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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十三章 後夜祭編
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97.繰り返す

 家に帰って、今までのことを思い出しながら考える。

 俺はこれしか出来ないから。

 だからそれを全力でやる。

 眠気はなかった、藤澤(ふじさわ)との将棋で目は冴え渡っていた。


 初めて会った時………彼女は告白を手伝ってくれと言っていた。

 いや、更にその前………この扶助部の顧問が菊瀬(きくせ)先生だという事さえ知らなかった。

『……?…ここの顧問って菊瀬先生だったんだ』

 つまり先生に頼んだんじゃない。

 どこかから聞いてここに来たんだ。

 まだあの時は扶助部は全然活動していなくて、この部活の存在を知っている人は少ない。

 つまり俺が依頼を受けた人の中から聞いた可能性が高いだろう。

 えっと、どこだっけな……誰が頼んできたんだっけ……。

 放送委員と、園芸部と…………男子バスケ部………か?


 バスケ部で活動中に扶助部の名前を聞いたと仮定して……。

 そして扶助部に告白のセッティングを頼み、それが失敗に終わって扶助部の部室に住み着いた。

 今では部員ということに………部員?

 そういやあの時なんて言ってたっけ…………。

『それにあの部室、居心地良かったし!だから居させて!』

 ……初めて櫛芭(くしは)と会った時、仲良くなろうと必死で。

 逆説的に考えると前に居た場所は居心地が悪いことになるんじゃないか?

『一緒に帰ろっ!』

 って………。

 いやそれだと、同じバスケ部の人たちが一緒に帰ろうなんて誘ってくるか?

 四人、彼女ら以外は見たことがない。

 俺の記憶がそう断じている。

 そしたらどうして……?


 ……………明日、バスケ部の様子を見てみるか。


 次の日の放課後、櫛芭に扶助部を託しバスケ部の活動を見に行く。

「櫛芭、悪いな。でもこんなことお前にしか頼めなくて……」

「いいわよ、行ってきて。ちゃんと待ってるから」

 席を立って、スマホを片手に部室を出る。

「何かあったら連絡して欲しい、いつでも飛んでくるから」

「……置いていけば?集中できないでしょう?」

 スマホ置いてけって、こいつ本当に今どきのJKか?

 この子はいつもこう突拍子もない事を……。

『…………かわいい?』

 俺からしたら櫛芭の方が……って何考えてんだ今そういうやつじゃないだろ。

「まぁそのくらいの気持ちで行くよ」

 気持ちだけ受け取っておくよ、的な。

「あと………いや、なんでもない」

 久米(くめ)は扶助部には戻ってこないかもしれない、とは言えなかった。

 俺の言葉で不思議そうな表情に変わった櫛芭を見て、言う気さえ起こさなければと後悔の念に駆られる。

 適当な時間で帰っていいからと、それだけ言い残して扉を閉めた。


 体育館に着くとバスケ部はすでに練習を始めていて、男女で半分に分けて使用していた。

 さすがに女子が活動している方にいるのはまずい気がして、男子の方にふらーっと歩いて近づいていく。

 すっげー不審者。

「ん?あ、雨芽(うめ)くんか。ちょっとびっくりした」

 ひえぇ…ごめんなさいごめんなさい申し訳ございません。

「悪いな田中(たなか)……ほんとこんな突然来たりして」

 この前は田中と会ったのは体育館の外だし、練習を始める前だったから心の余裕があったのだろう。

 練習が始まり集中してるところにこんな場にそぐわない自宅ディフェンダー日本代表みたいな奴が現れたらそりゃ当然ビビりますわ。

「何か用?創(そう)呼ぶか?」

「いや、まぁあれだ。ちょっと活動を見学したくなってだな」

 なんだこの理由。

 無策で凸ってしまった。

 山内(やまうち)の方はと言うと…なんだかんだ後で話聞く事になりそうだけど。

 あとあいつモテたいモテたいとか言ってるくせにやっぱり普通に上手いのな、なんか羨ましい。


「まぁ、好きなだけ見て行ってよ。その方が気合い入るし」

 田中は爽やかに笑ってそう言う。

一年生の何人かが俺に気づいてしばしばこちらに目をやっているのは、うん。

 気合いは入るけど集中はできないみたいですね……。

「あ、そうそう。文化祭の劇すごく良かった!バスケ部集めて見に行ったんだよ」

「あぁ…あれ見たの。うんまぁありがとう」

「というか後夜祭のPVめっちゃ良いじゃん!?俺感動したよ!」

「あ、それも見た?まぁ見るよなぁありがとう」

 バシバシ背中を叩いてなんだか体育会系のノリになってくる田中。

 この体育館というフィールド魔法がそうさせるのか、即刻破壊するべきだな。

 いやうんまぁ我慢できますけどこれくらいなら。


 そういやこいつにはPV作るって話したんだっけ。

 テンション低くてごめんな?

「何が半分寝るだよー!雨芽くん面白くて好きだわー!」

 おいやめろ、そんなこと言ったらあいつ来るだろ。

 来てないよな?

