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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第六章 小学校舞台編
34/106

32.言い方を変えれば

 次の日。

 今日は昨日のようなことがないように、と願いながら学校に入って行く。


 適当に陽悟(ひご)たちに挨拶しながら来る時に買ったレモンティーを飲む。

 ………昨日より暑いなぁ。


 作業が始まって数分。

 陽悟は相変わらずの人気だし、久米(くめ)櫛芭(くしは)は、丁寧に一人一人に対応している。

 それでも列が出来るほどの盛況ぶりだ。

 宇佐美(うさみ)は昨日喧嘩を止めた両者の間にいて、

 楽しそうに話している。

 周りの人もあいつを中心に作業や会話に参加している。

 相変わらずだなぁ………本当に安心する。


 俺はといえば、何故か陽悟の弟の将吾(しょうご)くんに絡まれている。


「兄ちゃんと仲良いの?」

「………仲良いか。と聞かれたらちょっと難しいな」

 腕を組んで考える。

「仲良くないの?」

「え、うーん。それもどうなんだろう……」

 実際、陽悟と俺の関係ってなんなんだろう。

 陽悟は俺のことを目標だ、と言っている。


 それは最近知ったことだし、最初の頃は本当に謎の存在だったな。

 言い方変えたら知らない人だからな。

 陽悟?知らない子ですね。

 俺から見た陽悟は…本当になんと言ったら良いんだろう?


「将吾!見てこれ!なんかすっごく面白い形じゃない?」

 男子数人が将吾くんの周りに集まってくる。


 ……たしかになんか尖ってるように見えるし、丸まっているように見える変な形だな。


「お前らそれ劇で使うのか」

 将吾くんが呆れたような表情で尋ねる。

「使わないよ?偶然できた!」

 はははと男子たちは笑い、将吾くんも穏やかにふふっと笑っている。

 ………友達は多いみたいだな。

「お前らちゃんと一年生手伝えよな」

 ひとしきり笑った後、将吾くんが注意を促す。

「だって、俺らそんなやることないんだよなぁ」

 不満げに言葉を返す。

 周りの何人かもうんうんと頷いている。


 まぁそうだよな。

 主役は一年生。

 その本質を変えないために、手伝う、という形をとっている。

 やりすぎてはいけない。

 具体的な線引きも難しいためどうしても行動は消極的になるし。

 それにまた手伝う方も高学年、と言ってもまだ小学生だから遊んでしまうのは仕方ない、気がする。


 そして何より、面倒。

 実際俺、面倒だから陽悟の頼み蹴ろうとしたからな……。


「将吾だってサボってるじゃん」

 ……たしかにそれは俺も思った。

「いや、俺はあれだから。必要なあれだから」

 ……理由になってないぞ将吾くん。

 あれってなに。

「あれ、あれだよ。…兄ちゃんのこと聞いてたんだよ」


「兄ちゃん?」

「あ、あの人のこと?」

 少し遠くにいる陽悟に視線が集まる。

 今も子供たちの相手で忙しそうな陽悟は、見られていることも気づかず対応している。

「かっこいいよね」

「わかる!明るくて、優しいし!」

 チラッとこちらに男の子たちが視線を戻す。


 …………。


「へっ」

 おい今失礼なこと考えただろ。

「それじゃあまた!」

 逃げるように去って行く。


 子供ってのは無邪気で良いなぁ!

