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見つけてくれるって言ったのに

 始まりがあれば終わりがある。

 そんなことはわかっていた。わかっていた、つもりだった。


 斗真と出会ったのは高校の入学式だった。体育館の前で真新しい同じ制服を着て、そわそわと浮足立つ空気の同じ年の集団の中で、斗真だけは輝いて見えた。


 何の偶然なのか幸運なのか、その輝いて見えた人物は隣のクラスの列に並んでいた。整列した時に丁度隣に並ぶことになったのだ。


 しかし、私の幸運はこれで終わらなかった。整列後少しして、斗真から話しかけてもらえたのだから。


「コサージュ、落ちたよ」


 差し出されたのは、在校生から新入学生に贈られた『ご入学おめでとう』とゴジック文字がプリントされたリボンの付いたピンクの花のコサージュ。在校生の手で胸につけられるのが恥ずかしいやら気まずいやらで、自分で付けると断り受け取ったものを拾ってくれたのだ。


 この出来事が話すきっかけになった。


 私は同じ制服を着て同い年の集団の中から斗真を見つけた時にはもう、斗真のことを特別だと思っていたし、たぶん好きになっていた。


 その入学式の日から何かと話すようになって、どんどん斗真のことが好きになった。



 この高校には私の姉も通っている。姉が同じ学校に通っていると、先生も先輩も優しくしてくれる。テストの過去問も手に入るし、先生の設問の癖や授業のコツなんかも知ることが出来た。


 その日も姉と姉の友達数人と通りすがりに会い、楽しい話に混ぜてもらった。

 廊下の反対側から斗真が近づいてきたことに気付き、姉と先輩方に挨拶をしてから斗真の方へ駆け寄った。


 いつもはまっすぐと私を見るのに、斗真の視線は去っていく姉の後姿に向けられていた。


「あの人、春子の友達?」

「ううん、お姉ちゃんなの。似てないでしょ」

 

 つい自嘲気味に言ってしまった。

 何もおもしろくないのに、気にしてませんという風にヘラヘラと笑ってしまうのだ。

 自分のそういう部分から目を逸らすように、自然とうつむいてしまう。


「いや……似てると思うけど。結構」


 慌てたようにフォローする斗真に気付き、何ともいたたまれなくなる。

 こんなめんどくさいことを言って困らせて、本当に私ったら可愛くない。 


「そう?ふふ、嬉しいかも。自慢のお姉ちゃんなんだ」

「名前なんていうの?」


 もう慣れた流れに、準備してあった答えを返す。


「あー、お姉ちゃんの名前はユキ。彼氏なし。好きなタイプは大人っぽい人。年上が好きなんじゃないかな」

「ふーん」


 お姉ちゃんより年下には、年上が好み

 お姉ちゃんより年上には、年下が好み、と言っている。


 昔からそう答えるようにしている。頭で考えて話していない。はずだ。

 斗真に意地悪をしているつもりでは無いのに、変に罪悪感を感じてしまう。


 斗真の反応が気になってしまい、チラチラと様子を伺ってしまう。


「ユキに春、ね。わかりやすい名付けだなぁ」


 姉の好みのタイプには触れずに、斗真は名前について触れて来た。本当に名前だけ知りたかったの?


「あはは、やっぱり?斗真は”北斗七星”とか?」

「正解」


「やっぱり!じゃあ、北斗七星は、春の星座の目印って知ってる?」


 つい、斗真の名前を知ってから考えていたことが口から出てしまった。

 斗真の名前と自分の名前の共通点を探して楽しんでいたなんて知られて、引かれたらどうしよう。


「ふーん。じゃあ、春子の目印は俺だな」


 私の心配をよそに斗真は私の顔を覗き込み、いたずらっぽくそう言うとニカッと笑った。


「なにそれ。私一人じゃ目立たなくてわからないって言いたいの?」

 

 急に顔を覗き込まれ、赤くなってしまった顔を誤魔化すように喧嘩腰で言い返してしまう。


「あれ?春子が見えないな?」


 斗真は折っていた腰を伸ばし、長身をまっすぐ伸ばすとわざとらしくあたりを見回した。

 斗真は背が高いので、普通にしていたら私のつむじしか目に入らないだろう。


 いや、つむじを見るほど近くにいないかもしれない。


「もう! ここにずっといます!」

「はは、ここにいたのか」

「どうせ私はその他大勢に混ざって見えなくなりますよ」

「小さいもんな」

「まだ成長期なので。今後に期待してます」


 姉はモデルのように背も高くスラリとしているのに、私は祖母に似たのか背が低く、体型もなんだかボンヤリしている。成長でどうにかなるものなのだろうか。


「小さくても、大きくても、俺は春子がどこにいても見つけられる自信があるよ」


 さっきまではふざけていた斗真の声が、今度はほんの少し真面目で温かい声になった。


「どんな自信よ」

「本当だって。入学式でも、春子がパッと目に入って来たし」

「またまた」

「本当」


 斗真の真剣な声につられて、ゆっくりと視線を上げた。

 斗真はまっすぐ、私を見ていた。

 

「……ふふ。嬉しいかも。実はね、私のお姉ちゃん、可愛いでしょう?昔から可愛いの。私と違って、産まれた時から可愛いの。それに頭も良いし、運動神経も良いし、性格が悪くなきゃバランスが取れないはずなのに、性格まで良いの」


 斗真の目に見つめられ、つい話す予定じゃなかったことまで漏らしてしまう。


「ユキちゃんに比べて春子ちゃんは目立たない、大人しい子ね。ってよく言われた。お父さんお母さんにも、『春子はよく迷子になって探すのが大変』って言われたの。目立たないから、迷子になっても見つけてもらうまでが大変なの。だから、斗真に見つけてもらえるなら嬉しいな」


 そう言った私に、斗真は『任せておけ』って言ったの。覚えてる?


 

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