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【番外編(連作)】第1話 「ルシリカの『ひなまつり』」

ここから始まる番外編は連作となっております。

お話の時間軸は、ルシリカが例の島で幽閉されている時です。


・第1話「ルシリカの『ひなまつり』」

・第2話「ルシリカと『ヒナちゃん』」

・第3話「扉を開けると極上布団がいました」


カクヨム掲載分の転載です。

モフモフに浸って欲しい短編です。

 私は『香職人』見習いのルシリカ(二十二歳)。今は湖に浮かぶ孤島で、絶賛幽閉生活を送っています。

 


◆◆◆


 ……ということで、私は今日の食事を作るために、食料調達に出ています。

 何しろ必要最低限の調味料とお水、小麦粉しかありません。罪人扱いの私ですが(本当は無実なのよ)伝手があるおかげで、一週間に一度、食材の差し入れがあります。それが来るまでは自給自足です。ちなみに湖には魚がいますが、私は苦手なので食べられません。


 とりあえず、今日の採取ルーティン行きます!

 まずは幽閉先の石造りの建物から出て井戸の隣にある花壇を覗きます。一見、青々とした雑草ばかりのように見えるんだけど、その合間には食べられる香草ハーブが生えています。


 お湯で湯がいて食べたり、小麦粉にうっすらまぶして油で揚げて食べたり。塩コショウで味付けして野菜炒めにしたりして、もう流石に食べ飽きて他のものが食べたい……コホン! いえ、私の主菜です。


「今日もイラクサとコリーンの葉はたっぷりあるわね~」


 なるべく柔らかそうなそれらの新芽を摘んで、籐籠の中に入れます。

 次は南の森の入口へ向かうの。ここにはお茶にしたりジャムも作れるラズベリーの茂みがあって、欲しい分だけ摘み取ります。不思議なんだけど、結構しっかり摘んでも三日ぐらいでまた沢山実がなっているのよね。


 ひょっとしてこの島だけ時間の流れが早くて、もしも私が自由の身になった時、知っている人やお母さんとか、いなくなっているってことはないわよね……。

 うっ。そうなる前に、王太子妃毒殺の冤罪を晴らしたい。


 ポヨポヨ。ポンポヨーン♪

 ポヨポヨ。ポンポヨーン♪



 うん?

 なんか、背後の森の方から歌声が聞こえる?

 ここは無人島らしいけど。勿論、住んでいる人なんて今まで見たことがない。


「ポヨッ!」

「うわっ!」


 私の眼の前に真っ白で大きな塊が現れた。

 大きさは人間の子どもぐらい。ふわふわもこもこで頬ずりしたくなる羽毛で全身覆われている愛くるしい生物。


「ポヨ~」

「わあ、ポヨン鳥ちゃんじゃない!」


 頭には逆毛になった羽がぴょこっと飛び出て風に煽られ、お花のようにゆらゆら揺れている。黒くて小さな瞳とくちばし。

 間違いない。この子はね、私の知っているお友達。大雨の夜、全身びしょ濡れになって、寒くて寒くて震えてたの。それで私に助けを求めにきたポヨン鳥ちゃん。


 あ、ポヨン鳥っていうのは正式名称じゃなくて、私が彼? の鳴き声で勝手に名付けただけ。きっと誰もこのトリがなんという名前か知らないんだろうけど。


「ポヨポヨ~」


 ポヨン鳥が体長の三分の一しかない短い翼を広げた。

 大きいから正面から見ると迫力ある。まさにトリの降臨~っていうかんじ。


「久しぶりね。元気だった?」


 私とポヨン鳥は人間のように抱き合った。これがポヨン鳥との挨拶なのだ。

 ああ。お胸の毛がふわふわモッフモッフ!

