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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第六章 小学校舞台編
32/106

30.過去の記憶

挿絵(By みてみん)

 あらかたの話が終わり、小学生は各自、作業に入って行く。


 小道具を作る者。

 劇の練習をする者。

 背景を描いている者。


 高学年の五年生、六年生が一年生を側で支えて、その後ろから見守るくらいの気持ちで高校生はいる。

 俺は床で作業している人の邪魔にならないように気をつけて歩いて、ある一人の女の子のところに向かっている。


 宇佐美 風夏(うさみ ふうか)

 中学生の時、同じ学校に通っていた同級生。


 誤魔化さないで言おう、元カノである。


 クラスが三回連続同じで、三回連続最初の席が隣の奴。

 その度に、惹かれて、憧れて、告白した。

 その結果、三年生のときに付き合う事になり彼氏彼女の関係になった。


 ………でも。


「久しぶり」

「久しぶり」


 逃げてしまったのにまた会うなんてな……。


雨芽(うめ)は、どうしてここに?」

 ………そうだよな。


陽悟(ひご)ってやつに頼まれた。まぁ部活で仕方なく、な」

「部活で小学校?」

「扶助部って言うんだけど」

「扶助部?」

 まぁ、分からんよな。

「人を助ける活動をする部活。学校の先生に頼まれて始めた」

「………へぇ」

 宇佐美は理解したのかしてないのか分からない声を出す。

 まぁ俺が仮に逆の立場だとして、説明されて理解できるか怪しいが。


「雨芽が通ってる高校ってどこだっけ?」

京両(けいりょう)高校。宇佐美はどこだっけ」

「…………。私は忞歩(ぶんぶ)高校。……てことはまぁまぁ近いね」

 数秒、少しの間だけ宇佐美は黙って答えた。

「近いって言っても区同士ならほとんどそれ言えるだろ」

「そうだね」

 宇佐美は笑って首肯する。


 付近に高校ならいくつかある。

 何もおかしいことはない。

 だから近いわけではない。普通。普通の距離。


 この距離感で間違ってないはずだ。

 久しぶりに会った中学の同級生、その会話を。


 今度は十数秒くらい時間を空け、宇佐美は話す。

「……お姉さんは元気?」

 ………………。

「あぁ。元気だよ」

「そっか」


「実はまだ結構怒ってるよ。あのこと。………仕方ないにしてもね」

 ………良かった。

 一番嫌なのは、許されることだった。

 ……俺が、悪いのだから。


「まぁ、この話は時間ある時にするよ」

 宇佐美は少し遠くで作業している子供たちに顔を向けながら言う。


 宇佐美は話が終わってから、いや、話している途中からずっと同じグループの子供たちを見ている。

 そこに何かあるのか?と、思い俺も見てみる。

 しばらく見ていると、何やら険悪な雰囲気になって行く。

 男の子が二人。

 その周りの子も空気を感じ取ってか、静かになっていく。

 

 瞬間、一人の男の子の手が振り上げられた。

 手には小さな木材が握られている。


 まずい…!

 壁にもたれていた姿勢を直し体を動かそうとするが、この距離では間に合わない。


 力に任された一撃は、右腕から振り下ろされる。


 パシィッ!


 振り下ろされた腕が掴まれた。

 俺も、子供たちも、その腕を掴んだ主を見る。


 宇佐美………!


 あわてて横を見ると、さっきまで隣にいるものだと思っていた宇佐美が居なくなっている。

 こうなることを予感して……。


 もう一度宇佐美と子供たちに目を戻す。


 ………!!


 …………はぁ………。

 思わずため息が出てしまう。

 この離れた場所から見る景色。


 中学の頃。

 隼真(はやま)の背中から見たものと重なった。


 今よりまだ少し幼かったあの日。

 宇佐美は変わらずそこに立っていた。


 やっぱり、眩しいよ。


 あの頃のままだ。

 宇佐美は、優しくて、強くて、正しかった。


 宇佐美、どうしてそこにいることができるんだ。

 どうしてそこにいられたんだ。


 俺は、宇佐美に憧れていた。


 ずっと。


 あの日からずっと。

挿絵は右側が宇佐美風夏。

左側が雨芽笠真です。

中学で色々ありました。

後書きでは多くは語らないようにしてます。

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