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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十章 文化祭準備期間編
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72.快いほど

 また次の日。

 今日は会議室ではなく扶助部部室。

 部室に陽悟(ひご)山内(やまうち)を呼び、計画の話を進める。


 D組の出し物は体育館を使った劇だ。

 もちろん久米(くめ)も参加する。

「会議室で体育館のタイムテーブルを見たんだけど、D組が使用した後の30分間は何も予定がない。劇の片づけで時間を取ってくれてるんだ。そしてそのあとは閉会式。つまりその間、人の通りは無くなる」

 まぁそのタイムテーブル、実は俺が一枚噛んでたりする。

 流石に無益なことを率先してやるほどお人好しではない。

 こちらも狙いがあるのだ。

「居場所も分かってて人に見られないって条件なら告白する場所はそこしかない。俺が久米を連れて行くから、山内それなら告白出来るだろ?」

「うっす、雨芽(うめ)くん」

 山内の意思は一貫して気持ちを伝えたいというもの。

 久米に迷惑はあまりかけたくないみたいで、そういうプランを考えてくれという話になっていた。

「体育館と校舎の間。あそこなら通りすがる人もいないし、周りから見られる可能性も少ない」

「その場所を使うのか?」

 と、それまで黙っていた陽悟が口を開いたのは疑問を呈するためだった。

「なんか問題があったか?」

「いや、意外だったから。……体育館の中じゃダメなのか?」

 過去の経験に基づいて選んだし、元々それもそういう人目につかない場所を選んだんだし、あとは尤もらしい人に話せる理由だとすると……。

「それも考えたけど、片付けとかまだD組の人たちが使ってるだろうしな。体育館からは距離を少しでも置くべきだろう?」

 あと話すべきことといえば、

「当日は、そうだな。俺の文化祭実行委員の腕輪を貸すから陽悟が体育館に入ってくるやつが居ないよう通路塞いどいてくれ」

 閉会式の準備ですとか言っても嘘ではないからな、片付けしてるんだし。

「……分かった」

 いやに間の空いた了解だ。

 言い方は悪いが、今まで俺の話を盲信的に聞いていた陽悟にしては珍しい。

 陽悟の表情から感情が読み取れず、ただ複雑なそれを保ったまま俺に向けている。

「いやぁ!ありがとう!上手くいきそうな感じしてきたわ!」

「まぁ、作戦が決まっただけなんだけどな」

 元気そうな山内の声が部室に響き、俺も陽悟も苦笑する。

「じゃあ、あとは当日ってことで」

 了解であります!と山内が一言。

 調子いいなこいつ。

 まぁ、それがこいつのいいところというか………うーん面倒な時の方が多いな……ごめんね俺だから。


 陽悟、山内とそこで別れ置き勉をしに教室に戻る。

 日本史の課題はまだ先だったな、とロッカーに入れてダイヤル式の鍵を掛ける。

 何も考えずに鞄に詰め込むとほんと荷物多くなるんだよな。

 小学生のランドセルは軽くあるべき、置き勉推奨委員会です。

 教室に入り黒板が視界に入る。

 明らかにシンデレラとは関係ない落書きだな……はぁ。

 ……まぁ盛り上がって描いてしまったんだろうなぁ。

 消さないで帰ったのは愚作だ。

 いやでも、関係ないように見えて本当は関係あることなのか?

 俺が話を聞いてないだけで明日続き話そう、みたいな。

 ………明日の朝のホームルームが説教で長くなっても面倒だし、消すか。

 そう考えて黒板消しを手に取り、黒板に向き直った時。

「よう。笠真(りゅうま)

「……さっき別れたばっかだろ」

 こいつ後ろ付けてきたんじゃないか?

「帰ったんじゃなかったのか」

「こんなおいしい役割、見逃すわけないだろう?」

「あ、そう」

 一年生の時からこういう事はたまにある

「これ消した方がいいと思う?」

「俺も手伝っていいってこと!?」

 どんな意訳したらそうなるんだよ。

 誰かの為とまでは行かないが、気付いた人がやった方がいいんじゃね?みたいな気持ちで動いてるようなもんだ。

 隣に陽悟が立ち、ニコニコした顔をこちらに向けている。

 さっきの部室での表情とは大違いだ。

 顔がもう嬉しいって言ってるもん。

 実に快いほどの素晴らしい笑顔だ。


 その笑顔を俺はいつも無償では受け取れないけれど。

 それは宇佐美(うさみ)の言葉が、この目に焼きついているから。

 どんな表情で、どんな感情でそれが送られたかは分からない。

 でもきっと、その全てを知っていてもきっと負い目を感じ、今と同じような行動をとっていただろう。

 やっぱり、忘れたい事もしっかり記憶に残るんだよなぁ。

 全く……嫌な特技だ。

 得する事も多いけど、損な事もそれなりに多い。

 ……でも、忘れるということはやはり、その記憶から逃げているということになるのだろうか。

 忘れたらどんなに楽だろうって何度も思った。

 けど、結局忘れられなかった。

 ……全部。

 良い事も。悪い事も。


 黒板消しをクリーナーにかける。

 ブォーという音が無音だった教室で鳴る。

 きれいになった事を確認し、黒板消しを粉受に置く。

 今度はカタッと音が鳴る。

 手を差し出し、陽悟が使っていた黒板消しを受け取ってそれもクリーナーにかける。

 隣でへへっ、と嬉しそうに笑っている陽悟を横目で見て、ある日の言葉を思い出す。

『笠真は扶助部の前から……一年生の時からさ。今と少し形は違うかもしれないけれど。あ、でもたまに前みたいにやってるか……まぁ、よく助けてたじゃん』

 ……陽悟はきっと今の俺を外から見て、あんな事を言ったんだろうな。

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