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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十章 文化祭準備期間編
71/106

69.尾を引いても

 陸上部の練習中の写真、そして最後に簡単に集合写真を撮影した翌日。

 会議室にてあくび混じりに八割くらい真面目に、パソコンと向かい合っている。

 PVもかなりいい感じになってきたなー(棒)。

 今の時代この棒読みしてるよーっていう表現誰も使ってなさそう。

 でもしょうがないんだ、感情は死んだ。

 あいつはいいやつだったよ。


「ぐぇー。仕事やだー」

 なんなんこいつ。

 机に顎を乗せて腕をだらーっと力なく下ろしている。

「なーんで副会長が諸々の資料の確認しないといけないんですかねー」

「副会長だからだろ」

「がー!」

「うるせー」

 誰かー、この子の取扱説明書を。

 あまりにも小瀬(おせ)が周りを顧みない発言をするからか、なんだか周りの人に距離を取られているような気がする。

 決して俺のぼっちオーラが人を寄せ付けないとかではない……そうだよね?

 ………浅間(あさま)今絶対こっち見てたな。

 目を逸らすくらいなら最初から見るなよ俺のこと嫌いなくせに……。

 というか会長という役割を持ってしてこの副会長の怠惰っぷりはスルーですかそうですか。

 夏期講習の頃は仕事頑張ってるなぁって思ったのに……これじゃ例え扶助部でも助ける気無くなっちゃうよ。

 ……まぁなんだかんだ言ってサボりはしないんだろうけどな。

 仕事を躊躇なく際限なく用意する鬼畜営業と、仕事が降り積り文句を垂れながら残業する社畜プログラマー……ってところか。


 こいつもお前ら生徒会が面倒見ろよな、ちゃんと最後まで責任持って飼うって約束したでしょ?

 お母さんとの約束ですからね、分かってる?

 社畜を壊したら新しいのと交換して古いのを捨てるとかやめろよな!

 お前らには人の心無いのか!?

 おっとどんどん話題がずれていく。

「まぁどうせ確認でしょー?前の人がよし!ってしたし。よし!」

 現場猫かこいつ。

 小瀬も本来は営業向きな性格なんだろうなぁ。

 その場その場を凌げるほど口がよく回るし根拠の無い自信に納期勝手に決めそうだしあとよろしくお願いしますって頼まれたタイミングでもう全部手遅れだったり、とか……今俺誰の話してるんだ?

 俺の中の営業像…悉く歪んでるな……。

 資料をパラパラとめくりながら確認している小瀬を見て、それからその資料を見て、いくつか気になる点があった。

 目に入ってしまったんだから仕方がない。

「そこさっきの紙と書いてる収支違うけどいいのか」

「え……?あほんとだ」

 こういう話は割と素で聞いてくれるっぽい。

「……どうも」

「うん……」

 うーん……余計なことしたかも?


