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星に願いをかけるのはいいけれど〜リテイクお願いします!〜  作者: コーヒー牛乳


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9/30

良い出会い



「は?あれ?あ、昨日の……名前なんだっけ」


 急に私の腕を階段で引っ張り引き留めたくせに、戸惑った様子で私の名前を聞いて来るのは今回の夢の中の斗真だ。



 先輩から受け取った申込書を目の前で完成させ、登校する生徒が増えて来た頃に申請書を職員室に提出した。何となく、パンパンッと柏手をして拝んでおいた。何となく、ゲン担ぎだ。


 先輩との出会いは、きっと良い出会いだ。そんな気がする。


 勝手に先輩に懐き、自己満足の謝罪をぶちかまし、入部します!なんて、先輩からしてみたら私は迷惑な後輩で厄介な出会いかもしれないけど……


 職員室から出て、自分のクラスがある方へ向かうと後ろから来た誰かに腕を引かれ階段から落ちそうになったのだ。身体が後ろに傾き、スローモーションのようにゆっくりとした浮遊感のままポスンと誰かの腕の中に吸い込まれた。


 私はこの腕の中の感触、この匂いを知っていた。

 今朝、先輩と出会い新しい道へ一歩踏み出したかのような高揚感が、見知った切なさに塗り替えられていく。


『春子。好きだよ』


 そう言っていたのに。

 思わず腕で距離を取るように支えてくれた胸を押し返してしまった。

 いや、斗真が引っ張らなければよかったのだ。急に階段で引っ張るなんて!


「危ないじゃない!」

「は?あれ?あ、昨日の……名前なんだっけ」


 斗真は私の顔を見た瞬間に、驚いた様子でしどろもどろになってしまった。

 そうか。そう言えば名乗って無かったのかもしれない。


 ズキン、と先ほど感じた切なさに胸が痛んだ。


 『ごめん』と謝る斗真。

 姉のことが好きだった斗真。

 私は、あの時に思ったんだ。


 『全部、戻ればいいのに』

 斗真と出会う自分に。


 そうだ。


 斗真との思い出が辛いから、全部全部無くしたかったんだ。


 ───じゃあ、これもやり直せるんじゃない?


 この夢なんだか超常現象なんだかわからないけど、覚めない夢の中でなら斗真との関係をやり直せるんじゃない?何も無かった白紙の状態のまま関わらず過ごすのか、前よりも上手くやるのか。わからないけれど。


 どうしよう、と迷い口が動かないのに斗真は「ん?」と私の顔を覗き込んで来る。


 どうしよう


「おーい、ほっしのー!ホームルーム始まるぞー!」

「えっ、あっ?」


 階段の下から、あの自己紹介の時に盛り上げてくれた男子の声がした。

 その男子は軽やかに階段を駆け上がってくると、落ちていた私のカバンを持ち上げ見せてくれた。


「これ、星野のカバンだろ?ほら、行くぞ」

「えっ、え、あ、うん」


 手を引かれ、戸惑う斗真を後ろに置いてけぼりにする。

 階段を昇りながら、この男子の名前をやっと思い出した。


「あの……遠藤君、カバンありがとう重いでしょ」


 なんせ、本日の教科書からノートまで全て入っている。

 遠藤君は私と同じような大きさのカバンを二つ片方の肩で持ち、私の手を引いているのだ。


 遠藤君は歩調を緩めると、私をチラッと見てまた前を向いてしまった。


「平気。星野は大丈夫なのか?なんか……困ってただろ」


 どうやらカバンを返してくれるつもりは無いらしい。


 カバンを教室まで持って行ってくれるのか……? 力持ちな上に困っていたクラスメイトを助けてくれたのか!昨日も思ったけど、遠藤君はやっぱりイイヤツ。


 もし自分が遠藤君の立場だったら、困っているクラスメイトを助けようなんて二日目で思えただろうか?いいや、私はオドオド陰で挙動不審になって出てこないタイプの人間だ。そしてことが終わってから「大丈夫?」と声をかけて「見てたなら助けてよ」と怒られるまでがセットだ。


「あぁ……いやぁ……」


 確かに困っていたけど、困っていましたってハッキリ言ったら斗真が不審人物扱いされちゃうんじゃないだろうか。どう答えたものかと視線をウロウロさせると察しの良い遠藤君は眉をきゅいっと下げた。


「ごめん、余計なお世話だったか」


 遠藤君はパッと掴んでいた私の手首を離すと、今度は狼狽えだした。


「あ、違うの!助かったよ。ありがとう」

「……おう」


 暫く無言で横並びで教室を目指した。

 5年前、遠藤君とこんなに話したり横並びで教室まで歩いたりした記憶はない。遠藤君がこんなにイイヤツだなんて、知らなかったなぁ。


「あの、星野さ、昨日と……雰囲気違うな」

「あぁ……高校デビュー、ってやつかな」


 新しい話題を提供して会話の間まで気を配る遠藤君。さすがだ。見習いたい。


「二日目から?」

「そう。ビフォアから見せて行くパターン」

「そんな変わってねえけど」

「うそ!!」


 えーっ!と笑ながら遠藤君の方を見ると、遠藤君と目が合った。

 いつからこっちを見ていたんだ。


「星野は……昨日から可愛かったよ」


 そう言ってプイッと遠藤君は先に歩いて行ってしまった。

 どんな顔をして言ったのかは見えなかったけど

 遠藤君の短い髪から覗く耳は、真っ赤だった。


 え、遠藤君ってこんなキャラだったのか……



 ……ところで、私のカバンはどこに?



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