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悪役令嬢を王太子と共に断罪して失敗したヒロインが落ちていたので拾ってみた。

作者: しまね

 家の前にピンク色の髪のピンク色のドレスを着た少女が倒れていた。


 これって貴族のお嬢様だよね?

 馬車でも事故ったのか?

 探索魔法を使ったけどそんな現場はなかった。・・・ということは、なんだろう?

 誘拐されて逃げてきたとか?


 う~~~んと考え込んだ後に鑑定魔法を掛けてみた。


 なになに?


 シファーナ・ジルジエ

 16歳

 元男爵令嬢

 このオルフェジナ王国の(元)第一王子であり、(元)王太子エトガングと「真実の愛」と思い込みをお互いにし、エトガングの婚約者であるリュデボラ公爵令嬢を学園卒業パーティーで冤罪を掛けて婚約者の座を奪おうとした。しかし、リュデボラは先に国王陛下や王妃、第二王子と対策しており、結局冤罪は全て暴かれエトガングは北の塔に10年幽閉。その後子供が出来ないように処理されオルフェジナ王国最果ての領地に平民の兵士として送られる予定。

 ジルジエ男爵家はシファーナの責任を取らされ没落。怒った父親はシファーナを着の身着のまま放逐した。


 うわー(棒)

 真実の愛=冤罪=婚約破棄=失敗=放逐のフルコンボヒロインじゃん。

 でも父親優しーな。ドレス着たままって事は売ればお金にはなるしね。

 まあ、拐わかされて娼館で働かされる事もあったかもしれないけど。


 呆れながらうつ伏せだった少女を仰向けにして状態を確認する。気絶しているだけみたいだ。

 男性だったら町の警備兵を呼んであとは任せるんだけど、いかんせん女性はそうはいかない。でも、知らない人間を普段自分のテリトリーに入れるのも躊躇してしまう。

 さてどうするか。そういえば室内の玄関横の物置が一つ空いてたな。そこにスノコとゴザ敷いて寝かせとくか。あ、サービスで毛布も掛けてあげよう。

 なんて優しいの、私。

 目が覚めたら教会で預かってもらうか~。


 郊外の一軒家に住む薬師のニイナは、纏まった結論を実行すべく少女を魔法で持ち上げて家の中に招き入れた。





 カタッ


 物置で音がした。


 目が覚めたかな。

 半日で目が覚めたんで、こっちの負担がない分ホントよかった。


「・・・ここ、どこ・・・」

 物置のドアをノックしようとしたところ、甘ったるい感じのかわいい声が聞こえてきた。

 あ~~なるほど、顔も可愛かったし声もこんなんじゃ落ちる男は落ちるだろーな。とニイナは思いつつドアをノックして返事を待たずにドアを開けた。


「目が覚めたようね。私はニイナ。

 あなたが私の家の近くに倒れてたんで家に運んで寝かせたんだけど。

 はい、これ水」


 まだ目が覚めなくて記憶が混濁しているようだけど、恐る恐る水を受け取って飲み始めた。

 私から話すのも煩いだろうと彼女から話すのを待っていたんだけど、コップを持ってフルフルと震えて泣き始めた。


 ・・・・面倒だな~。


 ぶっちゃけ私は、こういう、人に縋って生きていく人間は好きじゃない。

 頼るのはいいとして、縋って、その人がいなくなったらどうやって生きていけばいいの?系な?

