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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第六章 小学校舞台編
31/106

29.暑い夏の

 終業式を終え、夏休みに入る。

 暑い夏だ。


 陽悟(ひご)の弟、将吾(しょうご)くんが通うこの環航(わこう)小学校。

 小中高一貫校で、偏差値が高めの学校である。


 この学校では一年生が親睦のため夏休みに劇をやる。

 そして劇をより良いものにするため、高学年の五年生や六年生が手伝う仕組みらしい。

 小学校でやる今回の劇は桃太郎らしい。


 以上が、事前に陽悟からLINEで聞いた内容である。


 学校のURLをもらい、アクセスを調べて電車に乗る。

 電車の中は涼しくて良いな。

 電車の中の冷気を精一杯感じていると、目的の駅にすぐ着いてしまった。

 降りると外の暑さに、顔が歪み、行きたくねぇなぁ…。

 という思いになる。


 駅から離れ、道を歩く。

 道は綺麗に舗装されていて、歩きやすく、周りの建物も高い造りの物が多い。

 流石の暑さなので途中でコンビニに寄り、レモンティーを買って行く。


 小学校に着いた。

 入り口にこの学校の先生が立っている。

 靴を持ってきたものと履き替え、袋に外履きを入れる。

 生徒手帳を見せて、劇を手伝いに来ました、と伝え、用意されていたであろうネームカードを渡された。

 机で自分の名前を書き、紙を小さなファイルに入れて首から下げる。


 劇は体育館でやるようで、準備もここで行なっている。

 体育館に入ると、小学生が前に集められて、先生の話を聞いている。


「あ、雨芽(うめ)くん!」

 横から声が聞こえる。

 見ると、体育館の入り口からだと死角の場所に、壁に寄りかかって久米(くめ)が立っていた。

 その横に櫛芭(くしは)もいる。

 なんでいるの。

「こんにちは、雨芽くん」

 櫛芭に挨拶をされ、あぁ。と返す。

 陽悟はどこにいるんだろう、話を聞かなければ。


「雨芽くん!この学校ウサギいるよ!ウサギ!」

 久米はスマホを手に持ち近くに立ち、ここで撮ったウサギの写真を見せてくる。

「そう、可愛い可愛い」

 慈愛の心を持って受け流す。

 ウサギ良いよね。うん。


 まぁウサギ飼ってる学校は珍しくないよな。

 小動物を飼ってる学校ってのはよくある話だ。

 俺が通ってた小学校でもウサギを飼ってたらしい。

 らしいって言ったのは見たことがないからだ。

 ちょうど俺が入学する前に死んでしまったらしい。

 事故って噂も聞いたけど、真偽は分からない。


「あ!笠真(りゅうま)おはよう!」

 陽悟がこちらに歩いてくる。

「あぁおはよう」

 久米と櫛芭が近くにいるので小声で聞く。

「なんであの2人がいるの」

「扶助部として頼んだし、呼んだ方がいいかなって」

 ああ、そう………。

 そういえば確かにあの時扶助部として頼む、とか言ってたな。


「もしかして、レモンティー好き?」

 陽悟は俺が手に持っていたレモンティーを見てそう言う。

「あぁ。まぁ普通に」

「前一緒に食べてた時も飲んでたからさ。そう思って」

 陽悟はよく覚えてるな。

 普通は人が飲んでる物とか気にならないと思うけど。

「おいしい?」

「まぁ、普通」


 改めて小学生の方を見る。

「陽悟の弟はあそこにいるのか?」

「うん」

 体育館の前では、先生が話を終えて、マイクを1人の女の子に渡すところだった


 …………。

 ………え?

 なんで……どうしてここに………。


 陽悟は俺がずっと前で話している女の子を見ていることに気づいたらしく、

「あの人は宇佐美(うさみ)さんっていう人だよ。あの人も俺と同じでこの学校に弟がいるみたい」

 弟がいたのか。

 しかも運悪くこの学校にいるなんて。

「知ってるのか?」

「あぁ。中学が同じだ」


「この学校に手伝いに来た人に、前で話してほしいって言われてな。俺は笠真が来る前に話しちゃったけど」

「今は宇佐美の番ってことか」

 陽悟の説明に俺が返す。

「少し話したことがあるけど、優しい良い人だと思ったよ」

 陽悟はそう言う。


「あぁ、すごく優しい」

 分かってる。俺が1番分かってるよ。そんなこと。

 すぐ、側にいたんだから。

 俺は、その場所にいたんだから。

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