表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第六章 小学校舞台編
38/106

36.嬉しいと思える

 太陽は雲に隠れている。

 今日の気温は夏の中では低い方に分類されるだろう。

 運動するには、まぁ悪いコンディションではない。

 普通くらい、可もなく不可もなく。


 実際に校庭に入ってみると大きさってあんま高校と変わんないのな。

 なんならこっちの方が大きいかもしれない。

 うーん、やっぱり都会にあるからかな?


 そういえば……

「ボールは?」

「持ってきた!」

 ほう、自分のボールを持ってきたんですか。

 ……準備いつからしてたんだろう。

「他にもシーブリーズとか色々持ってきたよ!」

 ほんとにいつから準備してたの……?


「軽く蹴り合うだけだから。それならいいだろ?」

 最終確認という感じで聞いてくる。

 もちろんここまできてやらないとなると陽悟(ひご)が泣くかもしれないので、

「あぁ、まぁうん」

 と同意する。


 ……はぁ。


 ……さっきは我慢できると思ったけど日差しなくても夏は夏だな……。

 暑く感じてきた。

 立っているだけで軽く汗をかいてくる。


 きっとこの暑さにもじき慣れるんだろうなぁ。

 そして来年もまた同じ暑さにきっと文句を言っている。

 多分そう部分的にそう。


 陽悟が若干の距離を取り、手を挙げて振る。

「行くぞー!」

 と大きな声を出し、ボールを蹴り上げる。

 上からくるボールをトラップして前に転がす。

 そして軽くステップを踏みながらボールを蹴り返す。


 陽悟もまた俺と同じようにトラップする。

「やっぱりあの時ボールじゃなくて人を見てただけあってちゃんと教えてもらったんだな!フォーム綺麗だよ!」

 またボールが蹴られてくる。

 それを再び同じように足で勢いを殺す。

「ああ!基礎練がしょっちゅうだったよ!走り込みも多かった!」

 ちなみにその中のいくつかは隼真(はやま)のせいだったりする。

 ボールをまた蹴り返す。


 ボールを受け取った陽悟はにやっと笑う。

 浮かせて、何回かリフティングした後蹴ってきた。

 さっきよりも勢いが強いボールは手前でバウンドし、ショートバウンドになった。

 上方向への力を殺さずに、こちらへと向かってくる力だけを抑える。

 ボールは俺の身長を超えるくらいの高さまで上がり、そして落ちてくる。

 俺も陽悟の真似をして、そのままリフティングしてボールを陽悟に蹴り返した。


「上手いじゃないか!」

 陽悟の口からそんな言葉が出る。

「三年やってたら誰でもこんくらいにはなるよ」

 あの頃は結構真面目にサッカーやってたしなぁ。

 と、色々なことを思い出してきた。

 ボールを蹴ってるおかげかな。


 ……ボールを蹴ったのはいつぶりだろう。

 隼真や美穂(みほ)とかと、遊ぶことはあっても、こうやってボールを蹴るスペースなんてないからな。

 そもそも運動すること自体少なくなってきている。

 やばいな疲れてきたぞ。

 体力の低下を実感して情けない思いになる。


 ボールが俺と陽悟の間を行ったり来たりしている。

 鋭かったり、山なりだったり。

 隼真は、サッカー続けてんだよな。

 美穂もそこでマネージャーやってて、テニスは中学の部活だけだったかな。


 何回目か分からないボールを蹴り返し、時間を確認する。

 三時過ぎ………か。

 始める時間もそんな早くなかった気がするし、妥当な時間だろう。


「なぁ!そろそ…うぉ!?」

 ボールが今までよりも早いタイミングで返ってくる。

 受け取ったボールを呆然と見下ろしていると、

「ヘイパス!」

 と大きな声が聞こえた。

 気づけば陽悟は俺を抜き去り、近くにあるゴールへと走っている。


 あぁそういう…。

 理解して陽悟の返事に答える。

「あぁ!」

 陽悟の走っている延長線上にボールを蹴り、俺も走る。


 パスをもらった陽悟は、少しずつ右に開きながらドリブルをしていく。

 俺はそれを横目に見ながらゴールへとまっすぐ走る。

 こちらをチラリと見て、陽悟はスピードを落とす。

 陽悟はコーナー付近に立った。

 ボールは少しだけ離れた場所にあり、助走をつけて蹴るにはちょうど良い位置だ。


 クロスか。

笠真(りゅうま)!シュート!」

 大きな声とともに蹴り上げられたボールは、ちょうどいい角度でゴール前に入ってくる。

 踏み込み、軸足を意識して飛んでくるボールをボレーでシュートする。

 カシュッ、という乾いた音がネットから響いた。


 ふぅ。と息を吐き、歩いてゴールに入ったボールを拾う。

 陽悟が大きく手を振りながら走り寄ってくる。

「笠真ならシュートできると思ったよ!やっぱり上手いね!」

「お前の上げ方が上手かったんだよ。俺は合わせただけだ」

 実際陽悟上手。

 すごくすごい。

「ふふっ」

 陽悟が息を優しく吐きながら笑う。

「なんだよ」

 急に笑ったのが不思議だから聞くことにした。


「なぁ笠真サッカー部に」

「それは無理」

「えぇ!今入る流れじゃなかった!?それに最後まで言ってないし!」

 そんな流れなんてない、存在しない。

 心底びっくりしたような顔をこちらに向けてくる。

 そんな顔してもダメなもんはダメだからな。


「大体……今の時期に入部させるのってすごく鬼畜だぞ……」

 もう人間関係出来上がってるだろ。

 入り込める余地がないよ。

「………たしかに。あ、いや、俺諦めないから!笠真をサッカー部に入れるの!」

「いや諦めろ。入んないから」

「えぇそんなぁ……」


 盛り上がったり、がっかりしたり、忙しいやつだな。

 ………そうさせてるのは俺か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