 相手から拒絶されたらメンヘラかストーカーになりそう・・・。

 しかもそれが略奪だなんて、その後幸せにならなきゃいいと思うくらいだ。

 ちなみに私はざまぁ系大好き。

 ざまぁ度が大きければ大きいほど、読みごたえがあって気に入っていた。

 まあ、被害者が何もせずに周りが動いて幸せになりましたっていう話は途中で投げ出すけどね。

 この子がどういう性格かは分からないけど、略奪して王太子妃になろうという時点で性格が悪いと分かる。

 という訳で、泣いてる女性に無理に話を聞き出そうという事はしない。


 面倒だから。


 相談女とか相手の優しさにつけこもうというのも勘弁して欲しいので、スルー推奨。


 面倒だから。


「そっちの部屋にいるから、落ち着いたらドアをノックしてちょうだい。じゃあね」

 あっさりそう言って部屋に戻る。

 彼女はぽかんとした表情をしていた。


(どうしたの?辛い事があったんだね。話してみて私が力になるから。)


 とか、言ってくれるかと思ったんだろうか。


 阿保らしい。


 前世でも人が倒れてたら警察や救急車呼んで終わりの状況なのに、なぜ私が相談に乗らにゃあかんのだ。

 そう、私には前世の記憶がある。

 ニィシュリエーナ・グレトリーは元子爵令嬢で、5歳の時に前世の記憶を思い出した。

 その直後実母が亡くなり、葬式の翌日には父が愛人を連れてきた。私の一つ下の義妹を連れて。

 父は婿養子で普通の政略結婚だ。しかし、父は自分の立場が気に入らなかったのか、母を嫌い、義母である男爵令嬢と浮気をしていた。

 そして母が亡くなって、私がまだ幼い事もあり、義妹を私に仕立て上げて御家乗っ取りを計画したのだ。

 その後はいろいろと私の方で画策して、ざまぁへ持っていったよ。ホント記憶を取り戻した後で良かった。じゃなきゃ殺される悲惨な末路だったと思う。

 そのままだったら私が子爵家を継ぐ事になるんだけど、領地経営とか男尊女卑の世界とか超絶面倒だったので、継がないような状況に持って行って今に至る。

 結構苦労してるけど一応自分自身薬師として働いて今も生きているし、経済的に人に寄りかかってもいない。だからこそああいう、人に縋って生きてる人が嫌なんだろうな。

 や、そうやって生きるのも処世術だし、それもその人の人生なんで、いいとは思うよ。だけど私の知らないところで他人に迷惑を掛けないでやってくれって感じ。


 お茶を入れてマッタリしていたらノックが聞こえた。一応のぞき窓で確認してドアを開ける。

 そこにいるのはこちらを睨んでいる先ほどのご令嬢だった。この子目も髪と同じでピンクなんだな、瞳は濃いピンクだけど。さすが異世界、煌びやかだなと思ってたら開口一番。


「どうして、あんな汚い物置部屋に寝かせるのよ!」

「・・・・・・・」

「私は王太子の恋人なのよ! あんな扱いされる身分でもないのよ!!」

「は?実家没落してるし貴女もう平民でしょ。ねぇ?王太子の婚約者を冤罪で糾弾して失敗したシファーナ・ジルジエ元男爵令嬢?」

「!」

「もう平民の間でも噂が広がっているわよ(嘘だけど)」


 ・・・・やっぱり面倒だった。こんなの拾うんじゃなかった。今日は厄日だった。

 自分の善意が崩れ落ちる事ほど、自分自身に対して、自分の行動に嫌悪感が酷く募る。


「だって・・・!だって・・・!!貴女の私の扱いが酷いから・・・・!

 さっきだって私が泣いても慰めもしてくれないし・・・・!」


 うざぁ・・・・・・。


 瞳をうるうるとして、庇護欲を誘うような感じで涙声で切羽詰まったように言う。

 女優だねぇ~。男性だったら騙されるだろう。でも貴女の目の前にいるのは女の私なんだけど。


「女の私にそんな顔しても『あざとい』としか思えないよ?