 しばらく時間が経って、今度は分かりやすく小瀬は腕を組んで唸っている。

 困っているみたいだ。

「人数大丈夫かこれ?出どころ不明の奴が数人いるけど」

「で、ですよねー……。確認します………」

 見取り図や演出案、配役や進行など、この際気になること全部言ってしまおうか。

「多分これライト足りてないと思うぞ。去年もそうだったし、体育館の広さから見てもあと4つくらいは必要だと思うけど」

「は、はい。そのよう伝えておきます」

「ほら、この写真。っていうかPVのカメラを資料用に使うなよ。せめて新しいフォルダー作るとかさ」

 笑っちゃうくらい不便。

 しょうがない今から分けるか……。

「すみません……むぅ…」

「……なんだよ」

 不満が顔に溢れている。

 こういう時表情豊かな人って不利だよなぁすぐに分かっちゃう。

 日頃から起伏を少なくすれば気付かれないのに、代わりに友達は減るだろうが。

雨芽(うめ)くんって……冗談抜きで優秀……なのかもしれませんね」

 うわめっちゃ認めたくなさそうに言うじゃん。

 無理して言わなくて良いだろそんなんなら。

「はぁ……どうも…」

 これなんて返すのが正解なんだよ。


 一応PVの仕事もこなす気力は残っているのか、一緒にパソコンの画面を注視してあれこれ言ってくれた。

 大半がこの子カッコいいとかこの子可愛いとか、顔のことしか触れてなかったけれども。

 まぁ使う写真を選ぶ基準にはなったからいいけどさ。

 写りが悪い写真をわざわざ選ぶとか被写体が可哀想すぎるからな。

 小瀬が止めてください、と俺のマウスを動かす手を制止させる。

 その時、俺は敏感に仕事の気配を感じ取った。

 こういう時俺の感覚は頼りになるんだ。

「これ陸上部の写真ですよね?」

「うん。そうだな」

 あーあ、なんで仕事ってあるんだろうな。

 そう、頼りになる(回避できるとは言ってない)ってやつだこの役立たず。

「まだバレーボール部来てないじゃないですか!」

 だろうと思ったよちくしょうめ。

「……行った方がいい?」

「当然です!不公平じゃないですか!」

 薄々気づいてたけどね……。

 だって毎年撮ってるもん。

 毎年PV作ってるんだろうなぁ。

 俺去年後夜祭行ってないけど多分そう部分的にそう。

 年に一回撮って、10枚超えてんのがほとんどだ。

 超えてないのは男子バレーボール部の9枚と、園芸部の7枚、ボードゲーム部の2枚に軽音楽部の1枚だ……軽音楽部って去年できたんだ……。

 毎年律儀にパソコンにデータコピーしてカメラから移し替えて……大変そうだなぁ。

 ……これ俺が今年やるのかなぁ。

 ただ、確かに写真は残っているんだけどどれも集合写真というか、文化祭前の様子などの準備期間、文化祭当日の校内の様子などが写っている写真が少なく感じる。

 この今残っている過去の写真だと俺と小瀬が目指しているPVには到底写真の枚数が足りない。

 やっぱりあまりにも写真が多すぎるから整理したんだろうか。

 それならせめて参考用にPVの一本や二本くらいは残してくれても良かったのでは……。

 まぁ既存のものばっか見てたら模倣品のオンパレードになるから改革は必要なのか。

 毎日改革してるし余裕だわ。


「ほんとに陸上部だけじゃないですか写真。なんですか?陸上部に好きな子でもいるんですか?」

 などと、マウスのホイールを回しながら画面をスクロールさせて聞いてくる。

 とりあえず冷めた目を用意してから誤解を解こう。

「はいはい、好きな人はいないっと」

 冷めた目で察してくれた。

 もしかしたら話題そのものに飽きたのかもしれない。

「……まぁ行けばいいんだろ行けば」

 どうせ撮らなきゃいけないんだし、さっさと終わらせてしまいたい。

 最初からそう言えばいいんですよ、と小瀬は見透かした上でなかなか無遠慮な物言いだ。

 精神衛生的に抵抗はしときたいんだよこっちは。


 小瀬に連れられてカメラを片手に校庭に出る。

 今日はサッカー部が活動していて、小瀬が了承を取って人を集めていた。

 集合写真と練習風景の数枚撮ればいいかな、いいよな別に。

笠真(りゅうま)ー!」

「寄るな」

 いると思ったよ。

 もういないと心配になるレベルで声かけてくるじゃんこいつ。

 陽悟(ひご)くん。その大きな声は目立つからやめようね、恥ずかしいから本当に。

 少し離れたところから聞こえる会話に耳が反応する。

「あいつが雨芽ってやつ?」

「そうそう。前トレーニングルーム来て話してたし、普通に仲良いんだと思う」

 お、君は以前陽悟と俺のことを変な目で見ていた難関の生徒だね?

 安心して俺も変だと思ってるから!

 変だから!仲良くないから!誤解しないでよね!

「みんなー!笠真の言うことに従ってー!」

 陽悟の大きな声が異様に響く、とても不気味な撮影だった。

 とりあえず舞い上がってる陽悟は今日一日無視することに決めた。


 その後もほどほどに撮影して、サッカー部はこれくらいでいいだろう。

 いやぁ仕事したなぁ。

「今日撮れなかったのはまた明日ってことで」

「じゃあ体育館行きますよー」

「……はい」

 若いうちは仕事もらえることを喜ばなきゃね!