 あいつら締めようかな。


 追いかけたいところだが、隣に将吾くんがいるのでそんな大人げないことはできない。

 お前ら将吾くんに感謝するんだぞ。

「一緒に行かなくて良いのか?」

「もっと、兄ちゃんの話聞きたいし」

「……そうか」


 そこから、将吾くんは少しずつ間隔を開けて

 質問をしてくるようになった。


「どこで出会ったの?」

「高校だよ。まぁ出会っただけで、話したのはもう少し後だけど」


「兄ちゃん高校で元気?」

「元気だよ。陽キャで人気者だ」


雨芽(うめ)さんは陽キャで人気者?」

「………まぁ、その話は置いといて」


「高校で兄ちゃんと話すんだよね?」

「あぁうん。話すっつーか、話しかけられるっていうか」


「サッカー好き?」

「あぁ、まぁ普通」


「ここにはどうして来たの?」

「それはもう知ってるだろ?手伝いに来たんだよ」


「ただの、友達の弟のために?」

「…友達……まぁ、頼まれたからな」


「どんなふうに?」

「……たしか……ここに来て欲しいとかなんとか」


「………そっか」

「質問は終わりか?」

 結構話したなぁ。うん。


「………兄ちゃん、なんか変わってさ。雨芽さんのおかげかなって思ったんだよ」

「………で、どうだった」

 息を飲んで、恐る恐る聞く。

「違うみたい。雨芽さんと出会ったのは高校からだし、高校を別に受験したのは、多分自分の意思」

 良かった、俺じゃないのか。

 もう人を変えるのはごめんだ。


 ………陽悟の意思、か。

「何か知ってるのか?」

「なんにも。だから聞いてる」


「1人で悩んじゃうから。なんにも話してくれないから」

 少し、悲しそうな目をしている。


 陽悟に思うところでもあるのか。

 そう聞きたかったが、あまり人の家庭に深入りするのも良くない。

 頼まれてるわけでもないからな。


「自分の意思、なら幾分かマシだろ。誰かに変えられるより全然良い」

 陽悟を見ながら言葉を伝える。

「大丈夫。あいつは高校で上手くやってるよ」

 努力もしてるし、器用だし。


 視界の端に、少し気になる子を見つけた。


「………じゃあもう行きな。俺も仕事があるから」

「……うん。兄ちゃんのこと、よろしくね」

「おう。まぁあんま期待しないでくれよ」


 陽悟が変わるために高校を受験したのなら、俺は変わらない。

 何か基準がないと分かりにくくなるから。

 それが、俺が陽悟に出来る精一杯だと思う。


 将吾くんに手を振って移動する。


 少しずつ歩を進めるたびに、その子に近づいて行くたびに、周りの子の視線は増えていくように感じる。

 陽悟たちは忙しそうだな。

 まぁ、今回のやつは俺の方が向いてるか。

 この視線は、嫌悪や、避けているわけでもない。

 少しばかりそれに身に覚えがある。


「やぁ、何してるんだい?」

「えっと……その……」

 一人でいる男の子に声をかける。

 同時に周りを怪しまれないようにちらりと見る。

 こちらを気にしているな……。

 不安、心配。

 そして、どうなるんだろうという期待。


「……今は、劇の飾りを作っています」

 おどおどしたような、少しばかり震えながら言葉を返す。

 やはり、話してみて分かる。

 誰かが陥れたわけじゃない。

 悪意を持って疎外されているわけでもない。

 この子の、自己肯定感、自信のなさが今の状況を生んでしまっている。


 話さなければ、話したらいけないんじゃないかと暗黙の了解を感じ取ってしまう。

 心を開かなければ、あちらも心を開かない。

 距離は開き、バリアのようなものができ人は近寄りづらくなる。


 俺も入学してすぐの頃はたまに感じたなぁ。

 話した方がいいんじゃないか、みたいな。

 一人にさせていいのかな、みたいな。

 今はもう滅多に感じないけど。

 周りがまだこちらに、この子に興味を持っているうちに解決した方がいい。


 この子の意思をまず確認して、そこからぼちぼち行動するか。

 どちらにしろ早めに対処した方がいいな。


「そっか。じゃあ俺も一緒にやろうかな」

 隣に座る。

 作ってるのは……小石、かな。

 鬼ヶ島の雰囲気に合いそうな色だ。


「君の名前は?」

児玉 大智(こだま たいち)、です…」

「そっか。大智くんか」


 ………ここは聞くべきだな。

「大智くんは一人かい?」

「………うん」

 消え入りそうな声が返ってきた。

「まぁ、一人でいることも悪いことじゃないから」

 大智くんの反応は鈍い。

「一人は……嫌です」

 不意に聞こえた声は、周りの雑音にかき消されそうだった。


 一人は嫌……か。

 理由はもうできた。

 あとはこの子の勇気次第だな。

「あの。お兄さんの名前は?」

 あ、自己紹介がまだだったな。

「雨芽 笠真(りゅうま)。ぼっちだ」

 よし、今からぼっちの素晴らしいところを伝えよう。

 どっちも知らないと正しい判断はできないからな。

「雨芽さんはぼっちなんですか」

「あぁ、大智くんよりも長い間ぼっちしてる」

 まだぼっち歴二年目だけど。

 ここは先輩の余裕というのを見せてやろう。


「よし、じゃあ今からぼっちの良いところを」

「いやいいです」

 ええ……断るのはやくない?

 断固拒否って感じだったぞ今。


「一人になりたいわけじゃないんです。………親もうるさいし」

 ………親、か。


「じゃああのお兄さんに話してみな」

 陽悟を指差して大智くんの反応を見る。

 なんで?という顔をしている。

「あの人だって中学まではぼっちだったんだ」

「え?全然そうは見えませんけど」

 まぁそりゃそうだろうな。

 さっきの将吾くんの友達たちも、今も陽悟の周りに集まっている子供たちも、一人としてそんなことを考えているやつはいないだろう。

「まぁ。あんな風になれとは言わないよ。ただ、あれくらいわかりやすい方が良いかなって思って」


「学校変えるくらいの気持ちでやれば、なんとかなるんじゃねーかな」

 陽悟みたいに。

 あいつもきっと苦労したんだろうな。

 俺はもちろん、将吾くんさえ知らないところで、ずっと頑張ってきたんだろう。


 この子の話を聞いたら、少しは陽悟も自分のことを話してくれるかもしれない。

 こっからの話は陽悟の方が向いているだろうし。

 とりあえず、多くの人と関わらせてみよう。

 繋がりは、またきっと新たな繋がりを生む。

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