 道で気絶してたからわざわざ家の中に避難させてあげて、保護してあげていたのになんでそれ以上の待遇を求めて文句を言うんだろう?その思考回路がすでに私には分からない。そのまま外に放置して拉致されてひどい目にあった方がよかったのかな?」

「でも・・・・でも・・・だって・・・!」


 おおぅ、初めて『でもでもだって』を聞いた。


「酷いとかなんとかというより、私は一応保護したし、貴女も目が覚めた。

 私の善意はここまでにします。もう出て行ってくれる?助けた人間にお礼も言えないような人にいつまでもここに居られたくないんだけど」

「でも・・・」


 ああ、ホント失敗した。

 倒れてたら救急車と警察呼ぶって自分でも分かってたじゃん! ホント警備兵呼べば良かった。

 でも、警備兵の駐屯所も環境劣悪だっていうしなぁ~。だから拾ったんだけど。


 ホント今日は厄日だった。こんなの拾うんじゃなかった。

 まあ拾ったら一応最後まで面倒はみるけどね。

 そう思って『でもでもだって』令嬢の腕を掴んで外に出て、ドアにカギをかけてそのまま走る。

 後ろで文句を言っているけど、素直に走ってくれているのでそのまま近くの教会に連れて行った。


「シスター・キャサリンナ!」


 顔なじみのシスターがちょうど庭に居たので声をかける。


「ニイナさん、こんにちは。どうしました急いで。・・・そちらの方は?」

「我が国のエトガング元王太子の婚約者を冤罪で糾弾して失敗したシファーナ・ジルジエ元男爵令嬢です。

 倒れてたから我が家で保護したんだけど、お礼も言われずに待遇が悪いと文句を言われてしまって、助けたことを後悔して、自己嫌悪でどうにかなってしまいそうなのでこちらに連れてきました」

「あらあら・・・ニイナさん、貴女は善い行いをしました。ただ、今回はちょっと残念な結果になってしまっただけです。大丈夫ですよ。神はきちんと貴女の善行を見ておられます。後は教会の方で対応致しますよ」


 私に対しての言葉は優しいんだけどシファーナへの視線は冷ややかだった。

 なんとなく空気も重くなってきた。え?そこまでシスターの逆鱗に触れた?


「古今東西、ホント人の婚約者を奪おうというみっともない人種はいるのですねぇ」


 息を切らしていたシファーナはその言葉に頭に血が上ったらしい。

「はあ?奪われるほど希薄な仲でいる方が悪いんでしょ!」

「まあ!自分から色仕掛けしておいて開き直るのはさすがだわ。でも結局この状態じゃあねぇ」


 えええ?いつも優しいシスターの言葉が黒い!黒いよ!!

 どうした!?


「ふふふ、やっぱり悪い事をすると自分に返ってくるのですね。神様は私たちの行動をよくみていらっしゃいますわ」


 ちょっと悪役令嬢っぽいシスターに鑑定を掛けてみる。


 シスター・キャサリンナ

 20歳

 オルフェジナ王国隣国のカトエシュア公国のヴァノーネ公爵の元令嬢。

 当時第三王子であり、王妃の子である王太子ジェロックと婚約していたが、ジェロックが伯爵令嬢と「真実の愛」という恋に落ち、邪魔なキャサリンナを排除しようと学園卒業パーティーで冤罪を掛けて婚約破棄と国外追放を告げた。キャサリンナはすぐにオルフェジナ王国へ。しかしその後、冤罪は全て暴かれジェロックは毒杯をもって処刑。伯爵令嬢は公開処刑となった。その後キャサリンナに帰国命令が出ていたが、政治の駒になるのが嫌でオルフェジナ王国アルフィル教の教会で匿ってもらい、カトエシュア公国へもシスターとして登録。今に至る。


 うわー(棒)

 王太子の婚約者=真実の愛という花畑カップルの邪魔者として冤罪・婚約破棄=国外追放=冤罪発覚のフルコンボ悪役令嬢じゃん。


 悪役令嬢を王太子と共に断罪して失敗したヒロインが落ちていたので拾ってみただけなのに、別方向の・・・・いや、ヒロイン系VS悪役令嬢系だから同方向なのか?


 新たなキャットファイトが今、幕を上げる。


 ・・・・・私は逃げよう。そうしよう。

 今後は絶対に、そこら辺に落ちていた人は拾わないと心に誓った。




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