49.繋がりとなり
『お姉ちゃんの誕生日は8月29日ですよ!覚えて予定空けておいて下さいね!』
8月29日、それが縁さんから教えられた櫛芭の誕生日の日付だ。
その日付が近づけば近づくほど、縁さんからの忘れるなという連絡が増え、準備しなきゃなという気持ちになる。
はいはい。どうせ忘れることなんて出来ない出来ない………。
と言っても誕生日か。
俺が面と向かって祝ったことがあるのって家族を抜いたら……隼真と美穂しかいないんじゃないか?
他の友達は適当にLINEで…いや適当じゃない断じて適当じゃない大丈夫心込めてる。
中学の時も誕生日当日の奴が目の前にいても簡単に言葉だけで済ましてたからなぁ。
本当にあの2人だけだ、誕生日に集まってどうこうっていうのは。
近いんだよなぁ誕生日、幸運なことに。
中学を卒業して会うことが少なくなった去年も一緒にお祝いしたし、今年もやるのかな?
スマホを机の上に置き、隣に置いてある本棚に目を向ける。
不格好で手作り感溢れる写真立てに3人の笑顔が飾ってある。
2人とも、今でもちゃんとこの写真立てと一緒に大切にしているらしい。
『……小学校の時から、薄々気づいてた。確信を持ったのはその時だったけど』
本当に…そういうことの積み重ねだ。
昔から、隼真に美穂に、他の人にだって目を向けていて…。
この写真もきっとただのきっかけ……いや、きっかけでも何でもない。
いつもと何一つ変わらないその日々を、俺が記憶しているに過ぎないんだと思う。
本当、どうでもいいのに鮮明に、今でも瞬き一つでその景色が脳裏に、瞼に蘇る。
この写真立てを作った後………。
「笠真ー、美穂が泣いちゃったぁ」
「分かってるよ。でもカメラなんてないし……」
目の前で半泣きの隼真。
というか俺も涙目だった。
というのも、この写真立てに入れる写真が欲しいと美穂がぐずったのがすべての始まりだった。
必死に代替案や気を紛らわせようと隼真と一緒に頑張ったが万策が尽きお手上げ状態。
美穂は3人での写真が欲しいというその一点だけは頑なに変えなかった。
あの時一か所に集まって泣きながら話し合っていた俺たちを周りの子たちはどんな思いで見ていただろう…。
クラス全員が写真立てを完成させ、図工の佐々木先生が質問する。
「みんなはこれにどんな写真を入れたいー?」
はい!はい!とクラス中の生徒が手を挙げて答えようとする。
当然美穂も目の前で手を大きく挙げていた。
さっきまでぐずってたくせに……。
「おじいちゃんとの写真!」
「おぉ!紅紗くん元気いっぱいだねー!」
突然の発言、佐々木先生は咎めないで褒めてしまった。
次の瞬間図工室は無邪気な子供の声で溢れかえった。
手を挙げてる人が発言ってルールにしないから…。
あとあいつ本当におじいちゃんっ子だなそれにしても。
にしても家族との写真か…。
いいよな撮ってくれる人がすぐにいるって。
俺ら3人とも両親共働きでしっかり現代社会のあれに蝕まれてるんだよなぁ。
……家族……あ。
そういえば成華がこの前スマホ買ってもらってたような…。
塾に行くことになってその連絡用に、てやつ……。
一緒に新しい筆箱も買ってたしめっちゃ羨ましがった覚えがある。
「放課後にさ、3人で成華に撮ってもらえるように頼もうよ」
今日は多分陸上部の活動日でもないし、いつもなら早く帰ってくるはずだよな。
カメラと、自分たちを撮る人、その両方を一気に解決だ。
「うん!それ良い!」
「よし、じゃあ帰ったらすぐ公園ね!」
美穂が嬉しそうに同意するので俺も自分の頭をよく思い出したと褒めたい。
「……あ」
今度は隼真が困り始めた。
言いづらそうに俯き、もじもじしている。
「……なんだよ」
「……なに?」
言わないと分からないぞ、と刺すような視線を俺と美穂が向ける。
「今日、そういえば再テスト…あった……」
「……おぅ」
こいつまじか。
「…うぅ」
あかん美穂がまた泣く。
「おい…!隼真なんとかしろ…!」
目と目を見合わせ、うなずきあう。
「あ、あのさ!町野先生ってテストのとき寝てるし!か、カンニングしてでも!」
「……悪ガキ…」
「ボソッと言うな」
町野先生って言ったら……だめだ分からん。
「再テストのとき代わりによく来てくれる人?」
「笠真はそういうテスト全然落ちないよなぁ」
非難がましく隼真がこちらを見てくる。
「はぁ、いいよねぇ笠真は。テストの難易度ミスったって先生が謝ってた漢字テストもこの前受かってたし。なんで?」
「なんで…?……なんでだ?」
………なんでだろ?
……まだそのときは教えてもらってなかったっけ。
おもちゃ箱の片づけをして初めて記憶トレーニング用の紙を見つけて…最初はただの絵だと思ってたけど。
ほら、成華が幼い頃描いた絵だとか思ってたんだよ。
だから見つけても元に戻して知らないふりして。
少し賢くなって当時を思い出したら、あぁそういうって感じ。
はぁ…考えるのも面倒くさくなってきた。
やっぱLINEでいいんじゃないか?
と、考えていた俺の浅い計画は、やっぱりちゃんと打ち砕かれた。
「一緒に未白ちゃんの誕生日プレゼント買いに行こう!」
久米からのLINE……この夏休み、中学生の時と同じくらい出かけてるんじゃないか?
高校……。
……出かけるとしたらなんだかんだあってお前が最初だと思ってたんだけどなぁ。
親が勝手に買ってきた部屋にもう1つある写真立て。
要らないと言ったんだが買ってしまわれたから仕方ない。
高校でよろしくやっているとでも思っているんだろう。
その写真の中で1人はとても笑っていて、もう1人はとても苦笑い。
相変わらずの変な写真で笑うしかない。
……いややっぱこれめっちゃ仕舞いてぇ…。