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第28話 ルシリカ、堪忍袋を破裂させる

「カルミア、今の話は……本当に、本当のことなのか?」


 淡い金髪を震わせながら、カランサス王子がじっとカルミア様を見つめていた。


「はい。本当です。カランサス王子様。私とエリスは、心から愛する人の傍にいきたかった。ただそれだけだったのです……」


「おのれ……レンシャルめ……」

「どうした、カランサス?」


 大人しいカランサス王子がまなじりを釣り上げ、ぎりと薄い唇を噛み締めている。

 怒っていらっしゃる。

 レンシャルに何かされたのかしら?

 そんな私の疑問を代弁してくれた人がいた。リンゼイだ。


「国王陛下。実はこの場でご裁定を頂きたい件がございます。カランサス王子殿下はレンシャルから脅迫を受け、私にルシリカを殺すようにお命じになったのです」


「何だと」


「王子殿下はそれで愛するカルミア殿を守るために、あのような理不尽なご命令を出されました」


 えっ。

 それってどういうこと?


「リンゼイ殿。ギルド長のレンシャルを連れてきましたぞ」

「わかりました。入って下さい」


 えっ。びっくり。

 聞き覚えがある声だと思ったら、どうしてここに父がいるの?

 久しぶりに見るファーデン公爵様は少し顔に影ができていた。エリス姉様の死が余程堪えていたみたい。


「さあ、入れ!」


 ファーデン公爵の後ろから、屈強な騎士二人に左右両側から肩を押さえつけられたレンシャルが部屋に入ってきた。普段後ろにかき上げられている赤髪は乱れてボサボサになっている。彼は国王陛下を見るなり哀れっぽい声で訴えた。


「何故私がこのような場に連れてこられるのか、ああ……国王陛下! カランサス王子殿下までおられるとは丁度いい。騎士の皆様が私の所に来て城に連行されました。こんな真夜中に一体何のことでございましょうか?」


「リンゼイ、レンシャルが何をしたのか申せ」


「はい。この者は恐れ多くもカランサス王子殿下を()()しました。先程も申し上げた通り、王子殿下はカルミア殿がエリス様に毒を盛っていることをご存知でした。そうですよね?」


「はい。リンゼイ様の仰る通りです」


 即座にカルミアが返答した。


「カランサス、お前はどうなのだ?」


「はい……私はそれをレンシャルから聞かされて知ったのです。彼女に毒薬を売ったと。だが私はカルミアを問い詰めることができなかった。今、彼女の告白を聞いてそれが真実だと知りました」


「カランサス王子様っ……! 私にはそのような覚えが全く身にございませんがっ!」

「お前は黙っているが良い」


 ファーデン公爵が一喝した。レンシャルが黙ったことにより、リンゼイが話を続ける。


「レンシャルは、カルミア殿に毒薬を売りつけた張本人です。エリス様の体調不良の事を、城に出入りする商人や女官からきいて、売った毒が使われたことを()()()のでしょう。その事実が国王陛下に知られてしまうと、王子殿下は毒を使ったカルミア殿と結婚するのは難しくなります。だから強欲な彼は、その秘密を盾にして、商売敵になるであろうルシリカの殺害を王子殿下に求めたのです」


「つ、作り話も大概にしてくださいませ! リンゼイ様。私がなぜ、ルシリカを殺すために王子殿下を脅迫だなんて……」


「国王陛下、発言をお許しいただけないでしょうか」


 私は思い切って口を開いた。


「ルシリカ、どうした。申してみよ」


「はい。実は幽閉先で何者かに襲われました。彼らの狙いは私の命と、薔薇の花の香水のレシピでした。リンゼイ様が来てくれなかったら、私は今頃殺されていたかもしれません」


「なんだと?」


「違う! 私はそんなことしていない」


「レンシャルよ。ルシリカを襲った賊は近衛騎士団が逮捕して地下牢に閉じ込めている。奴らはお前に金貨五枚で雇われたと吐いたぞ。観念して罪を認めよ」


 リンゼイが感情のこもらない声で冷たく言った。


「……なん、ですと?」

「それからあの孤島は王領だ。許可のないものが上陸するだけでも拘束される神聖な場所なのだ」


「レンシャル、お前は何故カランサスを脅してまで、ルシリカを殺そうとしたのだ?」


「ですから国王陛下。これはなにかの間違いでございます。私は全く知らないのですから」


「さっきから黙って聞いていれば、知らない知らないって……頭に来るわね!」


 私の中で堪忍袋の尾は元より、それ自体が音を立てて破裂するのを感じたわ。


「レンシャル! あなたは香料商ギルドの長でありながら、私に無断で『エリス王太子妃の森の香り』のレシピを元に、『マロウ銀葉樹の森の香り』と称してお香を作り販売を行った。身に覚えがないとは言わせないわよ! 


