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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第六章 小学校舞台編
35/106

33.見方を変えれば

 サボってるわけじゃないよ。

 適材適所。

 向き不向きがあるからね。


 押し付けたんじゃありません。

 見方で人は無限に変わるります。

 ポジティブに考えてくれ、うん。


 振り返りながら手を小さくあげ、

「じゃあ行ってきます」

 と大智(たいち)くんは言った。

 俺も手を振って挨拶しようとした、が、

「あ、ちょっと待って」

 陽悟(ひご)がこっちに向かってきている。

 まさか指差したから気づいたのか……。


 ……なんて良い顔してやがる。

 話があるのは俺じゃなくて大智くんなんだよなぁ。

「どうかしたのかなぁと思って、来ちゃった!」

 来ちゃったっておい……。

 お前を頼ってた小学生が迷子になってるぞ……。

「あぁ、あの子たちなら大丈夫。ほとんどお喋りしてるようなもんだったから」

 陽悟は笑顔を保ちながら話を続ける。

「すぐに作業を始めるさ。それにちょっと休憩したかったし」

「そうか」

 休憩したかったのか。

 頼むのが心苦しい。


 が、まぁこいつ以外解決できそうにないので

 話さないわけにはいかないだろう。

「なぁ、少し頼みがあるんだけど」

「良いよ!何?」

「お、おぉ……」

 すっげー既視感が……疲れてたんですよね?


「大智くん。ちょっとこっち来て」

 陽悟が急にこちらに来て、話しかけるタイミングを見失っていた大智くんを呼ぶ。


「さっき話していた子だ」

「え」

「あ」


 ほんとに小学生と話してたの…?

 ちょっとこの人こっち見過ぎじゃないですかね…。


 ゴホン、と陽悟が先払いをする。

「えっと、それで……どうしたら」

 まぁいいか。

 別に咎めて何か変わるわけじゃないだろうし。


「さっきまでお前が中学までぼっちだったってことを話してた」

「なんでまたそんな話を……」

 陽悟は大智くんを見て、それから周りを見て、

「あぁ、だから一緒に。なるほど」

 やはり分かりますか。

「まぁ、そういうことだ」

 陽悟は大智くんに少し屈み、目線を合わせながら

「大智くん。これは君の変わりたいという意思が大切なんだ」

 大智くんも真っ直ぐと見つめ返し視線を合わせる。

 俺や陽悟のような初対面が相手でも、話を聞く姿勢は違和感なくしっかりと作られている。

「それとまず1人。多ければ良いって訳じゃない。自分が最も信頼できる人を見つけること」

 陽悟にとっては東堂(とうどう)のことを言ってるんだろうか。


「難しく考えることなんてないよ。ただ、今話してるみたいにすれば良い」

「はい!」

「ふふっ。肩に力入ってるよ。もっと気楽に気楽に!」

 ぽんぽんと肩を叩き、笑顔を見せる。

「…どうするつもりなんだ?」

 小声で陽悟に聞く。

 無策ではないだろうから一応聞いておく。

「まだ小学生。それに一年生だ。中学生や高校生と比べると簡単だよ」

「まぁたしかに」


 感情や考えがしっかり発達した頃になると、人間関係ってのは本当に難しい。

 疑ったり、怪しんだり、負の感情がどうしても付き纏う。

「それに、笠真(りゅうま)も周りの視線には気づいているだろう?きっかけがあれば良い」

「あぁそういう」

 陽悟のやりたいことが分かってきた。

 きっかけか、たしかに今まで話してこなかったからな。


 陽悟が目線を外した。

 遠くを眺めている。


「これがまた興味そのものがなかったりしたら、話が変わってくるんだけどな」

 陽悟はついさっきまで使っていた言葉とは違った、懐かしむような、悔やんでいるような、そんな響きを感じさせる言い回しで話す。

「なぁ、もしかしてその話は」

「笠真」

 聞きたいことは、陽悟自身に遮られた。


「もう少しで、分かる気がするから」

「……何が分かるんだよ」

「その時まで、待っていて欲しい」

 俺の問いには答えず、ただ待っていて欲しいと言われてしまった。


 わからない。

 ……どうして俺なんだ。


「………俺は良いけど。弟さんはずっとお前のこと待ってるんじゃねーかな」

 将吾(しょうご)くんのあの悲しそうな目は、陽悟に向けられたものだ。

 ちゃんと伝えないといけない。

「うん……分かってる」


 ……俺も人のことは言えない。

 もうずっと待たせている。

 隠して、誤魔化して、そんなことを繰り返して時間は過ぎていった。

 罪悪感は増すばかりで一向に消えやしない。

 過去は俺を逃しはしない。

 忘れることなんて出来ないんだ。


「じゃあ俺は先に行くね。大智くんが話しかけるんだよ」

 先に陽悟が気持ちを切り替えて、大智くんと話をしている。

「形式的でも良いんだ。最初から張り切りすぎることなんてないよ。一緒に頑張ろう!」

 陽悟は拳を作り、大智くんもそれに倣い、こつんと軽くぶつける。


「じゃあ、任せるぞ」

「あぁ。任された」


 くるっと背中を向けて陽悟は歩き出す。

 大智くんはこちらを見て、深々とお辞儀をしてから程よい距離を空けて陽悟のあとをついていった。

 出会った時よりも、その後ろ姿は堂々としていて上手くいきそうな気がする。


 俺はその場を動かず、静かにそれを見ていた。

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