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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第八章 夏季休業編
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42.近くて遠い

 学校から電車に乗って帰り、現在自分の部屋の椅子に座っている。


 うーん……成華(せいか)にどうやって連絡しよう…。

 合唱祭の時みたいな難しい話はしないだろうし……。

 LINEでいいか!

 LINEを開くと一番上に陽悟(ひご)が主張激しく、六件くらいトークを送っている。


 ……六件溜まっているって言ったけど

 実は朝に二件未読スルーしてそこから溜まっている。

 ……ごめんな、陽悟、でも眠かったし……。


 次に俺を二次元の文化に引きずり込んだ拓本(たくもと)がいる。

 中学校で出会い、仲良くなったイケメン君だ。

 学校で一、二を争う美少年だったんだけどなー……。

 女子からの評価は複雑でした……残念系イケメンです。

 今期のアニメの話とかラノベの新刊の話とか話題はいつも尽きない。

 たまに一緒に秋葉原にも行く。

 なんなら一週間前くらいにも行っている。


 そして次の人は将棋部だった藤澤(ふじさわ)

 俺がサッカー部と兼部して入っていた部活の部長だ。

 部員は俺と藤澤の二人だったけどあの将棋を指してる時間が結構好きだったりする。

 二年生になってからはまだ会ってないけど、会ったらきっとまた将棋指すんだろうなぁ。

 プロに弟子入りしたって言ってたけどどのくらい強くなったんだろう。


 隼真(はやま)美穂(みほ)とは、まぁいつも通り適当にLINEしている。

 個別と、幼なじみ三人のグループがある。

 まぁ用途に分けて使っている。

 藤澤が二人と同じ東道高校に通っているので、たまに二人の様子を聞いちゃう。

 直接聞けよめんどくさい、とあしらわれるが結局答えてくれるので藤澤は良い奴。


 あとはまぁサッカー部のやつとか、オタクとか、愉快な仲間たちです。


 いつも通りいい感じに返信していく。

 まぁこれも日常だ。


 成華のトークを開く。

 最近可愛いスタンプを買った、と成華は使いたい欲求を存分に発散している…。

 まぁ俺相手になら別に何しても困らんしな……。

 やっぱなんか言葉だけってのも違うよな…。

 ……しゃーない電話するかー。

 連絡先から成華の名前を探して、それを押す。

 コール音が二、三度続き、中途半端なところで止まる。

「もしもしー。成華ですー」

 番号から誰が掛けてきたか分かるのに人って挨拶しちゃうよね、なんでだろう。


「もしもし。俺。笠真(りゅうま)だけど」

 うーん、やっぱり自然と名乗っちゃうよな……。

 意識してても治らんてこれ。

「なにー?どしたの?」

「あー。えっとあれ。夏休み終わったらさ、文化祭あるじゃん?」

「うん。あるね」

 ……まぁ言われた通り伝えればいいか。

「それで菊瀬(きくせ)先生が成華を誘って欲しいって言っててさ」

「え!嬉しい!是非行きますって伝えといて!あ、いや自分で送る!」

 もう少し返事考えるかな、って思ったけどノータイムだ。

 めっちゃ嬉しそう。

「分かった」

 よし、終わりだ。

 終わり終わり。ゲームしよ。


「笠真、次の日曜暇?」

「うん、まぁ」

 あ………。

 通話を切りたいがあまりにも失礼なのでたとえ家族が相手でもそんなことはできない。

「じゃあこっち来て部屋の模様替え手伝ってくれない?」

 はぁ…………。

 …はぁ……。

 通話口から顔を背けて二回大きなため息をつく。

 あーーー……。

 予想通りと言うべきか…。


「まぁ、いいよ」

 もーやだ。


 ぐーたらしていると勝手に時間は過ぎ、日曜日になった。


 考えてみたら成華が俺を頼るって珍しいな。

 今までそんなことあったっけ?

