さいきょうのぶきいいかんじのえだ
一番美味しい酒は、一仕事終えギルドのレストランで仲間と飲む酒だと思う。
一応仕事上のパートナーである彼女と乾杯し、俺は一息に酒を飲み干した。
「くうーー!」
「そういえば」
酒には強いが、顔には出るタイプの彼女は頬を赤らめながら、俺にそう切り出した。
「前々から気になっていたんだけど、良い感じの枝のカリスマ、というあなたの二つ名はなんなの?」
「ぐはぁっ!げほっ!ごほっ!」
出来れば消え去って欲しい二つ名が出てきて、俺は飲んでいた酒を吹き出してしまう。
「だ、大丈夫?」
「ああ、少し鼻にはいっただけだ……」
布巾で、汚れてしまったテーブルを拭く。料理にも飛んでしまった気がするが、俺も彼女も今さら気にしない。
「二つ名の話だが……ぐはぁっ…………失礼」
「そ、そんなに話したくないなら、大丈夫よ?」
「いや、ちょっと致命傷なだけだから問題ない。由来は、俺の固有魔法だ」
「固有魔法?」
そう、俺たち人間がひとつだけ必ず持つ超常の力のことを固有魔法と呼ぶ。それぞれ、身体強化などの内燃系、武器や現象などを呼び出す具現系、未来予知や時間停止などの因果干渉系などがあるが、まあ魔術の知識なしでも使えるちょっと便利な個性みたいなものだ。
「そういえば、あなたの固有魔法は確か具現系って聞いたけど……って、まさか?」
「ああ、そういうことだ」
俺はうなずきながら、空間から引きずり出す。変哲もない枝だ。
「これが俺の固有魔法<グッド・スティック>だ」
自分の固有魔法名を呼ぶのも割と恥ずかしい。顔が熱い。
「えーと、要するに?」
察しの良い彼女は、あらかた理解したようでにやにやしながらそんなことを聞いてくる。
くっ、殺してくれ!
「良い感じの枝だ」
大爆笑された。
◇
ようやく涙を引っ込めた彼女は、しかしそれでもまだ納得できないようだ。
「あー、お腹いった。で、カリスマの方は?」
「……それも、やっぱり話さないといけないか?」
「まあまあ、話代に飲み物代は私が持つわよ」
まあ、それならと思い追加注文してから、俺は少し昔の思い出を彼女に語る。
「あー、五年前に大氾濫が起きたのを覚えているか?」
「覚えているわよ。私は王都で、ハッスルして城壁を破壊しかけたお爺様を止めるのに必死だったけど」
「なにやってんだ、あの大英雄」
割と世間にしられてはいけないことを、しってしまった気がするがそれはともかく。なんなら、こいつは確か当時その氾濫で1000体のモンスターを討伐して、グラディエーターの称号を得ていたはずなのだが。
「そんときに当然俺も、鎮圧に駆り出されてたんだが……」
当時あまりのモンスターの多さに俺たちの武器はボロボロになっていたのだ。手入れをする暇もなく、ついに全員の武器が役にたたなくなったときに、俺の良い感じの枝が大活躍したのだ。
「なんと、俺の良い感じの枝は、それなりの硬度で軽く、その本数も俺の魔力がつきるまでは増やし放題でな」
この時点で、彼女は机に突っ伏して大爆笑している。
想像したのだろう。歴戦の猛者達が、なんか良い感じの枝で、迫り来るモンスターと戦っている姿を。
「で、結局王都からの救援がきたときには、俺の枝をもって戦う冒険者達の姿があってだな」
「あー、わらいすぎてしにそう。もしかしてあなたの二つ名の由来って」
「どうも、俺が冒険者どもを統率していたように見えたらしくてな」
実際は、あの鬼畜ギルドマスターに、先陣を斬らされるは武器の量産もさせられるはの、雑兵も良いところの扱いだったのだが。
「……英雄とかじゃなくて……っひー、良い感じの枝!よっぽど……枝の、ひっく、印象が強かったのね……っ?、あー、しんど」
「や め て く れ」
彼女は笑いすぎで、俺はシンプルに黒歴史を思い出して、二人仲良くテーブルに突っ伏した。