 私が作った香の有毒性を調べるため、リンゼイがあなたに私のレシピを渡しているんだから。おかげさまで、先に予約してくれた私の香より、職人が沢山いて、大量生産がすぐにできるあなたの香をお城の皆様がお買い上げになって、私の受注分はすべて取りやめになってしまったわ。あなたはお金のためなら何だってするのよ! 恥を知りなさい!」


「恐れながら国王陛下。私もレンシャルについて証言したいことがございます」


 顔を上げてキリッとカルミア様がレンシャルを睨みつけている。

 国王陛下が訝しげに目を細めながら頷いた。


「何だ? カルミア」


「彼の強欲さは計り知れません。私が彼から()()()()()()()、かなり高額な値段を言われました」


「どれほどだ」

「金貨五百枚です」

「ほう。それは確かに高額だな?」


「国王陛下。お言葉ですが……私はカルミア様にそんな恐ろしい毒薬をお売りした記憶はございません!」


「またそんな嘘、ぬけぬけと言うわね! 私が買った毒薬をエリス様に使ったのを知って、口止め料も入っているって言ったじゃない! 国王陛下、ギルドの帳簿を確認してみればすぐにわかります。私はこの男に三回に分けてお金を渡しました」


「リンゼイ、ギルドの帳簿をすぐに取り寄せよ」

「国王陛下、ご心配には及びません。ここにございます」

「おお流石ファーデン公爵。カルミアより金貨五百枚の記録は?」


 ファーデン公爵の顔が曇るのがわかった。


「お城で使用する洗剤や香料、嗜好品などの記載がありますが……カルミアの個人的な取引は帳簿に記載されておりません」


「当然でございます。私はカルミア様にそのような恐ろしい毒薬を売った覚えはありませんから」


「レンシャル! これを……私の腕を見て!」


 カルミア様が先程私が長手袋ををずらして暴いた腕を前に出した。白い肌に絡みつく薔薇のような、見るも痛々しい赤い斑点が浮き上がっている。


「あなたから買った毒薬は、皮膚についたらこんなにひどい炎症を起こすのよ」


 レンシャルが口ひげを触りながらそれを一瞥した。


「ふむ。見事な『死者の花』ですな。エリス様にそんな恐ろしい毒を飲ませたあなたの罪ですよ、カルミア様」


「ちょっと待って下さい!」


 今のレンシャルの言葉は聞き捨てならない。


「どうした、ルシリカ」

「リンゼイ、私、レンシャルに聞きたいことがあるの」


 残念だけどレンシャルがカルミア様に毒を売ったという証拠はないみたい。だけどこのまま引き下がってたまるものですか。


「私に何を聞きたいんだね?」


 レンシャルの態度が急にふてぶてしいものに変わった。あの男もそれに気付いている。


「『死者の花』ってどういう意味ですか? 確かにカルミア様の腕の炎症は花のように見えますが。そんなに恐ろしい毒なの?」


「恐ろしいも何も。『死者の花』は、花全体……茎も葉もすべてに毒を持つ植物だ」


「そうなんですね。じゃあ毒薬を作ろうと思ったら簡単そうね。私にも作れるかしら?」


「ルシリカ。素人のお前にはわからないだろうが、『死者の花』は乾燥させて含まれる毒素を濃縮して初めて毒薬になる。ましてやそれを粉にする過程が一番危険だ。吸い込むと肺がやられて呼吸困難となり、粉が皮膚についてもカルミア様の腕のような炎症を起こすのだ」


「ふうん。レンシャル、あなたはカルミア様の使った毒が粉であることをどうして知っているの?」


「私は香料商ギルドの長だぞ。どんな香草についても知っておく義務がある。薬草も毒花についてもな」


「じゃああなたなら『死者の花』から毒薬を作れる?」


レンシャルは両脇を二人の騎士に掴まれたままだけど、右手を伸ばして自慢にしているのか、ピンと立てた口ひげをつまんだ。


「お望みとあればいくらでも。だが『死者の花』は滅多に市場に出てこない『幻の花』だ。手に入らないもので毒薬を作れと言われても……」


「ここにあるわ」

「何っ」


 私は棺桶の中に隠していた『死者の花』を取り出した。

 あらら、水分が抜けちゃったのか、リンゼイのカードの上でしなしなになってる。


「これが生花の『死者の花』よ。ちょっと萎れちゃってるけど、毒薬を作るのに乾燥が必要なら関係ないわね!」


「それが本物の『死者の花』であるという証拠はあるか?」


 このおじさん、ほんっと疑り深くてしつこい。


「いいわよ。証明してあげる!」


 私は棺桶から勢いよく立ち上がって、スカートに手を添えると、右足の太腿が見えるまでたくし上げた。


「ルシリカ!?」


 エリス姉様やカルミア様が驚いて悲鳴を上げる。

 お二人は貴族のご令嬢様だからこんなはしたない真似をするくらいなら、死んだほうがましだって思うわよね。でも仕方がないのよ。


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