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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十二章 文化祭編二日目
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82.忘れたふりで

 案の定クラスの反応は多種多様で、会議は荒れに荒れ……てはないけど独特な空気感の中行われた。

 陽悟(ひご)はクラスのみんなに大丈夫だって力説し始めるし、久米(くめ)は何考えてるか分かんないし、文化祭実行委員の古森(こもり)瀬川(せがわ)は流れに身を任せていたし収集つかないだろこれってのを文化祭二日目の開始を知らせる放送が無理矢理決着させた。

 他に出来る人もやりたい人もいないし仕方ないよねって感じで。

 解散の直前にペコペコ頭を下げる古名(こめい)が印象的だった。


 しかしねぇ、俺が王子様役ねぇ。

 ………似合わねぇな、いやマジで。

 中学では学芸会が無かったからなかなか想像できないけどこんなセリフ多い役とか初めて、上手くできるかな?

 保育園も小学校も脇役選んだり裏方選んだり。

 積極性が見られませんね俺の人生。


 そうしてぼちぼちぼっちで歩いていると、

「あ、笠真(りゅうま)

「……お、あぁ成華(せいか)来たんだ。早いな」

 一人校内を彷徨いている成華に会った。

「………なんでカメラ?」

 俺が持っているカメラを見てそんなことを聞く。

「あ、もしかしてそれが前言ってた扶助部の活動?」

「うーん。合ってるとも言えるし間違ってるとも言える」

 部と言うよりも個人で動いてるからなぁ。

 久米(くめ)櫛芭(くしは)は関与してないし。

 まぁ部の活動から派生したことには違いないし、些細なことだから別にいいか。

「やっぱ合ってるってことにする」

「部活熱心だね」

 果たして合ってるのかその返答。


「そんなことはいいから、菊瀬先生ならあっちの多目的教室に居ると思うよ。扶助部の顧問だから」

 忘れ物センターなんて言ってはいるけど、部員が一切していないことを部の活動にしていいものなのか。

 入り浸る人なんているわけないし、その時は偶然菊瀬先生に任せていましたってことにしよ。

 文句も苦情も受け付けない方針で。

 知ったことか元々扶助部で出し物なんてやるつもりなかったんだし。

 これでいいのだ。

「お、ありがとう」

 言葉と笑顔を一緒に受け取って、頭が真っ白になった。


 この記憶の中に……。

『ありがとう』

 横になっている姉、白い壁、こちらに向けられる優しい微笑み。

『笠真は優しいね』

 その言葉が、俺を……。


「去年は私が倒れたのも含めて色々あって文化祭来れなかったからなぁ……って扶助部の出し物って忘れ物センターって」

 文化祭のしおりを見ながら成華は笑っている。

「……おーい、どうしたの?」

 こちらに視線を戻して様子を聞いてきた。

「あぁうん。……そう、別に、うん」

「ぼーっとして」

「いや、なんでもない」

 話しても……か。

 意味ないよな絶対。


「そう。ここって生徒会室じゃなかったっけ?だって三年生の教室から近いし」

「え?そうなの?というか何その覚え方」

 よくそれで覚えられるな。

「三年生だったからかなぁ」

 俺も三年生に生徒会室近くにあったら覚えるのかな。

「生徒会室だったとかは聞いたことないけど……卒業してから場所が変わったんじゃないか?」

 なんかあったのかね、知らんけど。

 ふーん、と今度は成華がぼーっとしてる。


 まぁこんな推測でしか話せない話、今はいいか。

「会ってどんな話すんの?」

「うん?そうだなぁ。まぁここの話だよねぇ」

「はぁ。そう」

 ここってのは京両高校だよな。

 ここに来たんだし。

「例えば私が居なくなった後の課外活動がどうなったのか、とか」

 まぁ資料とかもあるだろうし話しやすいか。

「あと笠真の学校生活」

「……たしかに学校ならではの会話だな」

 あんま聞いてほしくねー!


 俺と、それから周りを見て成華は、

「……一人なの?」

「そうだけど」

 そうだから聞いて欲しくないみたいな。

「ふーん、中学校の姿からは想像できないなぁ」

 一番最近の成華の記憶にある俺の姿か。

 そうだよなぁ、成華は知らないからそう思うよな。

 あの時も、今も、純粋な気持ちで感謝しているんだろうな。

 ありがとうって、その感謝は変わらないから。


「仕事もあるし、早く行け早く」

「分かった分かった!楽しみなよ!」

「楽しめって、仕事をか?」

 なかなか難しい事を言う。

「あと疲れてるならちゃんと休みなよー!」

「分かったって!」

 頼むから静かにしていてほしい。


 ……別に疲れているからぼーっとした訳じゃない。

 ただ記憶に蓋をして、それが一気にこじ開けられたからびっくりしただけ。

 忘れたふりをしていただけだ。

 忘れられないのに。

 卑怯な自分を、逃げた自分を。

 ………思い出してしまったから。

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