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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十二章 文化祭編二日目
94/106

92.未だ知らない

 このまま行ったら好きになっちゃうのかなー、なんて。


 そんな未来を想像する。

 ないないと首を振ってみても、その否定はあまりに心地よくない。

 そしてどんどん、好きになっちゃうのかなが好きになってもいいなになって。

 その変化を受け入れる方が何故かしっくりきてしまう。

 考えれば考えるほど蟻地獄のように深く深く好きという感情に本気で向き合おうとしてしまっている。


 本気になるのは怖い。

 その本気が通じない時、私を支える物が無くなってしまうから。

 注いだ全ての気力が、無惨な吐瀉物のようになってしまう事を恐れている。

 自分が紡ぐ言葉に自信が持てない。

 自分が作る笑顔に自信が持てない。

 だから試すように言葉を引き出し、自分と相手の間で見解を擦り合わせる。

 保険塗れの選択肢を選び続け、今日までそれっぽい楽しい人生を歩んできた。

 それなりで良かった、それ相応をいつも探していた。


 冒険してみたくなったのは、やっぱり高校に入って……あの日が境になる。

 些細な……そこまで些細じゃないかも。

 そんなきっかけだけど、今ここにいる理由でもある生徒会副会長という役職に飛び込んでみたからだろう。

 未来の成果に大見得を切ったり、自信過剰と言われるような事を望んでみたり。

 今までの私とは違う事をやってみたかった、その気持ちが強かった。

 でも、今私の中で溢れ出したこの気持ちだけは……この気持ちだけには、本気になる事はきっと今まで出来ていなかった。


 かっこいい子、男女を問わず。

 かわいい子、男女を問わず。

 二次元も三次元も引っくるめて、好きな人ってこういうのかなぁ、と。

 そんな作り上げた空想が朧げにはあった。


 いつの間にか後夜祭へと時は進んでいて、PVが巨大なスクリーンに映し出されている。

 場面が次々と切り替わり、使われている写真はどれも私が選んだよく撮れていると思った物ばかりだ。

 だから人それぞれに魅力がある。

 一見敬遠されそうな個性を持つ人だって、その一枚の中で主役を張る事だって叶うのだ。

 恩着せがましいかもしれないけれど、その人の短所をある人は長所に感じる事もあるし、一つの短所はきっとこの世界の誰かには長所として惹かれる理由になり得るのだ。

 その逆だってある。

 ツンデレな子の魅力が分からないと言う人は一定数いる。

 この世界を救ったヒーローも一部の人には好かれていない、とかね。

 あとはそう……デート代を男性が払う事を好ましく思うかそうじゃないか、あれもそうなるのかな?

 そんな風に…人には人の、その人自身が持つタイプがある。

 相手に求めるタイプが、言うなれば好きなタイプがある。


 でも当てはまらない、欠片も。

 私が思い描いていた空想を、ちょっとだけ変わった形で見せてくれる彼が現れてしまった。

 彼が持つ様々な長所も短所も、違和感こそあれど好きなタイプに近かったから嫌いじゃなかった。

 嫌いじゃなければ一緒にいる事も苦ではない。

 一緒にいる時間が長引けば、どこか線引きは曖昧になっていく。

 思えば、誰か男の子とこうして何かを成し遂げたという経験が今までにない。

 大人になればこうして性差なく、活動を余儀なくされると分かってはいるのだが、敢えて言えば初めての経験だった。


 理由が、ちょっとした一つの理由が私に勇気を与えてしまった。

 関わりを持ったこの肩書きが私に変化をもたらした。

 それが嫌じゃない。

 ちっとも嫌いにならない自分が不思議で、その不思議もやがて冬の白い息のように瞬きをすれば消えてしまった。


『寒いねぇしかし』

『まだ冬だから、当たり前』

『特にだよ今日は特に』


 詩織(しおり)は人によって話し方をコロコロ変えた。

 それを嫌がる女子はなかなか多かったようで、交友の広い私はそれこそ人付き合いを見直せとお節介が何度も飛んできた。

 

