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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十章 文化祭準備期間編
72/106

70.深刻で

 いつも通り会議室に入り、今まで撮った写真を小瀬(おせ)と確認している。

 ただ集中を欠き、その内実は酷いものだったと思う。

 もちろん小瀬は俺が集中してないのを見抜き、いつも以上に辺りに視線を泳がせていた。

 まぁもうだいぶ煮詰まってきたし、これ以上話しても意味ないってのがあるかもしれない。

 写真選びの基準は大方擦り合わせたし、たとえ写真を撮って枚数が増えても結局は当日を待たなきゃ完成しないんだし。


 ………思い出すのは体育館で(さき)と呼ばれていた女子とのやりとりだった。

 あいつは、いや、あいつらと言った方が正しいか。

 咲という女子、その名を呼んだ女子、そして後から気づいたことだがその周りにいた女子も、以前扶助部の部室に来たことがある人たちだった。

 固まって待っていた三人と咲という名前の女子の顔、そして扶助部に来た四人の顔、記憶と一致するしそれは間違いないはずだ。

 依頼ではなく、久米(くめ)を誘いに。

 結局久米は断ったが。

 たしか……柊木(ひいらぎ)の依頼の少し前だったか。

 そして、以前久米と櫛芭(くしは)の誕生日プレゼントを買いに行ったあの日。

 久米の母と偶然……まぁ久米の母からしたら狙ってあの場に現れたんだろうが、その口から咲という名前が発せられたことを覚えている。

 交流が途絶えたわけじゃない……ということはやはりリストバンドを外したのはバスケ部のことを扶助部に持ち込まないため、か。

 形としては兼部という形を取っているが、リストバンドを外し扶助部に専念するために、みたいな。


 ………扶助部にそんな価値あるか?

 ……まぁ、うん。

 櫛芭と仲良くなったきっかけは扶助部の存在が故だし、部活に来るのが楽しいとかなんとか思ってくれてるのかもしれない。

 多分そう部分的にそう。

 だって俺は高校ではいつも通り相も変わらず、

雨芽(うめ)くんってぼっちなんですか?」

 ………。

「それ普通思っても聞かなくない?聞いちゃうの?」

 自分で自分に言うのはまだいいんだよ別に。

 でも人に言われるとそこそこ傷つくんだわ想像以上に。

「だって周りで仕事してる人と温度差がありすぎなんですもん」

「あぁそういう」

 周り見てるなぁって思ったらこれか。

 見て何も思わないのか仕事してない副会長。

 言いたいすごく言いたい。


「じゃあじゃあ、雨芽くんって詩織(しおり)に嫌われているんですか?」

 今度の質問はさっきのと比べて興味ありげだ。

 友達だからだろうか。

「さぁ。まぁ睨まれたことはあるけど」

 これってやっぱり自覚がない分深刻な問題なんですかね…。

「え、大事件じゃないですか。詩織は無闇に敵を作るようなことはしませんよ?」

「俺は敵だなんて思っていないからもうそりゃ一方的な敵意だな」

 ほんと敵なんて要らないよ。

 そうゆう要素はお呼びじゃありません。

「じゃあ詩織に悪い人じゃないよって伝えときますね」

「まぁ適当に頼む」


 目線の先でテキパキと指示を出し、滞りなく人と仕事を回している浅間(あさま)を見て嘆息が漏れる。

「……あいつってサッカー部のマネージャーだよな?兼任してるのか?」

 そう聞くやいなや小瀬は体をぐっと寄せてきて、非常に分かりやすく面白がってる声を出した。

「お?おぉ?詩織のこと、気になってます?」

「この話はやめだ」

「あぁ!待って下さい!暇なんでもう少し話しましょうよ!」

 今仕事中ってことを忘れてないか。

 かく言う俺も、もう五分くらいパソコンに触っていないが。

「詩織が生徒会長になった理由聞きます?」

「それ教えていいのか」

 これがきっかけでもっと嫌われたらそれ伝えたお前も立つ瀬がなくなるんじゃないのか。

「色々言われましたけど悪い人じゃないんですし、隠してることでもないんでいいんじゃないですか?」

「適当だな」

 ですか?って俺に聞かれても分からんけど。

 というか色々?

 色々って何、ちょっと怖いんですけど。

 ゴホン、と咳払いをして小瀬はニヤニヤしている顔をパシパシ叩きながら話し始めた。

「詩織って四つ上のお姉さんがいて、前にここの生徒会長をやってたんです。それに今の詩織と同じように一年生の時から」

 お姉さん?

 浅間に……お姉さん……。

 ちょっと待ってどっかで………。


『…さっきは……そうね。妹は何をもらったら嬉しいか相談に乗ってもらっていたの』


 あぁ……そういえばたしか夏期講習の時櫛芭がそんなことを……。

 姉がいない奴にこんなこと相談するわけないよなそうだよな。

 あん時の、別に(ゆかり)のことだとは言ってないってあれ誤魔化すの下手すぎだろ、縁さん以外誰がいるんだよって。

 まぁ可哀想だから突っ込まなかったけど。

 思い出したら笑えるもん。

 めっちゃ焦ってたんだなぁって。

 いいお姉さんだね……しみじみ。


「ちょっと、聞いてますか」

「あぁはい。聞いてる聞いてる」

 何でもかんでも鮮明に思い出すからやっぱり記憶力良すぎるってのも考えものだな。

 匂いとか音とかでも思い出すことあるもん。

「お姉さんの名前を出したら簡単になれるんじゃないかって思ったそうです。面白いですよね。先生受け良かったんですよ実際に。やっぱりなんだかんだ言って最終的に必要なのはコネですよコネ」

「……で、実際になったのか」

 俺も姉がいるんだけど今のところそのコネで雑用に使わされてるって伝えたら、果たしてどんな顔をするだろう。

「はい。思いの外なろうとする人も少なくて、二年生から選ばれることの多い生徒会長も一年生でなったんです」

「へぇ。じゃあ小瀬は?」

「え?ここで私の話ですか?」

「だってここにいるってことはお前も一年の時から生徒会だったんだろう?」

 そんで付け加えると副会長か。

 会長と副会長がどっちも一年ってなんだか不思議だな。

 というか変じゃね?