 私は夢中で羽毛に頬をよせてすりすりする。

 こう見えても島の幽閉生活は孤独なのよ。

 はあ……柔らかで木の実のような甘い香りがする……。この羽毛と香りに包まれたら、私は立ったまま熟睡できるわ本当に。


「ポヨッ!」


 挨拶を済ませたらポヨン鳥ちゃんが、黒くて小さな瞳をキラキラさせて、急に後ろを小さな翼で指したの。

 ポヨン。ポヨン。

 そしてまるでついておいで、といわんばかりに、そっちに向かって飛び跳ねた。


「えっ。ポヨンちゃん。そっちは東の森の方だよね?」


 この小さな島は、南と東が森になっている。比較的背丈が低い灌木が茂っているのが南の森で、胡桃の木や林檎も生えていたりする。

 反対に東の森は広大で、この島の二分の一を占めている。私は一度だけ東の森に入った。ここはポヨン鳥ちゃんの一族が棲んでいる。なんというか、彼らの領域に人間が立ち入るのは禁忌だと思う出来事があって。それ以来、私は足を踏み入れないようにしていた。


 ぽよん。ぽよん。

 頭の白い逆毛を機嫌よく揺らしながら、ポヨン鳥は森に向かっていく。時々立ち止まって振り向いて、私が後からついてきているか、確かめているみたい。

 つまりこれは、ポヨン鳥にお誘い頂いているって思っていいのよね?

 東の森についた。緑が深い。まだお昼前なのに、森の中は夕暮れを思わせるほど木々の影が濃くて暗い。


「ポヨポヨ~」


 振り返ったポヨン鳥ちゃんが、こっちにおいでと言うように鳴いた。


「あ、待って。一人にしないで!」


 東の森は苦手なの。

 なぜかというと……。


 ポヨポヨ。ポンポヨーン♪

 ポヨポヨ。ポンポヨーン♪


 木々の間から歌が聞こえてきた。


 ポヨポヨ。ポンポヨーン♪

 ポヨポヨ。ポンポヨーン♪


 ええと……これは一匹、二匹というレベルじゃないわね。

 軽く数十匹ぐらいいそう。ポヨン鳥達。

 どうしよう。今日は彼らの好物のパンを持ってきてない!

 私の籐籠の中には、朝採りのイラクサとコリーンの葉と、いつもより少し多めに採れたラズベリーの実しかない。


「ポヨポヨ~!!」


 うわあ、でたあ!

 私を取り囲むように、白い頭につぶらな黒い瞳を輝かせるポヨン鳥たちが、草の茂みからひょこっと顔を出している。


 きらきら。

 きらきら。


「うっ! ごめんね、ポヨン鳥ちゃんたち。今日はパンを持ってないからあげられないの!」


 私は思わず身構えた。

 ポヨン鳥ちゃんたちが四方八方から、私めがけて飛び跳ねてきたからだ。

 ふわりと腕に当たる羽毛の感触。腕だけじゃない。顔や、頭、そりゃもう全身に。

 ムギュムギュされる。

 いくら羽毛の塊でも、おしくらまんじゅう状態じゃあ、私の体が持たない。

 前回、この森を訪れた時、ポヨン鳥たちのパン争奪戦に巻き込まれて、私は危うく窒息しかけたのだ。その時の悪夢が脳裏を過った時――。


「……あれ? えっ、うわあ! 何っ??」


 今日は違った。ポヨン鳥達は私の体を担ぎ上げて、ぽよんぽよんと森のさらなる奥へと連れて行く。まるで分厚い羽毛布団の上に乗って、魔法の絨毯のように空を飛んでいる気分。

 あ、やばい。ふわふわして……これは気持ちが良すぎる。

 移動する羽毛布団なんて反則だ。


 ポヨン鳥達は私を担ぎ上げたまま、『あの場所』へと連れて行った。

 そこは薄暗い森を抜けた小高い丘。空が高くどこまでも見渡せて、白い花びらが――ううん。ポヨン鳥達の真っ白い羽毛が、茜色の空に向かってどこまでも舞い上がっている場所なの。