『今時掲示板で合否を知らせるなんてねぇ』

『ネットでも分かるのに見に行こうと言ったのは誰?』

『………まぁ様式美ってあるじゃん?』

『言っておくけど何があっても責任は取れないし、取らせもしないから』

『それが当たり前だったんだから昔の人はすごいよね』

『私は……姉さんがそうだったから。昔とか、それは別に』


 だから詩織とは隠れて会うことが多かった。

 私は今まで作ってきた友達から嫌われるような事は、結局できなかった。

 本当は、詩織と一緒に居るのが一番好きだったのに。


『まぁきっと受かってるって!どっちも!』

『どうしてそう思うの?』

『なんだかんだ言って、受かってる自信あるから一緒に行ってくれるんでしょ?」

『誘うあなたもそれは同じと、そういう事ね』


 詩織と仲良くなって、どんどんワガママになっていく自分がいた。

 好きなように振る舞う詩織はきっと、私の知らない世界を教えてくれた。

 いつの間にか本音を少しずつ言えるようになって、いつの間にか私も本当の意味で笑う事ができるようになって。

 

『様式美って言うくらいだから、あなたもそういうのに憧れを持っているの?』

『う……いや、まぁアニメとか漫画だと合否発表ってそういう描写多いじゃん?…だから、なんかどういう気持ちになるんだろうなぁ……って言っても分かんないか』


 志望校が一緒だったのは運命なんだと思った。

 神様が私と詩織に時間を与えてくれたんだと、そう思った。

 だから、この京両高校に合格して…それから……。


『……分かるわ』

『え!?分かる?詩織はそういうの分からないかなぁって思ってたんだけど……』

『同じ場所に立たないと、分からないって事くらいは……』

『そ、そっか!良かったぁ。意味分からないって引かれるかと……。あ、そういえばさっきだってあなたも、って』

『………一人でも見に行ったかもね』

 

 詩織は私の事をどう思っているだろう。

 付き纏う嫌なやつだと思ってたりしないだろうか、前の関係を捨てきれない優柔不断なやつだとも思っているかもしれない。

 私を、詩織を嫌っていたグループの一員と変わらない存在だと見ていたら……。

 それよりも、興味すら抱いていなかったら……私と合否を見に行く事に、何も感じる事はない可能性だって……。


『…あった!番号あったよ!』

『私も……ある。あった。……ふぅ』

『…もしかして、本当はすごく緊張してた?』

『………私は、ここに来てやりたい事があったから。だから合格しないといけなかったの』


 やりたい事………。

 私は本音を言えるようになった。

 私が隠していた、心の底の底。

 ずっと持っていた……夢。


『……ふふっ…。合格する前からこんなに真剣にやりたい事を考えているなんて、きっと他には誰も…』


 あっていいじゃないか、やりたい事の一つや二つ。

 私は肯定しよう。

 私と詩織に筋を通そう。


『私もある!やりたい事!』


 夢を見ていた。

 ずっと……ずっと前から……。


『ずっと、ずっと…!ずーっと前から……!やりたい事があったの!』


 小さな女の子の時から、画面の中に、文章の中に、絵の中に。

 女の子ならきっと誰だって……小さな子供の時に持っていたそんな夢。

 大人になっても持ち続ける人、形を変え向き合う事を覚える人、捨て去り全てを諦める人。

 でも、それが綺麗で美しいことはみんな知っている…!

 憧れは、永遠に……!