 行きの電車の中、そんなことをふと思った。


 成華は会社が用意する社員用のアパートに住んでいる。

 家賃やガス代、電気代、水道代などその他諸々、給料として渡される前に引いてくれるらしいのでお金の管理は意外と楽らしい。

 そのアパートには10時過ぎくらいに着いた。

 インターホンを押すとしばらくして、入っていいよーとLINEが来た。


 敷地の中に入り事前に言われた部屋番号の扉を開く。

「お邪魔しますー」

「ようこそー!」

 成華が少し先に立っている。


 この部屋に来るのは今回で二回目だったか。

 就職が決まった時に引っ越しを手伝ったのが一回目。

 その時は確か親も一緒だったっけ。

 アパートだし、部屋同士の境界が曖昧だな。

 リビングもどきの部屋に通され、そんなことを思った。

 部屋を見回すとまだ空いているスペースが沢山あり可愛らしい動物や、子供の時にやっていたゲームのキャラクターなどのぬいぐるみが一ヶ所にまとめられて置いてある。

 昔一緒にやったなーあのピンク玉のゲーム。

 格闘王って意外と飽きないよね。


 成華が二人分のお茶を持ちながら話し始める。

「大体はお父さんとお母さんがこっちに来た時にやってくれたんだけど、やっぱり住んでると色々足んなくてね」

 早速本題らしい。

「今日は何すんの?」

 成華は机の下にあった雑誌を取り出し、付箋の貼ってあるページを開き机に置く。

「今日はですね、これを作って遊びます!」

 わくわくさんかよ。

 ……これは…本棚か。

「なんで本棚?」

「これ見てよこれ」

 成華が席を立ち、クローゼットを開く。

 そして座ってる俺に見えるようにどいてくれた。

「あぁそういう」

 それを見てなんとなく把握した。


「暇になったら読もうと思ってた本とか、大切な本とか家から持ってきたんだけど、置く場所はあるのに置き方がなかったんだよね……」

 俺の部屋にも似たような積み方をしている教材が大量にあるしなんも言えんなこれ。

「まぁ別に誰かがこの部屋を見に来る訳でもないし、隠してあるから普段は見えないんだけど、本がこうなってるって思い出すと心が痛むんだよー……」

「まぁ、そうだよね」

 俺も成華も物は大切にするように育てられてきてるし、たしかにこういうのを見ると心が痛むのも分かる。


 床をつたいながらクローゼットに近寄る。

 その時、姿勢を低くしていたが、埃っぽさは感じなかった。

 やっぱりしっかりしていますね……。

 服などが置いてある棚も隣にあり、普通ならあまり見れそうにないがそこは姉弟なので一切問題ない。

 なんたってもう家族だし。

 今更ドキドキする方がどうかしてる。

 置いてある本を手に取り、適当に見ていく。

 ふーん……と気の抜けた声を出してしまった。

 まぁ別にいいか。


 ………。

「これ家庭科の教科書じゃん。捨ててなかったの?」

 俺が手に取ったのは、この部屋では明らかに異質で

 存在感を放っている中学生の教科書だった。

「甘いね笠真。大人になって一番必要になるのは主要科目じゃなくて家庭科だよ」

 少し偉ぶってご高説を垂れる成華は楽しそうだ。

 まぁ実際成華は姉だし、俺より大人だからな。


 小学生の時から勉強を頑張っていた成華のことを知っている俺からすると言葉には重みがあり、身に染みる。

 肝にも銘じておこう。

 特に六年生の時はすごく頑張ってた。

 中学受験するのかなってくらい頑張ってたすごい。

 なんならこの前進路の紙を見て勉強やんなきゃなー。

 と、思ってる俺よりもやっている。

 情けない弟ですどうも。

 まぁなんだかんだ全部記憶しちゃうんだよなぁ。

 そしてそれが慢心となり勉強しない一番の原因でもある。

 不甲斐ない弟ですどうも。


 パン、と手を叩き俺を促す。

「じゃあ、必要なもの買ってきて部屋で作ろっか!」

 俺はその言葉を受け、ゆっくりと立ち上がった。

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