 そして地面には、見方によっては、白い鳥が羽を広げたように見える小さな花がびっしりと沢山咲いているの。


「ポヨン!」

「きゃっ!」


 私は急にポヨン鳥たちの羽毛布団から降ろされた。

 そのまま、風に揺れる白い花々の絨毯の上に座り込む。周囲から砂糖を焦がしたような甘くて芳しい花の香が立ち上っている。これがあまりしつこくなくて、こう……なんというかしら。ほっとする甘さっていうのかな。そんなかんじ。

 ふと周囲を見渡すと、いつの間にかポヨン鳥達は二匹ずつ、仲良く寄り添っていた。右も左もカップルだらけ。

 うわ。なんだろう。ちょっとうらやましいんだけど。


 ポヨン鳥の大きさもよくみたら、個体差があるみたい。それで雄の方ががしっかりした骨格で、一回り小さくてなで肩気味の方が雌なのかな。あ、私の知っている逆毛君(君って言ってるから雄ね)も、ぽわぽわした羽毛の彼女と額を合わせてすり寄ってる。目なんか細めちゃって、もう……幸せそうじゃない。

 すると、どこからともなく鳴き声が聞こえてきた。


 ポヨポヨポヨ。

 ポヨッ。


 ポヨン鳥のカップル達の足下から、ぴょこぴょこと丸くて白い、ほわほわとした塊がいくつも顔をのぞかせていた。


 ポヨポヨ。

 ポヨポヨポヨ!!


 両親の間から顔を出したそれは、なんとポヨン鳥のヒナ!!

 正円に近いくらい真ん丸な体で、よく見ると小さな羽を懸命にぱたぱた動かしているの!

 瞳は親と同じで黒いんだけど、ヒナだからくちばしが黄色くて平べったくて、頬のタンポポの綿毛みたいな羽毛がぷくっと被さっていてなんとも愛くるしいフォルムをしている。

 かっ、かわいい~!!


「ポヨン~」


 あの逆毛君が私に近づいてきた。背中に……わあ。十匹の真ん丸なヒナが載っかってる!!

 気づくと他のポヨン鳥達も、我が子を見て、見て~っていわんばかりに、私の所へ見せに来てくれた。


 トコトコトコ!


「ポヨン!」


 逆毛君の背中から、ヒナ達が私の頭や肩めがけて飛び跳ねてきた。


「きゃっ!」


 私はヒナたちを両手で受け止めた。ひとつひとつの羽毛の塊から伝わる温度が暖かくて……気持ちがいい。いや、今回はヒナまみれ。モフモフ好きが一度は夢見る天国よ。


「きゃ、くすぐったい」


 私の肩に載っかったヒナたちが耳たぶをすっかり気に入って、小さなくちばしでツンツンしてる!

 私はたまらず花の絨毯の上に寝転がった。

 ポヨンポヨン♪

 ヒナたちが私の体の上に載っかって、楽しそうに飛び跳ねている。

 右も左も綿毛のかたまりだらけ。


「わあ、賑やかでまるでお祭りみたいね! そう、ヒナまみれの『ヒナ祭り!』」


 こうしてモフモフを堪能した私は、湖の孤島での幽閉生活でのストレスを発散できたのでした。

 ありがとう。ポヨン鳥ちゃんたち。

 一人っきりの私を可哀想に思って慰めてくれて。

 大好き。愛してる。





「ポヨッ?」


 ああっ!

 一匹、私の幽閉先の建物まで連れて帰っちゃったみたい!

 返しに行かなくちゃ!



(第2話へ続く)




ポヨン鳥の聖地でひなまみれになったルシリカ。

しかし、思わぬ事故で……あれ?

「ポヨポヨ……!?」

帰宅したルシリカとポヨン鳥のヒナのハートフル・コメディ。


・第2話「ルシリカと『ヒナちゃん』」へ続きます。


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