらそんな事を聞く。


 《女子達は気に喰わない女に使われる事は不愉快極まりない訳で、端から顔すら向けない事で協力する気が無い事を示し、男子は誰か動けとキョロキョロと見回して互いの顔を見ているだけ》で、結局教卓の裏で動く様子の無い【宮内】の様子を見に行こうとする者はいない。


 「……チッ!誰も動かねぇのかよ。しょうがない」


 舌打ちをして、隣の三列目に座る眼鏡を掛けたボブヘアーの文学女子らしく見える女子が、溜息を(わざ)とらしく吐きながら立ち上がって、【区内】に向かっていく。


 そして、面倒臭そうに【区内】の状態を調べる様に触ったり、鼻や口元に手を翳したりしている内に、《表情が強張って真剣な物へと変化していく》。


 そして、服を捲って其の下の身体を確認したり、首筋や手首を指先で押さえて脈を確認する様に瞑目して数秒程動きを止めたりした後、最後に胸元に耳を当てて心音を確認すると、静かに立ち上がると振り返り、その場で生徒達を見回してからハッキリと告げた。


 「【宮内】先生、死んでるよ」

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