『恋をしたい……!物語のお姫様みたいに大好きになれる恋を、私はしたい…!』


 自分を変えてしまう恐ろしい存在だと拒むべきなのに、進んで触れてしまうこの胸の高鳴りが。

 明日も会えると今日まで指折り数えて、制服を吊るす鏡越しの自分の姿が。

 変えていく、昨日までの自分を嘘のように。

 染めていく、私の心を昨日より新しく。

 本当は私、最初からずっとこう思っていたんじゃないかって……。

 知ったあの日に、出会ったあの日に、知り合ったあの日に。

 ……いつからなんて分からない。

 だから最初まで戻ってしまう、最初から意味があったんじゃないかと思ってしまう。


 だけど今日が……いや、だから今日が…。


 あぁそうか好きになるって、こういう事なんだね。


 ………好きになった日だ。


『私、生徒会長になるから』

『……え?』

 

 耳を疑った。

 入学初日だ。

 まだ着慣れない制服と自分自身にただでさえ迷子もいい所だったっていうのに。

 見慣れない姿で聞き慣れない言葉を放ち、壇上を見上げる中学からの同級生に眩暈を起こしそうになる。


『本気なの?あと…なんで?』

『本気。これが一番何をやったのかが伝わる』


 ほ、本気なんだっ!って心底驚いた。

 目が真剣だった。

 それがすごく、かっこよかった。


奏恵(かなえ)もやる?パッと言えたらかっこいいかもよ』


 その誘いがあったからこそ、私は……。


 ……ここにいる。

 ここにいるんだよ、忘れないでよ。

 私がいる事、忘れないでよ……!


 どうしてその視線を向けていたの。

 どうして私に興味を持たせたの。

 詩織……どうして今、雨芽くんの隣に立っているの……?


 私がいない所でやって…。

 ……知らないままでいさせてよ。

 こんな気持ちにさせて、私どうすればいいのか分からない……。

 …私はもう雨芽くんのことをもう知ってしまった。

 こんな追い込まれた気持ちになるから、だから怖かった……!

 ……本気で好きになったんだ!


 私を変えてしまった彼と彼女は、同じ景色を見ている。

 二人の間にはただの一つも言葉は無く、流れている音楽が少し後ろのここまで遮られる事なく届いている。

 それは二人の空気まで届けてきて、上手く行っていない事が手に取るように……。


 ………違う、雨芽くん気づいてないんだ。

 詩織が隣にいる事を分かっていれば、きっと彼ならもっと分かりやすく嫌な態度を取るだろう。

 薄暗がりの中、PVだけが光源の舞台裏で二人の肩が触れ合う程に近づいて……そして離れた。

 詩織は本当に一瞬だけ、雨芽くんの視界に入らないくらいの距離で一呼吸置いたのだ。

 その意味を知りたいのに、逆光で表情を汲み取る事は遂にできなかった。


 離れていく二人の姿を、私だけが見ている。

 その距離を言い表す言葉を見つけられなくて、形容し難い感情が湧き出てくる。

 握る手に力が籠り、胸がキュッと締め付けられて苦しい。

 まるで何か物語のワンシーンのように、恋さえ遥かに越えた……そんな因縁の一幕なのかもしれない。

 私が知らない二人の過去を、私が知らないままにそう名付けた。


 ここからだと見えなかった詩織は…その表情には、一体どんな色を浮かばせていたのだろう。

 唯一知り得た雨芽くんは、それでも詩織に気づかなかったから。

 だから、まだ誰も知らない。

 隣り合って見たその目には同じ景色が映っていたはずなのに、私には二人がその景色を繋げている未来を少したりとも想像する事ができなかった。


 でもきっと私が不安になるような事は起こらないだろう。

 雨芽くんはそういう人だ。

 私の想像すらも飛び越えて、雨芽くんが詩織に手を差し伸べる日がきっと来る。

 手を取り支え、共に歩くのだ。

 景色が繋がっていなくても、雨芽くんはその欠けた部分を補う事ができるから。

 だから彼は助ける事ができるんだ。


 私は以前、雨芽くんの歪な関係性を陽悟(ひご)くんのせいだと考えていた。

 でも恐らく違うのだろう……もっと、面白いくらい歪んでいる。


 ねぇ……教えてよ。

 何があったの?

