65.知っていく
扶助部の活動は文化祭の手伝い。
本日も例に漏れず会議室でお仕事だ。
現在、嫌な予感が見事的中し、パソコンに向き合いもれなく憂鬱になっている。
憂鬱の種はそれだけでなく……。
「シンデレラ?」
「そうなの。それも体育館でやるつもりなんだって」
「はー。いいんじゃね」
……まぁ俺は出ないだろうし。
もし出ることになっても仕事を言い訳に忙しいってことにしよ。
最悪の場合誰かに頼んで代わってもらうことまで視野に入れよう。
あてになる人探しとかなきゃ。
「そ…それでさ、私がシンデレラやるかもしれないんだよね」
「良かったな」
「……えそれだけ?」
「……うん」
素っ気なさすぎたか……?
いやでも他に言うことないよね?
うーん……依頼を受ける前だとどんな態度で話してたっけ。
「まぁいいや。ねぇダンスの練習付き合ってよ」
「……なんで俺がまたそんなことを」
「えー。めっちゃ嫌そう」
「だって嫌だ。ダンスなんてできないし」
「できない人の方が楽だからいいんだもん」
今度はこっちが、えー。と言う番だった。
相手探すくらいなら王子様役と練習してろよ……。
まだ決まってないのか。
クラスでどんな話してたっけ。
役決め……役決め……だめだ多分話聞いてなかったな。
パソコンの画面に集中し、話を出来るだけ畳もうとする。
諦めてどっか行ってくれないかな。
「だいたい今俺仕事中なの」
小瀬から投げられた仕事を必死こいてやってんのが見えてないのかこいつ。
というかなんであいつも仕事投げんだよ。
まだPVの仕事って言えなくもないのが救いか。
去年までの撮影した写真を見ながら、撮影場所と撮影タイミングを参考にパソコンに打ち込んでいく。
どこも忙しい中写真撮るからなぁ。
それと個人の写真だけど……意外と少ないんだな。
部活と委員会と文化祭実行委員とそれ以外がほどほどの枚数。
去年後夜祭行かなかったしなぁ……PVどんなのだったんだろう。
小瀬の指示からして、今年から形式を変えるのだろうか。
準備の段階から写真を撮ったら……なかなか賑やかなPVになりそうだな。
「そういえば櫛芭は?」
「未白ちゃんはちょっと準備を」
「雪羽さん。ポスターを集めに行きましょう」
「お?準備出来たー?行こう!すぐ行こう!」
櫛芭はクラスポスターの回収のためのファイルを持っていて、他にもそれを記録するノートや筆記具も手にしていた。
仕事ちゃんとしてんだなぁ2人とも。
なんか姿勢が違うよね姿勢が。
仕事をいただいているんだ、という気持ちで謙虚に……うーん社畜まっしぐら。
働き方改革が必要ですね……。
……おてて繋いで……もうあいつら2人でダンス練習すればいいのに…。
久米は、いつもと変わらない様子で櫛芭に飛び付き、片手に櫛芭の荷物を半分持ち手を引っ張って会議室を出て行った。
キーボードから手を離し、背もたれに寄りかかって目を瞑る。
山内は扶助部での俺と久米の関係性についてまで言及はしなかったけれど、一体どう思っているのだろうか。
そりゃあ一緒の部活ってだけだ。
他には何もない。
この繋がりが無くなれば一気に他人だ。
春に山内から依頼を受けた時は久米はまだ扶助部にまだ入っていなかったし、そこら辺は分けて考えてくれているのかもしれない。
そう考えてくれているならありがたいが……。
山内的には成功しても、失敗してもどっちに転んでも自分の気持ちを伝えたいってのに重きを置いてるみたいだし。
……でもそれを理由に自分が出来る最善のことをしないってのはやっぱり考えものだし…やはりしばらくは距離をとった方が……。
……俺が意識しすぎてるだけってのもあるのか……うぅん。
「雨芽くん!進捗どうですか!」
元気よく進捗を聞いてきた。
この仕事を頼んできた人に嫌味の一つでも付けたい気分だ。
まぁその人、今目の前にいるんですけどね。
「いーわけねーだろ」
「残念です…」
いつの間にか小瀬の緩いテンションに当てられて、こっちも軽い口ぶりになってしまった。
こうした日々の仕事のやり取りの中で分かったけど、どうも小瀬は距離の詰め方が上手いんだよなぁ。
気づけば口がよく動いてしまっている。
「これほんと一人の生徒に投げて良い仕事なの?もっとみんなで話し合うべきじゃない?」
「いやだってー、誰もやりたがらないんですもん」
「やってらんねーなこれ」
思ってることをスラスラと……は!
これが仕事だけの関係ってやつか………高校生の身分でこれを学べるとは…。
バイト先だとまじで関係って名前が付けられるほどのやつには成りはしなかったし、貴重だなぁ。
……うん、絶対に違う気がする。
「まぁ営利目的じゃないし、適当にアーティストの曲借りてスライドショーにして誤魔化しとけばいいんじゃね」
「うわー。今のところ録音して放送したいですね」
「誰のせいだ誰の」
「誰のせいなんでしょうね?」
「勘弁してくれ」
これお前の仕事だぞどうなってもいいのか。
「雨芽くんもこのPVの仕事が無ければ今頃雪羽とダンスの練習ですよねー」
口こそ手で隠してはいるが目尻や頬を見る限り絶対ニヤニヤしてる。
っていうかさっきの聞いてたのか。
投げた先の仕事も投げてそうだなこいつまじで大丈夫か。
「あ、今私のこと不安に思いましたね!」
「思ったよ」
「そこ普通、いや別に。じゃないんですか?」
「いや別に」
「喧嘩売ってるんですか?」
「買いたいならこの仕事も付いてくるけど」
「じゃあいいです」
そんなにこの仕事嫌か。
「じゃなくて!こう見えても私、結構優秀なんですよ!」
「へー」
机をバシバシ叩き、自分が有能だと小瀬は主張する。
というかそれ自分で言っちゃうのか。
「反応薄いなー…… よし!では私の優秀さを見せに、ついでに気分転換しましょう!はい!カメラ持って!」
「カメラ持ったんじゃ気分転換出来ないだろ」
俺らの仕事PV作成だぞ。
「……で、どこ行くの?」
まぁ、来いって言われて断る程のものでもない。
この子優秀らしいし。
「各委員会のところです!」
……本当に優秀そうに聞こえるんだけど。