少女の事情
扉のノック音は続く。
紅葉は顔を上げている黒猫をそっと抱き上げて扉の方へと近づいた。
「だ、誰?」
恐る恐る声を掛けると、返ってきた声は紅葉のよく知る人物だった。
「紅葉?父さんだよ」
「父さん!?」
父の声を確認した紅葉は勢いよく扉を開けた。
扉の前には中肉中背の男が窶れた顔をして立っていた。
「父さん!母さんは、母さんの容態はどうなの!?」
紅葉は父に体当たりするようにスーツの襟を掴んだ。
その拍子に黒猫は紅葉の腕から解放された。
「大分落ち着いたよ、まだ意識は戻っていないが…」
紅葉の母親は今朝、ハロウィンの準備をしていて倒れたのだ。
ハロウィンを誰よりも楽しみにしていた母。
紅葉と一緒にジャックランタンを作ったり、お菓子を作る予定だったのに全部途中掛けで
終わってしまった。
「…紅葉ハロウィンパーティには行かなかったのか?」
父の顔には疲れの色が見て取れた。
正直、紅葉には家に居て欲しくなかったのかもしれない。
「母さんが倒れたのに、行けるわけ無いじゃない…!」
紅葉は控えめに言うと父に座るように促した。
すぐに枕元の水差しからグラスに水を注ぎ父に手渡す。
父は水を飲み干すとグラスを両手で包み、俯いた。
「…父さん、ずっと病院にいて疲れてるでしょう?少し休んだ方がいいわ」
「そうだね、それじゃあ少し休んでくるよ」
父はゆっくり椅子から立ち上がり紅葉にグラスを返すとふらふらと扉の方へと歩き出す。
紅葉はすぐに受け取ったグラスをテーブルに置くと父の肩を支えて一緒に部屋を出て行った。
会話を聞いていた黒猫はベットの上にひょいっと飛び乗ると得心のいった顔をした。
なるほど、そういう理由でこの家はハロウィンに参加せずこんなに家が暗かったのかと。
だが紅葉は今日をとても楽しみにしていたようだし、それは母親も同じようだった。
自分たちもここを最終目的地として来ているのだからこのまま帰るのも何だかスッキリしなかった。
「よし、やってみるかな」
何かを思いついたのかそう呟くとニコォっと悪戯めいた笑みを残した。
書き足しました。
倍ぐらいの文章にはなったかな?