 何を雨芽くんに願っているの?

 私じゃやっぱりお手上げ……人の事よりも、私自身の事を叶えてみたくなっちゃったよ。


 私、雨芽くんの事を好きになったよ。

 詩織……いや、違うかな。

 みんなは雨芽くんの事、どう思ってるんだろうね。


 歩き続ける詩織は決して振り返る事をしなかった。

 光の届かない場所へその歩みは止まる事なく、もう今はその姿を見ることさえ叶わない。

 好きになってしまった私をここに一人残して。


『応援してる。叶うといいわね、奏恵の恋』


 私は、詩織と親友になりたかった。


――――――――――――――――――――――――


 陽はもう沈み始めている。

 夕暮れの色を少しだけ残した空は、地面との境界線を建物で隠し見晴らしの悪さがこの期に響く。

 あれら建物が無かったら……などと想像してみるも、そのような景色を楽しみたいのなら海に行くべきだという結論が直ぐに出た。

 私の解像度の低い想像などとは比べ物にならない絶景が広がっているに違いない。

 そして海に行けばきっと、今度は都会の無機質な建物に情緒を感じるのだろう……身勝手でいい。


 地面には動かない影が寂しそうに一つ。

 個でいる事を臆さないように真っ直ぐ一つ。

 どうとでも意味をとれる。

 ただその一つの影以外の人の影は目まぐるしく位置が変わり、また特徴もそれぞれ変わっている。

 やはり、昇降口というのは人の出入りが激しい。


 その出入りが落ち着いた頃、ようやくその人は現れた。

 まるで誰もいなくなるのを待っていたかのように。

 足取りは重く、顔は下を向いている。

 PVの成功は彼にとってはどうでもよかったのだろうか。

 私の影を踏んでから人がいる事に気付いたようで、ややあってようやく顔を持ち上げた。

 表情は予想通りと言ったところか。

「一緒に帰らない?」

「……直ぐそこだぞ」

 いつも以上に真っ暗な表情で、気の乗らない事を言う。

「いつものことじゃない」

「…まぁ、確かにな」

 駅までの短い道のりだ。

 雨芽くんは反対方面の電車に乗る。

 帰り道が同じなのはそこまで。

 それがいつも通り。

 ………でも、今日は一人…。


 猶予はそう無い。

 雨芽くんはおそらく何かしら知っている。

 私が待っていた事にも感じることはあって、それから口を閉じているのは余計な事を喋らないためか。

「実行委員の打ち上げには参加しないの?」

「……あぁうん。声は掛けられはしたけど、まぁ実際俺は実行委員じゃないしパスしたよ」

 雨芽くんにとってはパスする理由にしかなっていなそうね。

「あなたなら顔も覚えられてて、あっちにも居場所はありそうだけれど」

「それは櫛芭(くしは)も同じだろ。っていうか俺が帰るよりも先に消えてたじゃんさっき」

 それから雨芽くんは自分が言ったことの意味に気づいて、

「いいのか?こんな所にいて……」

 と、聞いてきた。

「最初に言ったでしょう。一緒に帰ろうって」

 あなたを待っていたんだから、それは言わなかったけれど。

 雨芽くんはいまいち要領を得ない様子で、曖昧に相槌を打ちながら変わらないスピードで歩く。


「D組は?」

「C組は?」

 二人して同時に聞いてしまった。

 恥ずかしい思いもありながら、そう読み直す時間は無いのだから仕方ない。

「私のクラスは明日。今日はもう遅いから」

「そ、そっか…。明日…俺のところは、来週も選択肢に入ってるけど」

 これは……そうか。

「雨芽くん。行かないつもり?」

「いや、まぁそれはいいじゃんか。俺は特に…」

「関係ないなんて言わせないわよ」

 私が思った以上に力強い物言いになってしまった。

 雨芽くんは黙ってしまって、それでも少し落ち着いた表情をしていた。