 いや、でも二年生でなければならないって決まりもないし偏見か。

 やりたい人がやればいいっていう方針なのかな。

 姉がいるなら信頼できるし実質浅間は二年生……みたいな。

「えぇまぁそうですけど」

 と短く答え、可愛らしい水色のシャーペンを浅間の姿に重ねながら言葉を続ける。

「詩織とは同じ中学だったんです。仲も良かったんで同じ高校に来れたのは良かったんですけど、突然生徒会長になりたいと言った時はびっくりしましたね」

 浅間がこちらに気づき、俺は慌てて知らない人の振りをする。

 いえーい、と小さく声を出しながら小瀬は浅間に向かってシャーペンを小刻みに揺らす。

「もー。そんなにビクビクしたってなんも変わりませんって。詩織は実力行使には出ないから大丈夫ですよー」

 本当だな?信じていいんだな?

 やるなら陰口までにしてくれよ?

「奏恵も生徒会入ろうって言われて、気づいたらここにいます。体は小さいけれど、図太い奴です」

「その体は小さいっていう枕詞いる?」

 絶対に浅間に繋がるの?

 俺も陽悟(ひご)と話した時に思っちゃって更に言っちゃったけどやっぱ可哀想だよそれ、謝りたいもん。

「本人には内緒ですよ。小さいの気にしているんで」

 やっぱり。

「あと高校で何やってたのって聞かれてパッと答えたいらしいです。直ぐに言えたら強そうじゃんって。簡単に言ったら思い出作りですね」

「思い出で生徒会長になられてたまるか」

 そんな理由で生徒会長なってたらこの世に存在する生徒会長全員がそうなんじゃないかって思っちゃうだろ。

 あと内申点などは考えないものとするって注釈つけないとな。

 それはそれ、これはこれ。


「詩織が生徒会長になってから他校との交流増えたらしいですよ。本人はカッコいい人探してるだけですけどね」

「なんて生徒会長だ」

 聞きながら思ったけど、それお前の趣味じゃね?

 浅間にそういう趣味があるのかは知らないけど俺にとっちゃそれに一番近いのは小瀬なんだけど。

「だから雨芽くんのこと、嫌いまでは絶対行かないと思うんですけどねー。ツンデレなんでしょうか?」

 ツンデレ……。

「へぇ……そう…」

 無いだろ、無い無い。

 あるとしても人によって使い分けてる絶対。

 ツンの人は一生ツンだしデレの人は一生デレ。

 ありもしない可能性が脳裏をよぎって複雑な感情になる。

 忘れよ頭よ、忘却の彼方へ。

 ………仕事しよ。

「私はありですよ。ありありです。雨芽くん全然いけます」

 私基準じゃんやっぱり。

 小瀬と浅間は多分好みのベクトル違うだろきっと。

「まず清潔感ある人がいいですねー。顔が良ければなんでもいいんですけど。あーあれ、シャツとか靴とか、あぁいうの気になんない人なんなんですかね?」

 なんなんでしょうね。

 いやまぁ、うちは子供の頃から成華(せいか)がテレビにそういう人が出る度に顔指差して、

『ニキビって一生残る借金だよ!』

 ってめっちゃ脅してきたからなぁ。

 洗顔料とかめっちゃ買ってきたし、そういう習慣を義務付けられたっていうか。

「最低限パーツが揃ってれば暗くてもなんでもいいです。笑わせればいいんですから。そうでしょう?」

 なにその理論値最強みたいな。

 なかなか玄人好みな嗜好してますね。

『ちょっとごめん』

 って夏に急に顔見てきたけど、もしかしなくてもそれが理由だな?

 初対面の人にやる行為じゃないだろ絶対。

 男がやったら即逮捕だわこんなん。

「あと融通が利く人ですね。妥協案とか折衷案とか、文句なんて飛ばしてくる人はノーです。退場です」

 それはもしかしてこの前のバレーボール部の件のこと言ってます?

 捉え方によっては、いいように働く駒みたいな扱いになるけど。

 パソコンでは新たに撮った女子バレーボール部の写真が古いものと差し替えられていた。

「まぁ大丈夫です。さっきも言ったように、悪い人じゃないと伝えておくんで。暇、潰してくれてありがとうございました!」

「お前もPVの仕事だろ……まぁいいけどさ」

 そこら辺融通の利く男になってやるか。

 渋々な、いいか渋々だぞ。

 あと暇は取り消せ、いや取り消してくださいここで働いているみんなの為に。

 共働きは夫婦で家事分業!

 間違っても押し付けたりするなよ!

 仕事が大変なのは貴様も分かっているだろう!


 荷物をまとめて立ち上がる小瀬は、浅間に投げキッスを……いや何してんねん。

 浅間も苦笑いだし。

 行ってきますの合図かなんなのかは知らないけどほんと自由人。

「……小瀬はなんで副会長になったんだ?」

 やっぱり気になり、最終的には聞いてしまう。

 偏見というより興味だ。

「思い出作りですかね!」

 うん、いい思い出だね。


 そのまま扉を開いて外に出るかと思ったらUターン。

 隣を通り過ぎて、久米や櫛芭、その他多くの文化祭実行委員が作業しているところに歩いて行った。

 いや外回りじゃないんかい。

 投げキッスの意味ないじゃんなんだったんだあれ。

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