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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十章 文化祭準備期間編
68/106

66.昔の関係は

「はいはーい!集合写真撮りまーす!」

 学級委員長と楽しそうにお喋りしながら人をまとめていく小瀬(おせ)

 たしかに人を誘導するセンスというか、そういう腕がある。

「生徒会と文化祭実行委員だけじゃ回らないところもこうして手伝ってもらってるんです。運営側なんで写真も残しておかなきゃですからね!」

「ほう」

 すごいなぁ。

「カメラこっちですー!目線くださいー!」

 ほんとよくやるよこいつも。

「学級委員は文化祭実行委員の補佐みたいな役回りですね!」


 そんな調子で、場所を変えて人を変えて、どんどん写真を撮っていく。

「風紀委員の皆さーん!こんにちはー!」

 誰が相手でも物怖じしないなぁ。

「風紀委員は当日の見回りを手伝ってくれるんです!」

「へぇ」


「保険委員はこの教室に集まってます!」

 会う前からテンションも上げて、嫌味なんて感じさせないし。

「設備の安全とか動作確認とか、あと入り口の検査とかを受け持ってくれます!」

「ふぅん」

 ちゃんとやってるんだなぁ。


「放送委員はですね。当日のアナウンスの補佐とか舞台裏での動きを手伝ってくれることになってます!」

 扉を開き、小瀬のこんにちはー!という声に合わせて入室する。

「写真撮りますよー!写真!」

 ……結構撮ったなぁ。

 カメラの容量を確認すると、心配の割にまだまだ余裕だった。

 そりゃそうかこれで準備日も当日も撮るんだもん。

 普段使わないとこういう感覚って身に付かないよね。

「あれ?君って」

「ん?はい?」

 声をかけてきた人は女子で……3年生だろうか。

 小瀬が隣にいるってことは委員長だろうか。

 声かけてきたってことは何処かで……。

 会ったこと……会ったことは………ある!

「あぁ、はい。お久しぶりです」

 そうだこの人扶助部を始めてすぐに依頼しに来た人だ!

 まさか覚えていてくれていたとは。

 すっかり放送委員のことなんて思考の外だったよ。


 思えばこの先輩が一番最初に依頼してきたんだよなぁ。

「わぁ。懐かしいなぁ。文化祭も……いや、実行委員?それともやっぱり部活?」

「部活です。菊瀬(きくせ)先生に色々言われまして」

 相も変わらずだよまったく。

 よくもまぁこの部活成り立ってるよなぁ。

 善意100%って感じ。

 ……今考えるとこの先輩が放送委員じゃなかったら、例えば他の委員の人だったら櫛芭(くしは)先生のことなんて知り得なかったのか。

 そうなると相沢(あいざわ)の依頼も現実より難航していたかもしれない……あくまで仮定の話だが。

 じゃあ善意90%偶然10%ってことにしよう。

 ……なんのじゃあだよ。


「やっぱり菊瀬先生かぁ。まぁそうだろうね」

 やっぱり……?

 予想できるようなことなのだろうか?

 この先輩と菊瀬先生で何か………あれ?

 この先輩……先輩………。

 ……そういえば俺この先輩の名前知らないな。

 あの時名乗らなかったし、わざわざ聞きもしなかったから名前を知る機会を逃してしまっている。

 正直今からだと聞きにくいし、どこか無難なところで会話を切り上げて…。

「……ちょっと。なんでそんな香川(かがわ)先輩と親しげに話しているんですか」

 へぇ、香川先輩って言うんだ覚えとこ。

 その香川先輩を守るように俺との間に腕を割り込み距離を作り始めた小瀬は、すごく敵意むき出しの顔だ。

「会話聞いてなかったのか。扶助部だよ扶助部。依頼されたの」

「……扶助部の活動ってそういう感じなんですね」

 この子今まで何する部活だと思ってたんだろう……。

 夏期講習の時だって先に扶助部の名前を出したのは小瀬の方だってのに、その実態を今初めて知ったかのような口ぶりだ。

 しばらく冷静になっていた小瀬だが、はっ、と突然香川先輩に抱きつき捲し立て始めた。

「香川先輩はですね!バレー部の部長であり放送委員委員長!容姿端麗で眉目秀麗!文武両道の才色兼備!人望が厚く異性からもモテモテの高嶺の花なんですよ!本来は雨芽(うめ)くんみたいなちょーっと顔が良いくらいの普通の男子が声かけていい存在じゃもがっ!!!」