「あるか。あるよな。普通に考えりゃその通りだ」

 不貞腐れるように笑う雨芽くんは、私はそれがとても……とても気に食わない。

 スマホを操作して雨芽くんは、やがて決心したような表情をしてそれから画面を暗くする。

 その表情はさっきのものとは違っていて、でも溜まってしまった思いを吐き出したかった。


「今日……何があったのかも知らないし、あなたが何を感じたのかも知らない」

 握る手に力がこもる。

 それが目に入って雨芽くんは手を持ち上げて、でもやめたようだ。

「私は、あなたのことを詳しく知らない。高校から知り合って、今は同じ部活に所属している人」


 手が触れ合わないように前に出る。

 微笑みは忘れない、私は怒りたいわけじゃない。

「でも、あなたは私の恩人なの。ピアノが好きなことを私に再び気づかせてくれて、妹と向き合う勇気をもらって、あなたの優しさで私は救われた」

 そろそろ駅が近づいてきた。

「俺は……優しくなんて………」

 伝えたい事を私は全て言えるだろうか。

「いや、見る側が勝手に……か」

「誰かにそう言われたの?」

「まぁな。そう真剣に言われたわけじゃないけどさ」

 誰が見ても明らかなら、きっと。


「あなたに救われた人がいる。あなたが助けた人がいる。どうかそのことを、忘れないで」

 忘れるわけがない。

 雨芽くんは、忘れないでいてくれる。

「……忘れないよ。思い出す時は笑顔の方がいい」

 鮮明に映る雨芽くんの過去を、彩るのは誰だろう。

 私はそこに、花を添えたい。

 笑顔を咲かせればいい。

「あなたを頼る人は多い」

 笑顔の花を咲かせて、雨芽くんはまた歩き出す。

「あなたはいつも一人だから…」

 来る日も……来る日も……。

 ……違う。

「あなたが一人なら、繋がりなんていう目に見えないものに頼らなくていい」

 あなたを求めている。

 助けを求めているんだ。

「差し伸べられる手が一つなら、迷う事はないから」

 雨芽くんは、これまでずっと、

「私も、だから迷う事はなかった。今日だって迷わずここにいる」

 繋がりが必要なのは……必要だ、それは間違いない。

 だけど……、

「雨芽くん、あなたは助ける時……一人になっていた」

 私は足を止めない。

 雨芽くんも足を止めない。

 止める必要もない。

 今まで続くこの道を、雨芽くんは誰かの道と重なった時に必ず一人で歩く事にしていたんだ。

 私は、やっと気づけた。

「私はもう大丈夫。きっとみんなもう助かった。助けてもらえた」

「……もう、着いたか」

 駅に着いた。

 ここから先は帰る道が違う。


 雨芽くんの携帯に着信音が鳴る。

 開いて見ると、通知はLINEのようだ。

「誰から?」

「……D組。打ち上げは来週に決定だって」

 首を振ってやれやれと、でもその顔には僅かに微笑みが戻っていた。

 ……そうか、あの時にはすでに行かないという選択は消えていたんだ………。

「……ごめんなさい。私、勘違いしていたみたい」

「いや、櫛芭が怒ってくれて、それで俺も自分のした事を間違いじゃなかったって思えたよ」

 だからありがとうと、それを言える雨芽くんは……。

 私が見ている雨芽くんだった。

「あなたは優しい人ね」

 垣間見えたスマホの光る画面は、来週に投票している集計結果が映っていた。

「来週まで。それが限界だと思う。だからそれまでに……」

 それ以上は言わなかった。


 私の友達。

 雨芽くんならきっと…きっと助けてくれる。

 一緒に帰れる日は、必ず来る。


「さよなら、雨芽くん」

「じゃあまた、櫛芭」


 これで、私の文化祭は終わりを迎えた。

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