 来て………なさそうだよかったぁ…。

 サッカー部よ奴を拘束し続けてくれ。

「田中先輩!アップ終わりました!」

「おし。じゃあ2メンから。水曜はコート半分だからいつも通り二年終わった後一年生やる感じで」

「はい!」

「じゃあまぁゆっくりしていってよ。あれからもっと上手くなってるから」

 田中……かっけぇ…。

『今年の一年は上手いやつが多くてな………。上手くまとめられないこと、あまり人に知られたくて…』

 なんかジーンとしてきた……。


 報告に来た一年生の後ろにぞろぞろと他の一年も着いてきて、俺の周りに人だかりができてきた。

 女子バスケ部の様子を見たいんだけど、なかなかチャンスが巡ってこない。

 そもそもが無謀だった説あるな……。

 二年生がコートを使って練習を始める。

 という事はここにいるのが全員一年生って事になるが、やっぱ多いな部員数。

 陽悟(ひご)と歩いてた時に出会った一年生はほんの一部だ、文化祭準備中だしな。

 人数も多いし上手い奴もいるんならまとめるのもそりゃ大変………。

 ……待てよ、そういえば菊瀬(きくせ)先生がたしか合唱祭の時に。

「久しぶりです雨芽先輩!」

 雨芽先輩雨芽先輩と、うわみんな見てこれ後輩良い良い良いーー!!!

 可愛すぎて考えてた事吹っ飛んじゃったよー!

「久しぶり。みんな練習頑張ってて偉いね」

 落ち着け俺、後輩たちからの尊敬の眼差しを踏み躙るような事はするな。

「ありがとうございます!雨芽先輩にそう言ってもらえるとすごく嬉しいです!」

 ぐぁぁっ魂が浄化されるっ!

 よくこんないい子に育ったものだ……。

 バスケ部の未来は安泰だな。

「僕たち雨芽先輩のクラスの劇見ましたよ!ダンスの所感動しました!」

 いやぁありがとうありがとう。

「凄かったです!どれだけ練習したんですか?」

「ダンス習ってるんですか?めちゃ上手かったっす!」

「舞台上で何か話してたように見えたんですけど何て言ってたんですか?」

 おっとー?

「相手久米先輩でしたよね!俺も久米先輩の口動いてるように見えました!」

「セリフじゃないですよね!めっちゃ気になるんで教えてくださいよ!」

「僕たちだけの秘密にするんで!絶対です絶対!」

 迂闊だった………。


 話は舞台袖で終わらせておくべきだったなこれは。

 まぁ場の雰囲気で引き出せた言葉もあるだろうし、一概に悪い点ばかりでは無いが……こりゃ色々噂を立てられてそうだ。

「はい次一年の番。話は終わりな」

 山内(やまうち)……助かった。

 はーい山内先輩、と一年生は従って先ほどと同じようにぞろぞろ歩いて行く。

 九死に一生を得るってやつだ。

「会話聞こえてた?」

「まぁ俺も舞台上で何話してたか気になるっちゃ気になるけど」

 聞こえてましたか………。

 山内も久米とは色々あるわけだし、その後にあんな事が起こればまぁ色々と……。

「あー……。まぁ色々、俺が情けないって話かな」

 めちゃくちゃ雑に要約するとね。

 今こうして問題を引きずってるわけですし。

「そりゃあ……うん。そこに行き着くまでに色々ありそうだけど。ま、言わなくていいよ」

 色々察してくれた。

 あと色々色々言い過ぎな。

 色々色とりどりな彩り、なんちゃって早口言葉。


「…なぁ、ここに来たのって久米さんのため?」

 少し間を置いて、山内はそう聞いてきた。

 分かるか、そうだよなそれしかないよな。

 俺が今ここに来る理由なんて。

「………あぁ……まぁ」

 そう言って目を泳がせながら女子バスケ部の方を視界に入れる。

「俺のせい………か?」

「いや、多分違う………。もっと、別の何かが」

 正確にはあれはきっかけだろう。

 いずれ何かしらにしろ久米はこうなる運命だった。

 通るべき道、そんな答えが出来つつある。

 正しいかはまだ分からない劇の時の会話……俺があの時とはまた違う答えを見出すなら…。

「何か……」

 山内も俺と一緒に女子バスケ部の方を眺め始める。

 あんまり長く見ると怪しまれそうだし一度視界に収めて、大体を記憶する。


 連携がうまく取れている。

 無駄が少なく、呼吸もあっている。

 文化祭の一日目に見た練習の様子とそう取り上げるような差はない。

「ダメだ。俺にはさっぱり。出る幕は無さそうって感じ」

「……バスケ部の様子とか聞けて、結構助けになってるから。そんな事言うなって」

 山内は好意の他に助けたいっていう思いがあったから、遠慮せずたくさん話してくれたんだろう。

 根底にあるのは、こいつはいつだって久米を思い遣っていて……。


 もしかして。

「ど、どうした?雨芽くん」

 急に顔を上げてもう一度女子バスケ部の方を見た事に驚いたのだろう山内が声をかける。

 四つ………同じ………あとは……つけてない……。

 コートを動き回る部員一人一人を目に捉える。

 見ているのは腕……いや、手首。

「なぁ、山内。女子バスケ部の二年生って何人だ」

「え?あ、あぁ。今は四人…って言い方になんのかな」

 以前確認した通り顔も同じ、間違いない。

 四人以外が現れないのは分かりやす過ぎるほど単純な理由。

 彼女ら以外に存在しないからだ。

「あのお揃いにしてるのっていつからか知ってるか?」

「お揃い?何の事?どれ?」

 これは……誰にも言っていない、そうか。

 そういうことなら……。

「いや、俺の気のせいだったかも」

「そう?」

 うーん、と山内はあまり納得してなさそうだった。

 そのままそこに残して帰るのは悪い気がするが、今は一人で考えをまとめたかった。

『今年の一年生はどこも優秀な奴が多くてな。櫛芭のところだけじゃないんだ』

 結びついたのは偶然。

 だけど同じ高校の中で起きている話だ。

 両立し得る。


 扶助部に来た理由……か。

 ようやく、ようやくだ。

 かなり待たせてしまったが、久米。

 お前がその気なら……俺も全て暴かせてもらう。

 俺が出す答えを、待っているんだろう?

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