 体育館では女子バレーボール部と女子バスケ部がコートを分けて活動していた。

「いやこれは流石に入れない」

「遠慮なんてしなくていいですよ?」

 それ君の一存で決めていいの。

 今日疲れたしこれ以上疲れそうなことしたくないよ。

 この中精神的にキツそうだし。

「男子が一人でもいたら話は変わるけど……」

「お、雨芽くん!どうしたの?」

 言って一瞬で現れるってどうなんですかね。

 神様が俺に仕事しろって言っているね絶対。

 無性に叫びたい、カラオケ行こうかな。

「……田中(たなか)か。…バスケ部、男子は後半から…って感じ?」

「そう。そろそろ交代のお知らせをね。他の部員は山内(やまうち)が指揮取ってるんじゃないかな」

「へぇ。あいつがなぁ」

 ……想像出来ない。

「はい!男子来ました!これでいいですよね?」

「……はぁ。…田中くん。ほんの少しだけでいいから時間くれないか」

「……うん…ん?」


「はーい!女バレのみんなー!写真撮るよー!」

「写真ー?」

「あれ?今日文化祭の仕事って言ってなかった?」

「まぁその文化祭の仕事の一環ってやつ!」

 楽しそうに喋ってんなぁ。

「へぇ。雨芽くん、文化祭の手伝いやってんだ」

 小瀬を女子たちの説明に充てて、その時間に俺が田中に協力を求める事情を説明する。

「そう。何故かPV作ることになってさ」

「PV!それはすごいな。全部の部活撮影するのか?」

「うん。部活と、委員会と、各クラスの様子。それを適当に繋ぎ合わせて一つの動画にする。……言っとくがあまり期待するなよ」

「えー。どうして」

「変哲が無さすぎておそらく見てる人の半分は寝る」

「めっちゃ自信ないじゃん……」

 もはや滑る方面に自信あるからね。

「はーい。じゃあ雨芽くん。よろしくお願いしまーす!」

「はーい撮りまーす」

「みんなめっちゃいい笑顔だよー!いいね!そうそうその顔!」

 そういえば集合写真なのに点呼とかしなくていいのかな。

 だって休んでる人とかいたら………。

 ……嫌な予感がしてきた。

 撮り直しとか……あぁだめ言霊ってあるから絶対それ以上は言わない、というか言いたくない。

『……すみません。撮り直しを希望している部活がいくつかありまして……。その、付き合ってもらえませんかね……』

 何故かまだ言われてないのにありありと記憶に思い浮かぶんですけど。

 バグだろバグ。

 メンテ必至、詫び石をくれ。


 不都合なことは考えないようにして、女バスの練習しているもう半分のエリアに移動する。

 はー田中いなかったらまじ肩身狭かったな。

 隣で声出してくれてる田中に感謝。

「こっちカメラでーす。はーい顔向けてー!」

 サンキュー田中。

 感謝感謝。

 よしよし。

 まぁこのまま残って後半の男子達も撮ってくか。


「雨芽くん。ちょっと…。あのー…バレー部の方に…」

 ………。

 まぁ…いいか。

 まだ問題が発生する前だし。

 というか訴える人がいなきゃまず問題にならないしな。

 というわけで暫定的に咎めないこととします。

「分かったって。最近行けてねーんだろ。後のことはやっとくから」

 小瀬は小瀬なりに頑張ってるところがあることは認める。

 各委員会とかの繋がりを見てたらそう思うのは間違いないわけなんだし。

「ありがとうございます!では!」

 と言って小瀬は元気良く走って行った。

 そうそう、適当でいいんだよ適当で。

 友達と楽しくやれたらそれでいいじゃない。

「じゃあ男子が写真撮れるようになったらまた教えてくれ」

 了解ー。と田中が応じて体育館を出て行く。

 男子たちを呼びに行ってくれるらしい。

 そうかもともと交代のお知らせのためにここに来てたんだっけ。

 ……悪いことしちゃったな。


 今日新しく撮った写真を確認していく。

 みんな素敵な笑顔です。

 多分そう部分的にそう。

 ……部活ねぇ。

「雨芽くん……で合ってるよね?…扶助部の」

「え?……あ、うん」

 顔を上げると、バスケ部の女子が1人。

 2年生だよなたしか。

 同じ階で見た記憶があるからきっとそう。

 ………。

「………?」

 声をかけてきたくせに一向に次の言葉を発さない。

 何?なんか用があったんじゃないの?

 怖いんですけど……。

「……どうかした?」

 問いかけてもこの調子だと返事はないだろうが沈黙が怖すぎる。

 とりあえずこっちから会話を始めて、それで終わらせて用事は済んだ感を演出しようそうしよう。

(さき)ー!行かないのー?」

 遠くの出入り口で男子と女子が行き違う中、一人の部員が呼んでいる。

 あの子も二年生だ。

 大きく振っている腕から手の先まで順に目を向けると、途中に見覚えのあるものを身につけていた。

 それは目の前の、咲と呼ばれた女子にも。

 久米(くめ)とお揃いってことか。

 ……そういえば最近あいつリストバンド付けてなくないか?

 最後に付けてたのは……櫛芭(くしは)の誕生日プレゼントを買いに行った時か。

 あれから付けていなくて、でもここにいる二年生達は付けていて。

 久米だけのトレードマークとか、そんな風に思っていたけれどどうやら違うらしい。

 外したってことは……まぁそういうことなのかな、言いにくいけど。

 ……あれ?

 じゃあ……それなら…櫛芭の手首を見ていた時のあの視線の意味は……?

 ………。

 ……いや…やっぱり、バスケ部は関係ないか。

 久米は一人っ子だし、そういうのに憧れている可能性は全然ある。

 それに結局は俺には関係のないことなんだし、これ以上考えてもしょうがない。

「雨芽くん!こっちはもう準備出来たよ!」

「あぁ分かった!じゃ、じゃあ」

 軽く会釈してその場を離れようとする。

 すれ違った時、小さく呟く程度の声がその口から聞こえた。

「扶助部でも……写真お願いね」

 それだけ言って、その子はその子を呼ぶ声の方向に歩いて行った。

 そうか部活全部撮るならたしかに扶助部も撮んなきゃじゃん……とか、今更過ぎることを思い知った。

 しっかしあの3人の部活をPVにねじ込むって実際どうなんだ?

 批判……はないよな別に…大丈夫か。

「雨芽くん早くー!」

「はーい」

 まぁ、機会があれば……かな。


 次の日、女子バレーボール部の写真は撮り直しとなった。

 理由は予想していた通り部員が写真から欠けていた為である。

 その欠けていた部員とは、他の誰でもない小瀬自身だった。

『私が写真に入ってないじゃん!』

 間抜けすぎんだろ……俺も含めて。

 反省も踏まえて、写真撮影は予告をしてから最低一日を空けての運びとなった……アホすぎる………。

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