『攻略対象キャラ』
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結局、右側にあった部屋を片っ端から開けてみたが、場所を特定できるものは何もなかった。
その部屋の中のひとつに台所もあったのだが、まず冷蔵庫のコンセントが入っておらず中身は何も入っていなかった。
流し台も使った形跡もなく、皿やコップといったものも棚の中に入っていなかった。
「今更ですが、不法侵入な上に勝手に中を物色していますわね、私たち」
「確かに!でも、誰もいなさそうだよ?この家」
そうなのだ。
この家、どれだけ部屋を物色しても人が居たような形跡がない。
櫛や爪切りといったものはあるものの使われた形跡もなく、トイレも長く使われていなかったのか汚れが酷かった。
風呂もいつの水なのかお湯なのか分からないようなものが浴槽に入っていて、臭いも酷い物だった。
廊下も綺麗に見えるが、靴下の裏を見てみると真っ黒になっている所を見てみると全体的に汚れているようだ。
「空き家、なのかしら」
「じゃないかな?中庭だけは凄く綺麗だけどね」
初めにいた部屋の前を通り抜け、左側の部屋を開けようとしたとき何やら話し声のようなものが聞こえてきた。
奏音と顔を見合わせ、その声の方向へ恐る恐る近づいていくと、とある一室の前に辿り着いた。
声は2人分聞こえてくるのだが、どちらも男性の声だ。
「ここがどこだか分からないんです。貴方もご存じないのですか?」
「知らん。気付いたらここにいた」
話の内容からして、ここにいるのは私たちと似た状況で間違えないだろう。
それなら協力してここがどこであるのか探すというのはどうだろうか。
この家、なかなかの大きさで一体何坪あるんだと言いたくなるほど広い。
それを私と奏音だけで探索するのはなかなか大変なので、ここは協力を仰ぎたい所だ。
「嘘……」
そう思いながら襖に耳を付けていた所、隣で中を覗き込んでいた奏音は口を両手で抑え、後ろに数歩下がった。
もしかして知り合いでも中にいたのだろうか。
それとも人外がいたとか、と思い私も中を覗き込もうとした所、奏音は小声で叫んだ。
「あれは北澤 謙一様と千智 秀祐様じゃないですかぁ?!」
北澤健一に千智秀祐?
聞いたことのない名前だ。
奏音の知り合いだろうか。
「ご友人ですの?」
「違う違う、『恋よ、咲き誇れ』の攻略対象キャラクターなの。 北澤謙一様は物腰柔らかくて真面目で面倒見の良いお兄ちゃんみたいな人で、千智秀祐様は一匹狼みたいな人で、懐かない頃は可愛げ全くないんだけど、懐いたときのあの激甘展開が素敵なの。きっとあれね、ツンデレね。最初はとにかくツンで、後半がデレのオンパレード、みたいな」
また知らない用語ばかり出てきた。
『キャラクター』や『ツンデレ』。
私と奏音は別の世界か何かから来たのだろうか。
「動いてるし喋ってる……感動的だわ」
目をキラキラと輝かせて見ている所悪いが、中の2人の雰囲気はあまりよろしくないように思える。
「でも、可笑しい。攻略対象ってあと3人いるはずなのに2人しかいないなんて」
『攻略対象』とは何なのか分からないが、他にもいるはずならこの家のどこかにいるのだろうか。
「あとどんな方々がいらっしゃるはずですの?」
「とにかく明るくて元気いっぱいな男の子とお堅そうな男の子と筋肉ムキムキのお兄さん! 因みに一番人気があるのは、この中にいる千智様。ツンデレがダントツで人気だったんだよねぇ。そういう私も好きなんだけど」
「そうなんですの……」
ダメだ、ついていけない。
とにかく今はここの中にいる2人とまず話してみた方が良さそうだ。
「その方々は後で探すとして、お2人と話してみませんこと?」
「賛成!」
そう言うなり、思いっきり襖を開けて奏音は言った。
「たのもおおおおお!」




