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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十三章 後夜祭編
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93.陽はまた昇り

 文化祭が終わり、振替休日の月曜を挟んで学校に登校する。

 いつも通りの憂鬱そうな周りを歩く生徒の表情。

 今日は陽悟(ひご)と登校中会う事はなかった。

 そういう日もある、特筆すべき事がないだけでこれまでに何度も。

 だから変わらず歩みを進める。

 人の流れの中で、逆らわず流されるまま昇降口。

 もはや靴を履き替えるという動作に思考を割くことがないほど手慣れた動きで下駄箱地帯を抜ける。

 同時間に競合少なくて助かる、遅刻かも。

 D組に向かって廊下を歩き階段を登る。

 開いているドアから聞き慣れた騒がしい話し声。

 どこのクラスも熱を冷ますには休日がまだ全然足りてないみたいだった。

 D組に入るとそのタイミングでチャイムが鳴る。

 いつもなら席に着いて一人孤独との戦いに身を投じる時間が程々にあるのだが……向かい風が強かったんだなきっとそうだ。


 希西(けにし)先生が教室に入ってきて、なんだか随分と久しく感じる朝の恒例の挨拶をする。

 この後には朝礼もあるからなかなか記憶にいい刺激が入りそうだ、具体的な効用は知らんけど。


 この後も聞くであろう定期テストの話。

 反応は想像の通り最悪に近い。

 が、この高校の生徒ならそれを割り切って勉強が出来るのだろう。

 テスト期間に入れば皆黙って勉強を始める。

 特に下位にいる人の赤点回避能力には目を見張るものがある。

 今のところ退学者は一人も出ていないし、これと言った不真面目な生徒の噂も無い。

 最低限の勉強法、是非手ほどきしてもらいたい。

 とか言ってまぁ俺も勉強に関しては現状不満は無いけどさ。


 そして特に何もなく一日の始まりを終えて授業を受け、昼休みは空いている教室に移動し昼食を食べてやがて放課後になる……かと思われたが。

 浅間(あさま)だ……。

 昼ごはんって言うか軽食だがメロンパンを食べ終えてやる事も思いつかず他に誰もいない教室から出ようとした時、扉の窓から浅間の姿が見えた。

 机に置いてあるレモンティーを床に置き直して、音を立てないように少しだけ屈む。

 教室を通り過ぎた後、気づかれないように静かに扉を開き顔だけ覗かせ浅間の後ろ姿を見ると誰かが一緒にいる。

 隣にいるのは…菊瀬(きくせ)先生か……二人で何を?

 耳を澄ますと話し声が……とそんな都合のいいことは起きなかった。

 俺の聴力は人並みなのだ、悪しからず。

 浅間が手に持っている物がふと目に入る。

 あれって俺が文化祭の時に使ってたカメラ……?

 偶然……それに学校の備品とかなら同じ機種が何機かあってもおかしくないか。

 俺が使ってたやつってのも些か早慶だな。


 ぽつぽつと小さく口を開いて話す浅間は、ここからだと何を言っているのか分からないがなんだか不満そうに見えた。

 諭すように肩に手を置き、それから一言二言言葉を交わした後に菊瀬先生は浅間を置いて歩いて行ってしまった。

 菊瀬先生とすれ違うように小瀬(おせ)がやって来て、随分と面倒くさそうな顔をしている。

 手には学校でよく見る何らかの宣伝の為に使われるポスターサイズの紙を丸めて持っている。

 生徒会選挙はまだ先だし、何か催し物だろうか。

 文化祭が終わったばかりだというのに忙しないやっちゃなぁ。

「本当にそっちは一人でいいの?これさぁ今からでも中止しちゃってさぁ」

 小瀬声でかいな。

「……まぁ、それならいいけど。今カメラ必要?」

 不思議そうな顔を近づけてすぐに手で押し除けられて、小瀬は愉快そうに笑う。

 それとは逆に浅間は更に顔を顰める。

「なんならさ、助けてもらおうよ。どうせなんとかしてくれるって」

 ………あのカメラって…やっぱ俺の…。

「……え?今はそれどころじゃない……ってどういうこと?」

 何を言って……いや、何を知ってるんだ……?


 やがて放課後になった。

 誰よりも早く教室を出た。

 部室に移動する最中何人か三年生がとすれ違い、名前は分からないが顔は分かるという状態だった。

 話しかける事も話しかけられる事もなかったが、自分が文化祭で関わった様々な人の事を考える契機になりそうだった。

 目安箱には今日も鍵のみ入っていて、この箱に依頼が入ることは果たしてこれからあるのだろうか。


 扶助部の部室の扉を開くと中には誰もいない、今日も俺が一番早く着いたらしい。

 文化祭の日は…あの日は一度もこの部室には来なかった。

 だから誰が来ていたかなんて事は分からない。

 誰かが来ていたら………。

 ………菊瀬先生に聞いたら分かるかもしれないが、何故かそれを聞くのはずるい気がして出来ずにいる。


 部室の一番窓側にある席に座り、入ってきた扉を見つめながら深く息をする。

 冷水をぶっかけられたかのような感覚だ。

 浅間が何を以て言ったのか……はたまたそもそも俺を指して言っていたのかは定かではないが、それでも少なからずショックを受けた。

 やるべき事は分かっている。

 櫛芭(くしは)との約束を違えるわけにはいかない。

 それを分かってはいるが……。


 不意に扉がノックされ開かれた。

 やって来たのは櫛芭だった。

「こんにちは」

「おう」

 まぁ…いつも通りか。

 時計を見ながらそんな無意味な事を呟きそうになる。

 扉をゆっくりと閉めて櫛芭は席につき教材を広げ始める。

 意識などは無いだろうが、来た人から奥から座るようになっているから二番目と三番目は日によって順番が変わっている。

 そしてまだ、来ていないのは………。

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