 香川先輩は慣れた手つきで小瀬の口を押さえ込む。

「ごめんねぇ。この子ちょっと私へのリスペクトが強いから」

 そう言って連れて行かれた小瀬は、当たっている肌の感触に多分幸せそうに顔を埋めていた。

 なんかそういう風にしか見えなかった。


 そんなこんなで放送委員の写真撮影が終わり、再び移動。

 残す委員会は一つとなった。

「先程は失礼しました」

「あぁ……うん」

 至福の時間を過ごしたであろう小瀬は上がっている口角を何度も何度も下げようと努力している。

 明らかに失礼してると思ってないだろこいつ。

「次行く図書委員はですね、広報の役割を一部担ってくれてるんです!」

 ついに顔の処理を諦めた小瀬はデレッデレな顔で説明を始めた。

 面白いくらい不自然。

 だんだんと小瀬の人となりを掴めてきた気がする。

 思ったことがあるとすれば、

「小瀬って三年生だからって接し方変えないんだな」

 飄々とした、明るい性格。

 ふざけているようで、でも気づいたらそれが定着していて。

「そりゃそうですよー!私たち生徒会は仕事を依頼する側ですからね!」

 なんかそんなことを言いそうだなって答えがそのまま帰ってきた。

「雨芽くんにだってそうなんですよ!」

 ビシッと指差す小瀬は力強く、真っ直ぐな瞳でこちらを見つめていた。

 その仕草がさっきの様子とのギャップで、落差がありすぎて笑いそうになってしまう。

 真剣そうなので頑張って堪えるよう努力したが息が漏れて、鼻で笑ったかのような格好になってしまった。

「え、なんで笑うんですか」

 それが不服だったようで、小瀬は頬を膨らませる。

「いや、なに。副会長ってこういう人が向いてるよなーって」

 ついでに理由を付け加えると会長があんな奴だからな……。

 個人の感想ですみたいな注釈を括弧書きで付け加えといた方がいいかもしれないけど、主観では多分そう部分的にそう。

「なんですかそれ」

 意味が分からないと、そんな風に小瀬は俺から視線を外す。

 やがて外した先に見える名も知らない上級生の影を見ながら小瀬はゆっくりと答えてくれた。

「まぁ確かに年上って思って気が入ることは何度かありましたよ。その点を考えればこれから行く図書委員はいくらか気楽ですね」

 落ち着いた表情に戻った小瀬は、やはり立派な副会長だった。


 図書室に着き、小瀬が毎度のように先行して入っていく。

「写真撮りまーす!」

 その後に続いて中に入ると、そこには珍しく緒倉(おぐら)以外にも知っている奴がいた。

「あ、雨芽くん」

 久米(くめ)と櫛芭がいた。

 久米は分かりやすく声を出して反応してくれて、櫛芭は静かに頷くくらいの小さな礼だった。

 とりあえず適当に目線で存在を認知していることをなんとなく伝えて、小瀬の指示を仰ごうと声をかけようとするが、

「あ、2人ともポスターの回収終わった感じですかー?」

 ……副会長の仕事は多岐にわたるんだな。

「えぇ。全て周り終えたはずよ」

「でもまだもう少しってクラスもあって、そのクラスはちゃんとメモとったよ!」

 久米が書いたメモを受け取り、静かに考えている小瀬。

「そうですねぇ……。まだ決定じゃないですけどあとは自主的に提出してもらいましょうか。この件はクラス個々に任せても良さそうですし」

 ほんとに優秀なんだなぁ。

 この仕事に連れて行かれる前に言われた言葉を身に染みて痛感する。

「じゃあ予定通りしばらくここに保管って感じですねー。広いし置き場所もあるんで」


 その会話を聞いていた星予(ほしよ)さんが緒倉と一緒に現れて、任せてと一言。

「あ、緒倉さん!今日もかわいいね!」

 手を取りながらの軽いナンパだ。

 気楽になりすぎだろこいつ……。

「あ、ありがとうございます……?」

 緒倉に今にも襲い掛かろうとする小瀬は久米に引き剥がされ、そして今度は対象が久米に変わって、癒されるぅとかなんとか言っている。

 櫛芭も小瀬の視線から逃れるように緒倉を盾にしている。

 緒倉を盾にするって相当だぞ……。

 女子達にとって小瀬は脅威なのかもしれん。

 仲良くなるまでは早そうだけどそこからまたってやつか。


「緒倉、写真撮るからみんなを集めてくれ」

 小瀬がしばらく使えそうにないので、今までの仕事の流れから行うことを考えて協力してもらう。

 散らばっている図書委員はポスターを並べたり、しおりを作ったりとそれぞれ違う仕事をしていた。

「わかりました…!」

 キュッと唇を結び、真剣な表情になる。

 櫛芭も手伝ってくれるみたいで、撮影のための場を作るために一緒に椅子をどかしたりしてくれた。

 一方久米はというと、

「最近彼氏いなくて寂しいんじゃないー?今度二人でお茶しようよぉ。雪羽(せつは)さえ良ければいつでもいいんだからぁ。ねぇねぇ」

 小瀬からベタベタとナンパされていた。

 見境なしか。


笠真(りゅうま)くん。図書委員以外の仕事も手伝っていたのね?」

「あぁはい。まぁ雑用みたいなもんっすね」

 人が少しずつ集まり、どんな風に撮るか話し合っている。

 その人の輪を見ながら星予さんは悪いわねぇ、と言いながらどこか少し嬉しそうだ。

「やっぱり成華(せいか)ちゃんの弟ねー。姉に似て優しいもの」

「……もしかして成華も文化祭を?」

「えぇそうよー。成華ちゃんがいる年は大盛況だったんだから!」

 あり得ない話ではない。

 むしろその可能性が高いと薄々思ってはいた。

 大盛況かぁ……。

「聞いてないの?」

 意外そうな顔で星予さんは俺の顔を覗き込む。

「えぇ。特に何も…」

 まじで俺って成華のこと知らなさすぎだな、逆にすごいわ。

『まぁ成華はこういうことは聞かれでもしないと言わないか』

 ……聞かなかったしなぁ。

 菊瀬先生が出した答えを反芻しながら過去の自分を少しだけ悔いる。


「小瀬さーん。笠真くんに甘えてばかりいちゃだめよー?この子もきっとなんでもしちゃうから」

 俺の隣で突然星予さんはそんなことを言い出す。

 は、恥ずかしいからやめてください……。

「甘えてないですよ利用してるんです!」

 きっぱりと、若干胸を張っているような答え方で悪びれる様子もない。

 久米、そいつ締めていいぞ。


「雨芽くん!準備できました!」

 緒倉の声に引っ張られ、言いかけた不満もどこかへ飛んでいってしまった。

 文句を言うのはしょうがないので後回しだ。

「はーい。じゃ撮りまーす」

 パシャリと一枚。

 各委員会優劣などなく、今日の写真は全て上手く撮れていたと思う。

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