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傷つかないように防御する


「先輩。今日は放課後に用事があるので部室に来ませんが、寂しくて泣いちゃいませんか?大丈夫ですか?」

「全然、大丈夫」


 朝も先輩は勉強中だ。先輩は自宅学習で東大に行く側の人間なのかもしれない。


「ちなみにホームセンターに行くんです」

「聞いてないけど」


 そちら側の住人はやはり、そんな庶民が行くような場所にいかないのだろうか。

 いや、こんな遠まわしな誘い方では感知できないのではないか?まさか。


「……やっぱり先輩も一緒に」

「行かないよ」


 誘い方の問題ではなかったようだ。


「デスヨネー」


 そんな会話を朝しましたよ。ええ。

 やっぱり先輩に来てもらえばよかった……と、私はホームセンターの近くの公園のベンチで絶望を感じていた。


 奇しくもこの公園のベンチは因縁のベンチ。

 ここに座っているだけで、この絶望と相まって悲しみが……いや、もう悲しみを通り越して怒りだ。


 絶望の向こうには怒りがありましたよ先輩!!


 なぜここで絶望と怒りにまみれているかというと、今日はホームセンターで姿見を買ったのだ。あと部屋の鍵。

 昨日、帰ってきたら机の上にお小遣いと生活費が置かれていた。


 たぶん母が置いたのだと思うけど、不在時に部屋に入られるのがとても居心地悪かった。

 そういえば、前回の私も2年生になった頃に部屋のドアに鍵をつけていたのを思い出した。


 なので、ありがたく。お小遣いをもらう身分だけれど、そのお金を使って姿見と鍵を購入することにした。


 ……したのだが。


 姿見を持って電車移動して家まで帰る道のりを頭に思い描いて絶望しているのだ。

 なぜ買う前に考えなかったのか。配送を手配しようと考えていたけど、なんだか配送じゃいけない気がしたのだ。野生の勘だ。


「はぁ……勘なんていいから、やっぱり配送にしてもらおう」

「それ、運ぶの?」


 また、頭上から斗真の声が聞こえた。

 勢いよく振り返ると、やっぱり斗真が立っていた。


「それ、運ぼうか?」


 想定していない登場に驚いて返事がない私に確認するように、もう一度同じ質問をされた。


「……いや、大丈夫」

「でも、配送にするんでしょ?俺、これから暇だし持っていくよ。どこまで?」


 姿見をヒョイと持ち上げると、さぁ行くぞ!と冒険に旅立つ勇者のようにこちらに振り向いた。


「いや、南駅だから距離あるよ」

「なら尚更持っていくよ」


 私の姿見を人質に斗真はズンズンと駅の方へ歩いて行ってしまう。

 困っていたのは事実なので、申し出と優しさはありがたいけど……あ!斗真に家バレちゃうじゃん!


 いや、別にいいのか……?家がバレるぐらい……いい……のか……?


 無言で歩く人質(姿見)を抱えた勇者を私の家の家へ案内する。駅から離れ、もうあと少しで家というところで斗真が口を開いた。


「ホシノに……俺、何かしたかな」

「んえ?なに?」


 歩幅の広い斗真に追いつくため小走りになっていたが、次第に斗真がゆっくりと歩き始めた。やっと私もそれにあわせて普通に歩けるようになった。


「いや、ホシノに何か避けられてるような気がして……るんだけど、正直、自分が何かしたか思い当たらなくて……」

「あぁ……」


 申し訳なさそうに話す斗真の横顔を見上げ、そりゃそうだろうな……と自分でも思う。

 私にとんでもなく失礼なことをしたのはタイムリープ前の斗真だ。今の斗真はやらかす前なので、無実なのだ。


「……いや、私こそごめんね。斗……浅田君が何かした訳じゃなくて。昔好きだった人に浅田君がとっても似てて、それで嫌なことを思い出しちゃって……それで避けていました。ごめんなさい」

「そんなに似てる?」

「似てる。激似。今も正直ムカつきすぎて吐きそ……あ!!ごめん!!!」


 気が緩んできてるのか、とんでもないことまで口走ってしまった。

 秒速で口を抑え、謝ると斗真は弾けるように笑い出した。


 その顔、久しぶりに見たな。


「ははは!ホシノってそういう感じなんだな」

「……八つ当たりだね。ごめん」


 いつの間にか家の前についていた。

 表札の『星野』を見つけたらしく、斗真はその前で立ち止まった。


「ちなみに、そんなに嫌な奴だったの?」


 少し心配そうに私の顔を覗き込む仕草に気づくと、胸が引き攣れるからやめてほしい。

 斗真から顔を逸らし、引き攣れる感覚を受けながら私の知っている斗真を思い出す。


「……優しくて、かっこよくて、輝いてて、少女漫画のヒーローみたいな人」


 私に笑いかける顔。手を繋いだ時の手の温もり。全てが輝いていた。


「今のところイイヤツじゃん」

「でも、私のお姉ちゃんが好きだったの。私と付き合ってたのに」


 斗真の体が固まった気配がした。

 たっぷり時間を置いたあと、斗真のうなる声が上から聞こえた。


「……それは」

「あれぇ~春子、珍しいねぇ~!今日は帰ってくるの早いんだねぇ!」


 その変な空気を壊したのは、お姉ちゃんだった。


 私に腕を絡め、頬を寄せる。

 甘い香水のにおいがした。


 私に頬を寄せたまま、"今気づきましたよ"というような雰囲気で斗真の方を向く。


「あれぇ~?何君?あっ、わかった!春子の彼氏でしょぉ~!」

「違うから」


 姉に攻撃されまいと、攻撃されても平気なように心に蓋をする。

 そんな私のことを、斗真はもう見ていなかった。


 斗真は驚いたように姉の顔をまじまじと見ていた。


「……一年の浅田です。ユキ姉……だよね」


 心臓が止まるかと思った。


「あ、そっか、お姉ちゃんと知り合いだったんだ」

「いや、あの、兄貴の……」


「ごめん。浅田君、運んでくれてありがとう。助かった。じゃあ、後は二人で話して」


 斗真から姿見の入ったダンボールを奪い取り、家の中に入る。

 靴もそろえず、自分の部屋に滑り込んだ。


 姿見が結構な音を立てて床に倒れたけど、中身は無事だろうか。

 あぁ、そんなことどうでもいい。


 斗真は、前からお姉ちゃんのことを知ってたんだ。

 私が紹介する前から知ってたんだ。


 制服を乱暴に脱ぎ、ベットの上に倒れこむ。


 お姉ちゃんに向ける、斗真の目を頭から追い出すように目をきつく閉じた。


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