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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十一章 文化祭編一日目
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76.成り行きに

 文化祭一日目。

 すごい盛り上がりだ。

 人気あるねーこの高校。

 来年受験する子はもっと大変になったりして。

 ひょえー可哀想。

 今ここにいる中学生らしき子たちはいわゆる高校見学というやつだろうか。

 高校の特色を知りに、校舎や諸々の設備を見て、そして文化祭が楽しそうか楽しくなさそうかも判断材料に加えられるのだろう。

 普通はそうなんだろうなぁ。

 俺が中学生の時、高校見学とかしないでここ来たからなぁ。

 一緒に行くやついなかったし、というか他の高校も全くと言っていいほど見なかったし。

 受験落ちてよく知りもしない併願校とか行ってたらめちゃくちゃ後悔してたんだろうなぁ。

 隼真(はやま)美穂(みほ)も受験は危なげなく受かってるし、これで落ちて併願校行ってたら尚のことダサすぎる。

 今考えると自暴自棄っていうか先のことなんも考えてなかったな、あほかよこいつ。

 いやまぁ自分のことなんだけど。

 受かる自信はまぁ、あったっちゃあったけど相当リスキーな綱渡りだった。

 いやぁ、学問の神様に感謝だわ。

 拝啓、未だ残暑厳しいなんとかかくかくしかじか、菅原道真公thank youだぜベイベー。

 もう辞めたけど塾にも行かせてもらってたし、親にも感謝ですわ。

 成華(せいか)も入れて姉と弟二人とも京両高校、親目線だと鼻が高いんだろうか、知らんけど。


 いつか言ったかもしれないが、俺は高校選びとしては中々無粋な理由だがぶっちゃけると姉の後追いだ。

 理由をもらって、楽ができる方に逃げてきた。

 ……じゃあその理由である成華は、なんでこの高校を選んだんだろう?

 遠いし、倍率高いし、乗り換え必要だし。

 って、成華のこと知ろうともしなかったくせにそりゃ今更だ。

 強いて挙げるとするならば、陸上か?

 中学と高校で共通のものと言や、これしか思い浮かばない。

 この高校部活も力入れてるし、実際強いし。

 成華の部屋には成華の暮らすアパートには持っていかなかった中学、高校時代の陸上部での功績であるトロフィーや表彰盾がそれこそズラリと並べられてある。

 理由としては十分……か。

 足速かったもんなぁ…。


 ……俺の姉って考えれば考えるほど欠点ないな。

 なんだこの完璧超人。

 紛うことなき強キャラ、SSR、星五レア、虹確定演出。

 環境壊れちゃうな。

 環境破壊は気持ちイイZOY!(某ペンギン)(アニメ版)


 とか考えながら、実は今カメラ持って仕事中。

 まぁ仕事とは言いながら、今しているこれも所詮予備なんだよなぁ

 100%必要って訳でもないし、なんなら無くていい場合さえある。

 小瀬(おせ)があとは着地をしっかりと決めれば俺なんて実際もうお役御免なのである。

 それを以て俺がなぜ仕事をしているかというと………。

 ……暇だからである。

 我らがD組は劇の準備で余った素材を使って小物やアクセサリーを販売している。

 もちろん販売、接客業であるからして俺の存在は初めから無いものとして扱われ、向いていると思われる数人でシフトを回すことになっている。

 本番の劇は二日目、そこで本気出せばいいのよ楽勝よ。

 あとはなんだろ、品出し皿洗い引越しの荷物運びは手慣れてるからいつでも気軽に呼んでくれ。

笠真(りゅうま)ー!」

 化粧した人や、豪華な衣装に着替えた人、屋台を開いて列ができた店や列そのものなどを撮っていく。

 いかにも文化祭らしい写真だ。

「笠真ってば!」

 活気に溢れ、声が飛び交い、一般的というかここ以外の高校がどういうものかは知らないが、日頃静かな雰囲気を保っている京両高校にしては珍しい光景だ。

 これも写真に残しとこう。

「絶対無視してるよな!」

「あぁ?なんだ陽悟(ひご)か」

 ツッコミのようなノリで距離を詰めてくる。

 なんでここにいるんですかね。


 引き剥がして一定の距離を保ちながらそこそこなペースで歩く。

 着いてくる陽悟に呆れながら問いかける。

「いつものやつらと一緒にいなくていいのか?」

 こいつも懲りないやつだよ本当。

「いやー、はぐれちゃってさ!」

 嘘か本当かわからないな。

 こいつ変に計算高いところがあるし。

 信用大事。

 朝に遭遇する度に言い訳聞いてる俺のお前への信用は既にゼロだぞ。

 せめて連日会わないことで偶然を装ってるつもりか。

 というかそれで通じるやつはどんな間抜けだ。

 ………連日、覚えがあるのが今年の春くらいしかないのが陽悟の丁寧な人付き合いを感じさせる。

 別に感じてどうだという話ではないけど。

「せっかく会えたんだし、ちょっと一緒に回らないか?」

「まぁどうせ写真撮るくらいしかすることないし、別に良いけど」

 陽悟が仲間に加わった!


