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今更


「───春子、ごめん。別れよう」


 急いでハンドバックの中からスマホを取り出し日付を確認する。


「春子?」


 日付はやっぱり、あの斗真に別れを告げられた日だった。

 なんで?あれは?先輩のことは夢だったの?


「春子、聞いてるか?」


 斗真に肩に触れられ、咄嗟に右手で弾いてしまった。


「あっ……ごめん。驚いちゃって……」

「あ、いや……こっちこそ……ごめん」


 弾かれた行き場のない手を遊ばせる斗真になんとなく罪悪感がこみ上げてきて、ついフォローしてしまう。

 弾いたのは驚いたからじゃない。触られたくなかったからだ。


 私は斗真に触られたくないと思っているんだ。


「それで、別れるんだよね。わかった」


 別れ話は二回目だからか、受け入れる準備は出来ている。

 不思議と心が凪いでいた。


 一回目はみっともなく泣いたり縋ったり……

 斗真に色々と言っちゃったけど、今ならさっぱり別れられる気がする。


 まだ応援する気持ちにはなっていないけど、私と斗真には必要な別れなんだろう。


「えっ」

「え?」


 え?

 いやいや、えってなに?


 しんみりした、でも今回は爽やかな別れになるだろうと思っていたのに。え?とは、なんの『え?』だろうか。

 斗真は形の良い眉を寄せ、寂しそうな顔をしている。


「……いや、随分……あっさりしてるなって……」

「あっさりしてたら困るの?」


 もしかして、もっと引き留められると思っていたのだろうか。

 でも、前回は精一杯引き留めたんだけど。斗真は結局、『ごめん』しか言わなかったんだよ?


「いや……。俺が言うのもなんだけど……結構長く付き合ってたから……」


 そう。斗真とは姉が卒業してしばらくしてから一気に仲が縮まったのだ。

 私の猛プッシュで。


 そりゃあ、私からの猛プッシュで始まった関係が終わるっていうのに

 こんなにあっさりした反応だったら……寂しい……のか?


 でも、別れを切り出しているのは斗真の方だし……?


「そうだよね……高2からだから結構長く……」

「いや、1年の時からだから」

「え?」

「え、まさか忘れたとかある?」


 微妙な空気が流れる。


「まぁ、春子は最初俺のこと嫌ってたもんな」


 私が斗真のことを嫌って……?

 いや、斗真のことを避けたのは二回目の方で……


「俺は春子のこと、最初から好きだったんだけど」


 弾かれるように斗真の顔を見返した。

 斗真の顔には嘘をついている様子はない。


 あの、この間見た入学式の時の斗真の表情だ。


「何を今さら……」


 触られたくないと思っていたはずなのに


「そうだな。今更、だな」


 寂し気な顔をする斗真の顔を見ていたら、ギュッと心臓を掴まれたように切なくなる。


「……理由は」


 今度は私から斗真に触れそうになった。


「別れる理由」


 その手を押さえるように、ハンドバックの持ち手を強く握る。その私の指には、あの指輪がついていなかった。


「……理由は……俺のせい」

「斗真の?」


 斗真はそのまま口を閉じたままだ。それ以上話すつもりはないらしい。


「お姉ちゃんと付き合うの?」

「ユキとは……」


 あぁ、ユキって呼ぶんだね


「もう、いいや。お姉ちゃんとお幸せにね」


 長く付き合った割に、納得のいかない別れだけど。片方が別れたいというなら、別れなくてはならないのだ。

 もう、私たちは、終わったのだ。


 お姉ちゃんがどうこうではない。

 二人が、そこまでだったのだ。


「あ、おい」


 話は終わったとばかりにベンチから立ち上がると、斗真に手首を掴まれてしまった。


「何」


 思ったより鋭い声が出てしまう。

 斗真の指が、腕時計を撫でる。


 その腕時計は斗真から卒業プレゼントにもらったものだ。腕時計は着けているのに、指輪はどこに行ったんだろう。

 斗真は切なそうに腕時計を見た後、手首を握る手の力をほんの少し緩めた。


「春子は……ユキに相談したんだよな」

「相談?まさか、連絡とってないよ。何年もね」


 私の記憶では、姉の卒業後からほとんど連絡をとっていない。

 母はお姉ちゃんと小まめにやり取りしてるんだろうけど……


「は?」


 斗真の手から更に力が抜けたので、そのまま腕を引き抜き帰らせてもらうことにした。


「じゃあ、斗真の部屋にある荷物は捨ててくれていいから」

「春子!ちょっと待って、話が」

「もう話しかけてこないで!追って来たらそれこそお姉ちゃんに言うからね!」


 キッと睨むと、斗真は固まったまま立ち止まった。

 それを尻目に、公園から飛び出て久しぶりの独り暮らしの部屋へ走るように逃げ戻った。



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