 パーティが二人になり、序盤の旅としてはそこそこ面白くなってくる時期だろうか。

 仲間に話しかけるとちょっと興味深い話を聞けたり聞けなかったり。

 その後の物語に続く大事な話を聞き出すことができたり。

「……陽悟、お前ってなんでこの高校にしたんだ?」

 果たしてこれは聞いていいものか。

 陽悟からしたら突然の質問だし、この質問の経緯がそもそも分からないし。

 適当なところであしらって話題を変えるのも陽悟だとありそうだ。

 俺もこの問いには深い意味は込めてない。

 うやむやにされても問い直したりはしないだろう。

 また別の話題に移るのだ、きっと。

 まぁこのくらいの世間話、陽悟並みのトーク力が有ればいくらでも無難な返答ができるだろう。

『違うみたい。雨芽(うめ)さんと出会ったのは高校からだし、高校を別に受験したのは、多分自分の意思』

 弟の将吾(しょうご)くんさえ知らない陽悟の意思を、こんな安いセリフで聞けるわけがない。

 と、思ったのだが、

「この高校にしたのは、ある先輩のおかげかな」

「………先輩」

 思いがけない言葉が陽悟の口から出てきた。

 陽悟の高校生以前の生活の中に、そうやってお世話になった人もいるんだなと胸が熱くなる。

 その先輩には是非直接会って感謝を申し上げたい。

 よりにもよってよくも京両高校に陽悟を寄越したなクソがって。

「まぁその先輩のこと、名前くらいしか知らないんだけどな!」

「……は?」

 何を言ってるんだこいつは?

 一気に意味不明になったんだけど。

 それでなんで高校選びがその先輩のおかげになるの?

 待て陽悟!なんのことだ。まるで意味がわからんぞ!


 あとこいつと歩くの想像以上に良くなかった。

 こいつがいると一緒に写真良いですかってめっちゃ聞かれる、陽悟が。

 俺は広い意味でカメラ係だけどこういう仕事はしてないんだが。

 終いにはスマホを渡され撮れと言われる始末。

 ………まさかこんなことになるとは。

 準備期間だとこんなことにはならなかったのに。

 やはり文化祭でみんな浮かれているんだろう。

 浮かれた雰囲気って絶対勇気とか自信とか、そういうものを無視して行動させるなんらかの魔力を持ってると思うんだ。

「なぁ、この後サッカー部で公開練習があるんだけど来ないか?」

 写真を一緒に撮った子に手を振って、別れてすぐさまそんなことを言い出す。

「なんで俺が行かないといけないんだよ」

 こいつとの付き合い方はちょっとくらい強気がちょうどいい。

 じゃないとゴリゴリ来られて気づいたら懐に潜り込んでるしこいつ。

「雰囲気を味わってもらうだけでいいからさ。それで気に入ってもらったら是非サッカー部に」

「入らないからな。それだけは絶対不変だから」

 諦めずに陽悟は言葉を続ける。

「なら最後の記念撮影はどうだ?」

「ならっておい。なんで俺がそれで釣られると思うんだよ」

「他の部活もそうだけど練習中は集中して見ている人に気づけないと思うけど、最後の撮影の時なら自由時間もあるし、笠真と話せると思うんだ!」

「話聞けや」

 マシンガントークである。

 もはや怖い。

「撮影ってことはきっとサッカー部に親しい奴らばかり来るんだろ?絶対俺浮くじゃねぇか。却下」

「いいじゃんいいじゃん。どうせ暇なんだろ?」

 嫌味かそれ。

 でも実際、それを言われると弱いんだよな………。

 このままだと冗談抜きで日差しの強い校庭に連れて行かれてしまう。

 何か抵抗する術はないものか。


 辺りを見渡すと他の文化祭の仕事に携わっている人は周りに友達が数人いて、話しながら見回りやその他作業にあたっている。

 俺みたいに一人のやつは珍しい。

 今は陽悟が一緒にいるけど。

 仕事をしている人もしていない人も、文化祭実行委員の軽い腕輪が仲間意識を芽生えさせる。

 おそらく気のせい。

 こんなんただの肩書きだろってな。


「写真お願いしていいですか!」

 と、陽悟に近づく女子がまた一人。

 後ろではキャーっと黄色い悲鳴を上げる取り巻き。

 今日何度目なんですかねこのやり取り。

 別に羨ましくないですけど、いや本当だからな。

 まじで大変そうだし、笑顔いちいち作らなきゃいけないのがなぁ……こんなん考えてるから友達いないんだよ俺は。

「いた!蕉野(しょうや)!……蕉野?」

 はーい…チー……ズ……。

 カメラを隠した。

 何故かって?そんなん聞かなくても分かるだろう。

 いやまぁ弁解の余地がないほど完璧に見られただろうけどな!

 ちょうど写真を撮っているところで出会ってしまった。

 誰かって?蕉野って呼ぶやつでこの雰囲気よ、空欄に当てはまるのはたった一人しかいないだろう。

 柊木(ひいらぎ)だ。

 柊木の嫉妬の炎が燃え上がっているのだ。

 激アツな展開。

 夢に向かって駆け出す主人公くらいの熱量、ベクトルは全く違うが。

 険悪なムードに写真を撮っていた女子もその取り巻きも、ありがとうございます!と言って一目散に逃げていった。

 賢明な判断だ。


 冷や汗をかきながら陽悟は話し出す。

「い、いやぁ、成り行きでこうなっちゃってな!はぐれてごめんな!」

 成り行きくんは今日も頑張るなぁ。

 仕事は選ぼう、誰でもない自分の為に。

 本日の教訓にノミネート。

「ふん。じゃあ行こう。早く。みんないるから」

 怒ってはいるが、どこか見つかってほっとしているのか語気は落ち着いている。

 全く、器用ならもっと上手くやれよな。

 ハラハラする。

 手を振ってこちらに別れを告げる陽悟は、世間でよく言う憎めない奴って感じ。

 ……はぁ、俺に構うのはいいから柊木に構ってやれよな。

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